J・ミアシャイマー「この戦争の最大の勝者は中国だ」プーチンが核ボタンを押すまで終わらない
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J・ミアシャイマー「この戦争の最大の勝者は中国だ」プーチンが核ボタンを押すまで終わらない

文藝春秋digital
J・ミアシャイマー(国際政治学者・シカゴ大学教授)、聞き手・奥山真司(国際地政学研究所上席研究員・戦略学博士)

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ミアシャイマー氏

この戦争の本質は?結末はどうなるのか?

「ウクライナ危機の主な原因は西側諸国、とりわけ米国にある」

ロシアがウクライナに侵攻する9日前の2月15日。シカゴ大学政治学部のジョン・ミアシャイマー教授(74)はユーチューブで配信されたインタビューでこう述べた。外交関係者たちが高く評価する一方、学生たちが抗議運動を展開。さらにプーチン擁護のために同氏の論を都合よく利用する陰謀論者もおり、米国でも賛否両論が激しく巻き起こっている。再生回数は100万回を越えた。

ミアシャイマー教授は米陸軍士官学校ウェストポイントを卒業後、5年間の空軍勤務を経て、1982年からシカゴ大学で教鞭をとってきた。徹底したリアリズムにもとづき大国間のせめぎ合いを分析・予見する「攻撃的現実主義」の第一人者として知られ、冷戦後の国際政治の研究をリードしてきた。2001年に著した『大国政治の悲劇』では、中国の平和的な台頭はなく、米中は対立すると予想し、それが現実となった。

いったいこの戦争の本質は何なのか? 誰が勝者となり、結末はどうなるのか?――このインタビューはミアシャイマー教授にとって開戦後日本メディア初登場となるものである。

おそらく米国やドイツ、さらには日本の政府高官たちは、私の論に批判的だと思います。彼らにとって私の意見は「不都合な事実」だからです。西側諸国が今回の戦争をどう見ているのかは、概ねこうです。

・全ての責任はプーチンにある
・プーチンは帝国ロシアやソ連再興を目指している
・プーチンは拡大主義者であり帝国主義者だ
・プーチンはヒトラーの再来だ

これらは、西側諸国の圧倒的な見方となっています。ただ、この考えは完全に間違っているし、“西側の作り話”といってもいい。

もっとも、私はプーチンを擁護しているわけではありません。プーチンによる戦争遂行方法に責任があることは否定しません。しかしながら、「なぜこの戦争は起きたのか?」という問いに対する私の答えは、米国をはじめとする西側の対東欧政策が今日の危機を招いたというものです。

そして、米国はこの戦争に深入りするようになったことで、結果的により大きな脅威、つまり中国への対応ができなくなってしまっているのです。

ではなぜそう言えるのか? 私が長年提唱してきた「攻撃的現実主義」の立場から、順を追って説明しましょう。

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プーチン大統領

世界には3つの大国が存在する

まず認識すべきなのは、国際社会の実態はアナーキー(無政府状態)であり、国家の上に位置する権威や「保安官」は存在しないということです。今回の危機をみれば分かるように、国連の安全保障理事会は役に立ちません。投票権を持つ常任理事国のロシアは、気に入らない提案には拒否権を発動できる。これでは安保理の決定事項は実効性に欠け、意味を持ちません。

無秩序な国際社会において、大国は合理的な欲求に基づいて、地域の中で一番強い覇権国を志向する。そして、自国の覇権が及ぶ地域において他の大国の勢力が及んでくることを防ごうとする――それが「攻撃的現実主義」の要諦です。

今の国際システムには、3つの大国しか存在しません。米国、中国、ロシアです。冷戦終結後、しばらくは米国の一極時代が続きました。しかし2003年のイラク戦争後、中国が台頭し、ロシアが復権し、世界は米国1極から3つの大国からなる多極世界に突入したのです。トランプ大統領は2017年12月、政権発足後初となる戦略文書のなかで「我々は多極世界のなかで生きている」と記しましたが、これは米国が多極世界を公に認めた転換点でした。

ソ連崩壊後、長らく低迷してきたロシアはプーチン政権以降、資源価格の高騰をてこに徐々に復活してきた。また、経済的に力をつけた中国は軍拡を続け、西太平洋から米国を追い出そうとしている。

そうした中でウクライナ危機が起きたのです。

プーチンという熊の目をついたネオコンたち

西側の対東欧政策の柱は、NATO(北大西洋条約機構)の東方(旧ソ連諸国)への拡大です。これこそが現在の危機の根本的な要因なのです。

ソ連崩壊後、NATOの東方拡大がはじまります。1999年の第1次拡大では、ポーランド、チェコ、ハンガリーが、2004年の第2次拡大では、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)と、ブルガリア、スロベニア、ルーマニア、スロバキアの7カ国がNATOに加盟しました。こうしてロシアに向かってNATOがどんどん拡大していったのです。また同時期に、これらの国の一部はEU加盟も果たします。ロシアはNATO拡大を嫌悪し、恐怖を感じていました。

決定的な分岐点は、2008年4月、ルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO首脳会議でした。首脳宣言にはこう記されています。

〈NATOは、ウクライナとジョージア(グルジア)がNATOの一員になりたいという希望を歓迎する。我々は、今日、両国が将来的にNATOの一員になることに同意する〉

ジョージアとウクライナの将来的なNATO入りを宣言するにあたって、当時のブッシュ米大統領が「NATOの扉は常に開かれている」と述べ、主導的な役割を果たしました。一方で、ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領はこの声明に慎重な姿勢を示していました。ジョージアとウクライナのNATO入りは、ロシアの国境線までNATOが押し寄せてくることを意味します。それがロシアを強く刺激することを、2人はよく分かっていたのです。

しかし、ブッシュは2人の反対を押し切り、首脳宣言でNATO拡大を宣言した。西側諸国、とくに米国のネオコン(新保守主義者)たちは「2回の拡大でも問題はなかった。3回目の拡大でも逃げ切れる」と思ったに違いありません。

だが、不安は的中しました。プーチンらロシア首脳はすぐに「この宣言は我々にとって完全に受け入れられないものだ」と強く反発し、「NATOのウクライナへの進出は自国存亡の危機だ。もう、これ以上(NATOの拡大は)許されない」といった明確なメッセージを発信。そして、「NATO入りした場合はミサイルの照準を向ける」とまで警告したのです。

それにもかかわらず、米国は東方拡大に深く関与していきました。いわば、米国は熊(ロシア=プーチン)の目を棒でついたのです。怒った熊はどうしたか。当然、反撃に出ました。

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ゼレンスキー大統領

バイデンはNATO加盟の“超タカ派”

その後、ロシアは2つのリアクションを起こします。まずはブカレスト宣言から4カ月後の2008年8月、ロシア軍はジョージアに軍事侵攻しました。このときもプーチンは「国家存亡に関わる脅威だ」と、繰り返し言っています。

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