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平松洋子さんの「今月の必読書」…『小池一子の現場』

アートをつうじ社会を揺さぶり続ける開拓者の足跡

日本には小池一子がいる。

時代を切り拓いてきた女性を挙げるとき、まず小池一子の名前は外せない。一貫してクリエイティブの現場を歩みながら、ジェンダーを超え、仕事のジャンルを超え、アートや言葉をつうじて社会そのものに影響を与え続けてきた人物。85歳を迎える今年、「東京ビエンナーレ2020/2021」総合ディレクターを務め、さらに現役を更新する。

本書は、小池の全仕事を俯瞰するものだが、自伝やアーカイブとは一線を画する異色の出来映えだ。

多彩な仕事の内実に踏み込むと同時に浮上するのは、日本のクリエイティブの歴史。そのための仕掛けを随所で試みる編集の手腕が光る。小池の活動と時代背景の接合点を、ライターとして保田園佳が的確な筆致で解説。さらに、ポスターやカタログをはじめ広告や展覧会関連の印刷物、プライベートなスナップショット、展覧会場の写真、折々の雑誌記事など、時代の証言ともいうべきビジュアルとの補完関係が入念だ。その流れに沿って挟み込まれる小池自身の語り、新聞や雑誌に寄稿した文章、未発表の手書き原稿やメモ、脚註……さまざまな要素をシャッフルしつつ、個人と時代を重層的に肉づけしてゆく。

タイトルが表すように、小池の仕事の拠点は、まず「現場」にある。冒頭で紹介されるのは、2016年から4年間、館長を務めた青森県の十和田市現代美術館のありかた。公立の現代美術館館長に就任するニュースを聞いたとき、私はおおいに快哉を叫んだものだが、ちょうど昨年十和田を訪れたとき足を運び、街並みや市民生活と現代美術がごく自然に融合している様子にいたく心を動かされた。

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