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人口動態から予測する次なる覇権国家はどこか

文・ポール・モーランド(人口学者・ロンドン大学)

 ブレグジットで揺れるEU、超大国としての翳りが見えるトランプのアメリカ、冷戦には負けたがプーチンという指導者が現れたロシア。そして、アメリカの新ライバルとしてテクノロジーと内需で存在感を増す中国。人口世界一の中国に数で追いつきつつあるインド。

 果たして、これからの世界をリードするのはどの国、もしくは地域なのか。ロンドン大学の人口学者である私は、人口動態という観点から、次なる覇権国家を予測してみたいと思う。

 というのも、人類の歴史を振り返ってみると、人口を制するものが世界を制してきた、といってよいからだ。新著『人口で語る世界史』(文藝春秋刊)では、人口の大変革期にあたる直近200年を、人口という観点で叙述してある。

 たとえばアングロサクソンが世界を制覇できたのは、19世紀はじめに英国が産業革命に成功し、かつてない人口増を背景として、新大陸、オーストラリア、ニュージーランドなど世界各地へ植民できたからだ。

 そんな英国を猛追したのがドイツとロシアである。「われわれを救うのは哺乳瓶」と発言したヒトラーも、人口の重要性を理解していた(ただし彼が採用した優生学は、一方では人口増と矛盾したのだが)。人口増への脅威が、各国を大戦へと駆り立てた一面は否めない。そしてドイツを第2次大戦で破ったのが、兵士となる成年男性人口のボリューム期を迎えていたソビエト連邦だった。当時は、「人口」が、「経済力」「軍事力」に比例しやすかった。

 もちろん、人口だけが歴史を決めるわけではない。革新的なテクノロジー、医療の進歩、政治・経済、女性の高等教育と自己決定権、強いリーダーたち、戦争、一般民衆の動向などが、人口増減と密接に関係している。これら様々なファクターを加味したうえで、あらためて人口が国家の盛衰にどのような影響を及ぼしてきたかを分析してみたい。ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国、日本、インド、サハラ以南アフリカ、の順で検証してゆこう。

 今まさにブレグジットで揺れているヨーロッパ。しかし、100年前はブリティッシュ・エンパイア(大英帝国)が、世界の覇権をしっかりと握っていた。当時のヨーロッパ大陸は人口増加中であり、若年層が多かった。それゆえ、好戦的だった(いわゆる“ユースバルジ”と呼ばれる現象が起きていた)。だが大戦後は、西洋で最も人口の多いアメリカへ世界の主役を譲った。そして、世界で最も出生率が低く、最も高齢化が進み、人口増加速度が遅い地域へと変貌した(ちなみに現在、日本をはじめとする北東アジアに同じ現象が起きており、一部ではヨーロッパを追い越している)。ヨーロッパは、文字通り老いつつある大陸となっている。

 ブレグジットの原因のひとつとしてあげられるのが、現代ヨーロッパにおける、人種・民族の流動性だ。データによると、ブレグジット賛成票が多かったのは、移民人口が急増した地域だったという(ただし、外国生まれの住民比率が最も高いロンドンでは、その限りではない)。その背景には、100年前とは人口の流れが逆方向になり、多くの移民がイギリスへ流入している状況がある。

 ドイツについても同じような現象が起きている。データによると、人口の30パーセントが外国生まれか、1945年以降の移民の子孫だという。もともと旧ユーゴスラビアやトルコからの移民が多かった。2015年には、シリア難民が大量入国しようとしてニュースとなった。「うまく解決できる」と主張したメルケル首相だが、反発した市民も多く、極右政党の支持率も跳ね上がった。

 大戦以前から多くの移民を受け入れてきたフランスは、同化政策を取ってきた。大戦後は、北アフリカから大量の移民が押しよせている。その反発として、2017年の大統領選にて国民戦線(現・国民連合)を率いるル・ペンは「ここはわれわれの場所だ」とのスローガンを掲げている。

移民国家・アメリカの強さと綻び

 ヨーロッパに代わりアメリカが超大国となったのは、第2次大戦後からだ。帰還したGIたちが、家を手に入れて家族を作り、ベビーブームが起きた。ただし、教育を受けたベビーブーム世代の女性たちはフェミニズム的な価値観に触れており、すぐに結婚して母になるより職業を持つことを選び、次なるベビーブームを生み出さなかった。

 一方、家族と女性に対する伝統的な価値観が残っているバイブルベルト地帯(南部のキリスト教篤信地帯)は例外的であり、アメリカにおける大幅な粗出生率低下を防いでいた。

 また、ラテンアメリカから膨大な移民が流入したことも人口維持に貢献してきた。1960年代以降、移民法の変化によって門戸が開かれ、とくにメキシコからの移民の波が押し寄せた。アメリカは、世界で最も移民を受け入れる国家となったのである。

 もし白人票だけに基づくなら、オバマ大統領の誕生はなかっただろう。一方、マイノリティの人口が増えるにつれて、白人の票に反動があらわれる。トランプ大統領の勝利は「アメリカを再び偉大な国に」というだけではなく「できるだけ長く白人の国のままでいる」ための最後のあがきとみる人も多い。

 メキシコからの移民を防ぐための壁を建設するというのがトランプによる公約だった。とはいえ、メキシコ経済の成長とメキシコの合計特殊出生率が急速に低下したことで、移民の数は、じつはピーク時の3分の2へと減っている。移民こそがアメリカの力の源泉のひとつだったにもかかわらず、である。

 するとアメリカの地位を脅かすのは、やはり中国なのだろうか。その前に、冷戦時にはアメリカのライバルだったにもかかわらず失墜してしまったロシアの事例を見てみよう。

 プーチンは2006年に「わが国が直面している最も重大な問題は人口問題である」と演説。ロシアの出生率は低く、またアルコール依存症や自殺率の高さが理由で、ロシア男性の平均寿命は59歳と極端に短い(2008年)。国連によると、今世紀末には1億2,500万人を割ると予測されている。

 かつて人口が3億人に近づいたソビエト連邦の最盛期からは程遠い。当時は、非効率な経済システムを大量の労働力人口で維持してきた。しかし人口が減ると、システムが持たなくなり経済成長が抑制された。またソビエト“連邦”は、様々な言語と文化を持つ多民族国家であり、共産党のイデオロギーではまとめきれなかった。このように人口は、経済と民族という面からソビエト連邦の消失に関わってきたのだ。

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