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第51回「大宅壮一ノンフィクション賞」発表&選評

〈受賞作〉

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』 (春秋社刊)

正賞 100万円 副賞 日本航空提供の国際線往復航空券
公益財団法人 日本文学振興会

選考経過

第51回大宅壮一ノンフィクション賞選考委員会を、6月11日午後3時から文藝春秋ビルで開きました。梯久美子、後藤正治、佐藤優、出口治明、森健の5選考委員(50音順)が出席し、2時間に及ぶ討議を行い、頭書の通り授賞が決定いたしました。

受賞作以外の候補作は次の4篇でした。

常井健一『無敗の男 中村喜四郎 全告白』(文藝春秋)、濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社)、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)、宮下洋一『安楽死を遂げた日本人』(小学館)。

これらの作品は2019年中に刊行されたノンフィクション作品全般から予選を通過したものです。

受賞の言葉

写真の送付

小川さやか

グローバルな交易のしくみ、シェアリングのしくみ、確固たる信頼がなくても互助が回るしくみ。様々な「しくみ」を探究することを通じて、私が知りたいことの一つは、どこまで無条件でも人びとが社会を築いていけるかにあります。法や規範、資本や経歴、信頼や友情、住所や名前。あるいは「裏切り」や「失敗」など一般的には否定的に捉えられる諸々の出来事。チョンキンマンションのボスは、私たちが人間関係を築いたり経済を動かしたりするために重視している条件を絶妙な「いい加減さ」で受け止めることで、社会や経済のなかに「遊び」を生みだす知恵を教えてくれました。

人類学のエスノグラフィ(民族誌)でこのような歴史ある賞をいただけたことをたいへん光栄に思うと同時に、ノンフィクションという分野の奥行きの深さをいかにして今後の自身の研究や執筆活動の新境地へとつなげていくか、身が引き締まる思いでいます。アフリカやアジアの異なる世界に身をおいて人びとの生活や生き方を学ぶ中で実感することは、社会や経済にそうである必然性はなく、それをどのように形づくるのかは一人ひとりの行為とアイデア次第なのだということ、一つの望ましい世界よりも多様な世界が同時に存在していることのほうが豊かであることです。

人類学は確かにいまここに存在している、あるいは存在していた異なる世界を開示する学問です。拙著が誰かにとってオルタナティヴな世界を想像するアイデアの一つになれたら、うれしく思います。

1978年生まれ。愛知県尾張旭市出身。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程指導認定退学。2011年、『都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)で第33回サントリー学芸賞を受賞。16年、『「その日暮らし」の人類学―もう1つの資本主義経済』(光文社新書)刊。

大宅賞選評 <到着順>

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