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佐藤優のベストセラーで読む日本の近現代史 『日本共産党の研究』立花隆

日本共産党は「普通の政党」なのか?

本誌12月号掲載の拙稿「権力論――日本学術会議問題の本質」に関して、11月19日、「しんぶん赤旗」(以下「赤旗」)が、「フェイクの果ての「赤旗」攻撃/菅官邸を擁護する佐藤優氏の寄稿」(三浦誠社会部長署名)と題し、評者を名指しで非難する記事を掲載した。「赤旗」は、日本共産党の公式の立場を反映する媒体だ。共産党が評者に関して、〈佐藤氏を知るメディア関係者は、「官邸の代弁をしている」といいます〉という印象操作をしている。評者が「官邸の代弁をしている」などというのは事実無根なので、この機会に反論しておく。「赤旗」は記事の冒頭でこう記す。

〈元外務官僚で作家の佐藤優氏が『文芸春秋』(12月号)への特別寄稿で、菅義偉首相による日本学術会議への人事介入を報じた「しんぶん赤旗」のスクープが、事態を混乱させた原因であるかのように書いています。「文春オンライン」も、「赤旗のスクープで交渉の余地がなくなった」との見出しで紹介記事を載せています。/その趣旨はこうです。/――「赤旗」に出なければ、任命拒否の内示を受けた時点で学術会議の山極寿一会長(当時)がすぐにかけ合えば、「官邸と学術会議の間で交渉の余地はいくらでもあった」。/――菅首相や官邸中枢が主導的な役割を果たしたと思えず、“もらい事故”だった。/――菅首相には「学問の自由」に介入する意図はなかった〉

評者は「赤旗」の非難を受けて「権力論」を読み直してみたが、書いた内容を変更する必要をまったく感じていない。「赤旗」の論拠こそ破綻している。

〈スクープの端緒は、松宮孝明・立命館大学教授が、任命拒否されたと9月29日にフェイスブックで公表したことです。この事実について「赤旗」は隠していませんし、公表もしています。『文芸春秋』と同時期に発売された『世界』(12月号)は、松宮教授が公表していると正確に記しています〉

問題は「赤旗」が端緒情報をどこで得たかではない。松宮氏以外の学者を菅首相が任命しなかった事実を「赤旗」がどのように知ったかだ。この点について、「朝日新聞」の取材に対して、小木曽陽司「赤旗」編集局長が述べた内容が興味深い。

〈小木曽氏によると、取材のきっかけは任命を拒まれた学者の一人がフェイスブックに書き込んでいた情報。共産党参院議員がシェアしたのに小木曽氏らが気付いた。記者数人で一斉に取材し、1日で原稿を完成させたという〉(「朝日新聞デジタル」11月28日)

松宮氏がフェイスブックに自らが学術会議メンバーに任命されなかった事実を記したのは9月29日だ。それ以外の人の情報に関して、小木曽編集局長自身が、「記者数人で一斉に取材し、1日で原稿を完成させた」と述べている。この時点で、開示されていない情報を「赤旗」は何らかの方法で入手したのだ。首相官邸から見れば、これが「情報漏洩」になる。そもそも政府が秘匿する情報に関する「スクープ」は、政府からすればすべて「情報漏洩」である。「情報漏洩」をいかに巧みに官僚に行わせ、国民の知る権利に奉仕するかがマスメディア関係者の職業的良心だ。もっとも「赤旗」の場合、目的は国民の知る権利に奉仕することではなく、日本共産党の「党益」(日本における共産主義革命の土壌整備)に奉仕することだ。日本共産党は、破壊活動防止法の調査対象になっている革命政党だ。革命政党の「党益」のために評者を非難する必要があったのだろう。

「党益」第一の言論

三浦誠「赤旗」社会部長は、〈「赤旗」に佐藤氏から、事実関係について問い合わせはありません。当事者に取材せぬまま、“情報漏洩”と不正に情報を入手したかのように虚偽の内容を書いています。/根拠を示さず、事実をゆがめて、政権の行為を正当化する――。典型的なフェイクニュースの手法です。学術会議問題では、与党政治家らがネットでデマを流し、あたかも会議側に問題があるかのように“世論誘導”をしています。佐藤氏の寄稿も、それらと同一線上にあります〉と評者を非難する。

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