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千葉一郎「父が流した血の跡」

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文・千葉一郎(ちばあきおプロダクション取締役社長)

父・ちばあきおの代表作『キャプテン』の連載開始から50周年となる今年、生前の父を知る多くの方々に取材して『ちばあきおを憶えていますか』(集英社)を上梓することができました。父が亡くなったのは、ぼくが小学3年で、9歳の誕生日を祝ってもらった直後のこと。ですから、長男でありながら、ぼくのなかにある父の思い出は僅かなもので、伯父であるちばてつやをはじめ、多くの関係者からの証言を集めなければ“ちばあきおの思い出”を1冊にまとめることはできなかったのです。

以前にも父の評伝を作りたいというオファーは、母のほうにいただいていたようです。しかし、家族にとって、まだ父の死のショックが癒えていなかったころでもあり、そのときはお断りさせていただいたそうです。父やぼくたち家族のことをよくご存じではない方に評伝をお願いするのは抵抗があったからだと聞いています。

そもそも、ぼくは父の死後も長い間、その作品を読むことができずにいました。てつや伯父も、その作品やエッセイのなかで父の思い出を折りに触れて語っていますが、詳細については触れていません。それも、ぼくたち家族への配慮からだったはずです。

そんな状況が変化したきっかけは、自分が父の享年(41)を越えたことだったように思います。そのタイミングでぼくは、それまで母が守ってきた、ちばあきおプロダクションを引き継ぎ、改めて父の遺した数々の作品と向き合うことになりました。それまで「家族を残して逝ってしまった父」として捉えていた存在が、多くの読者に愛された漫画家・ちばあきおとして浮かび上がってきたのです。

拙著では、終戦直後、まだ幼かった父たち4人の兄弟が祖父母に連れられて満州から日本に引き揚げてきたときの苦難も証言をもとに書きましたが、やはり父は懸命に生き、漫画を描き、自分だけの作風を確立するために必死でもがき続けたひとりの表現者でした。その当たり前の事実に気づき、父の死は悲痛なものだったかもしれないが、それよりも父が生き、そして最後まで描き続けたことを改めて多くの人に知ってもらいたいと考えるようになったのです。

ただ、企画がスタートしたタイミングで世界をコロナ禍が襲いました。取材は思うように進まず、実際に本が出来上がるまで、足掛け3年。取材にご協力いただいた方々に改めて感謝申し上げます。

それでも、本が出来上がってみると「あの方にも話を伺えばよかった……」という思いも残ります。たとえば、同じ漫画家として父と親しくしてくださった本宮ひろ志先生や、永井豪先生。本宮先生は、“ジャック・コニクラウス”の異名をとった父とゴルフの好敵手でした。また、永井先生の事務所の社員旅行に、父はなぜか同行していました。それほど親しくさせていただいていたのです。

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