おふくろの話__改_

山内マリコさんのおふくろの話。

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、山内マリコさん(作家)です。

好きなことをしなさい

 子供時代は昭和後期、思春期は平成初期だった。サラリーマンの父親と専業主婦の母親、それに子供2人が、当時のスタンダードな家族像。

 私も2つ上に兄がいる。小学生のころを思い出すと、半分くらいは兄とごろごろテレビを見ていた記憶である。夕飯どき、食事の支度にテンパった母をよそに、私たちは殿様みたいにふんぞり返ってテレビに夢中だった。8時か9時を過ぎて父が帰ってくると、元気いっぱいに「おかえりなさい」を言って歓待する。母は文字通り、そういった幸せな家族を“支える”存在だった。

 典型的核家族でぬくぬく育ちながら、そのくせ私は母子家庭の友達の、働いているお母さんが羨ましかった。

 ある日、こんなことがあった。

 働く母親に憧れるあまり、母に突然、「なんでお母さんは働いてないの? 外で働く甲斐性がないんじゃない?」と言ったのだ。なんて恐ろしい物言いだろうと震える。しかしこの強烈な言葉が、まったく悪意なく、自分の口から、たしかに出た。

 言い捨ててプイッと自分の部屋へ戻った私の元に、父がやって来た。「お母さんに謝れ!」と母のところへ連れて行かれた。母は泣いていた。母が泣いているところを見たのははじめてだった。

ここから先は、有料コンテンツになります。今後、定期購読していただいた方限定のイベントなども予定しています。

★2020年1月号(12月配信)記事の目次はこちら

この続きをみるには

この続き: 640文字
この記事が含まれているマガジンを購読する
政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、心揺さぶるノンフィクション……発行部数No.1の総合月刊誌『文藝春秋』が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツをお届けします。シェアしたくなる教養メディア。

文藝春秋digital

月額900円

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
5
シェアしたくなる教養メディア。100年近くの歴史がある総合月刊誌「文藝春秋」が、あなたの人生を豊かに彩るコンテンツを毎日お届けします。

こちらでもピックアップされています

文藝春秋digital
文藝春秋digital
  • ¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事&ウェブオリジナル記事が読み放題。2019年9月号以降の過去記事もアーカイブ。記事単体の購入よりもお得です。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。