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ケイトリン・ローゼンタール著 川添節子訳「奴隷会計」 本当は怖い「減価償却」の歴史 評者・片山杜秀

本当は怖い「減価償却」の歴史

減価償却。英語のディプリシエイションの訳語であろう。営利活動にはしばしば大金を要する設備投資が伴う。工場を建てる。機械設備を揃える。将来にわたる大きな利益を見込んで大胆な出費をする。しかし、その出費を単年度の収支計算の中にまとめて入れ込んで処理しようとすれば、見かけが宜しくない。出費に見合った儲けが出てくるのは、たいてい先のことなのだから、単年度では収支のつり合いがとれない。大赤字を出したように見えてしまうかもしれない。

そこで減価償却。工場なり機械なりが役立ってくれる年数をなるたけ客観的に想定し、その幅の中で出費を適当に多年度に割り振って計上してゆく。そうすると企業なり何なりの10年か何十年かの計が、単年度の会計報告にそれなりに合理的に反映するわけだろう。

すると、この減価償却という概念を、誰がいつ発明したのか。19世紀の英国の鉄道会社ではないかとされてきた。蒸気機関車や鉄路や関連施設。鉄道事業の初期投資はとりわけ膨大である。設備取得の費用を耐用年数で割る工夫でもしなければ、帳簿が成り立たない。だから鉄道会社が真っ先に減価償却の理屈を発明した。これが通念であろう。

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