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“コロナ対策の顔”西村康稔を動かす官邸の今井補佐官・佐伯秘書官|森功

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※本連載は第12回です。最初から読む方はこちら。

 1月15日に新型コロナウイルス肺炎を法定感染症に指定し、出入国制限に乗り出すなど、いち早く対策に乗り出した台湾の蔡英文とまではいかなくとも、1月30日に設置を閣議決定された新型コロナウイルス感染症対策本部が機動的に機能すれば、違った展開になっていたかもしれない。欧米に比べ日本の感染者が爆発的に増えない理由は謎だが、政府の対応はアジア諸国の中でも格段に見劣りする。

 コロナ対策の司令塔と位置付けられている対策本部は霞が関の中央合同庁舎8号館に設置され、本部長に内閣総理大臣の安倍晋三が就任。副本部長には内閣官房長官の菅義偉や厚生労働大臣の加藤勝信、加えて新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する事務を担当する国務大臣として経済再生担当大臣の西村康稔が抜擢された。対策本部の本部員としてすべての国務大臣が就き、名実ともに政府あげてコロナ対策に取り組む陣容をアピールしている。が、前回で触れた通り、司令塔としての動きが遅く、しかも一体感がない。

 たとえば西村が対策本部の副本部長に就任したのは、3月17日の改正閣議決定に基づいている。すでに諸外国がコロナ対策に乗り出してからひと月半も経過している。

<先程の閣議におきまして、新型コロナウイルス感染症対策本部について、新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する事務を担当する国務大臣を副本部長に加える改正が決定されました。今後、担当大臣として、そして対策本部副本部長として引き続き関係大臣と連携しながら、この感染拡大防止に、そして早期終息に向けて全力で取り組んでいきたいと考えているところです>

 本人が記者会見でこう述べているように、それまでコロナ対策は厚労省が中心となり、大臣の加藤が前面に立ってきた。が、この時点から新たに対策本部の副本部長となった西村が政府のコロナ対策の顔となる。ある厚労省の職員が話す。

「むろん表向きは対策本部長の安倍総理が西村さんを担当大臣に任命していますが、事実上、西村人事をおこなったのが今井(尚哉)首相補佐官だと言われています。1982年に旧通産省に入った今井補佐官は85年入省組の西村さんの3年先輩にあたる。経産省主導でコロナ対策をするため、西村さんの起用を総理に進言したのでしょう。西村さんは兵庫県の淡路島が選挙区で、島に施設をもつ人材派遣のパソナとも近く、パソナの南部靖之社長は安倍総理や昭恵夫人と親しい。なので、今井補佐官も推しやすかったのではないでしょうか」

 通産官僚時代の西村は環境立地局調査官を最後に退官しており、必ずしも省内のメインストリームを歩んできたわけではない。前経産事務次官の嶋田隆や元資源エネルギー庁長官の日下部聡とともに「花の82年入省三羽烏」と呼ばれた今井に比べ、官僚時代はパッとしないが、今井にとってはむしろそのほうがコントロールしやすいと考えたのかもしれない。

 西村自身は神戸大学付属明石中学から灘高校、東大法学部というエリートコースを歩み、高校時代は野球部、大学時代はボクシング部で活躍したスポーツマンでもある。灘高校時代の13年後輩には、首相秘書官の佐伯耕三もいる。佐伯も98年4月、今井や西村と同じ東大法学部から旧通産省入りし、今井に引き立てられて第一次安倍政権時代に首相秘書官補として官邸入りし、やがて永田町や霞が関で「総理のスピーチライター」として知られるようになる。

 目下、コロナ対策はこの3人が動かしているといっていい。というより、今井・佐伯の政策を西村が受け、発表している。

 その今井が初めに打ち出した政策が、2月27日の小中高の学校の全国一斉休校である。その2日前の2月25日に「学校の休校は感染の広がりに応じて都道府県で判断する」と発表したばかりの新型コロナウイルス感染症対策基本方針を、わずか2日でひっくり返したことになる。あまりに唐突なこの小中高校全国一斉休校は、基本方針発表のすぐあとのロイター報道が引き金だとされる。25日午後2時42分、「'Where's Abe?' critics ask, as coronavirus spreads in Japan」(日本のコロナウイルス拡大の最中、安倍はどこにいった?と評論家が尋ねる)と題した記事が配信され、それまで無関心にすら思えた首相が俄然やる気を出した。そうして27日に開かれたコロナ対策本部で次のように発表し、政治決断だと鼻を高くする。

「子どもたちの健康・安全を第一に考え、多くの子どもたちや教職員が、日常的に長時間集まることによる感染リスクにあらかじめ備える観点から、全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請する」

 だが、全国一斉休校は専門家会議にも諮らず、文科省にすら事前説明がない。官邸から事務次官の藤原誠に伝えられたのは、当の27日の午前中だ。藤原は18年10月、加計学園問題を告白した元事務次官を揶揄し、「面従腹背をやめましょう」と宣言して新たに事務次官に就任した官邸寄りの官僚と目されてきた。だが、全国一斉休校については何も知らされていなかったという。

 コロナ対策は限られた官邸官僚たちによって進められ、迷走していく。(文中敬称略)

(連載第12回)

■森功(もり・いさお)  
1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。08年に「ヤメ検――司法に巣喰う生態系の研究」で、09年に「同和と銀行――三菱東京UFJの闇」で、2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。18年『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』、『平成経済事件の怪物たち』、『腐った翼 JAL65年の浮沈』、『総理の影 菅義偉の正体』、『日本の暗黒事件』、『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』など多数。
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