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【連載】EXILEになれなくて #15|小林直己

第三幕 「三代目 J SOUL BROTHERS」という運命


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一場 10周年

 2020年11月10日。あの時と同じように、美しいピアノの音色が聞こえてくる。このイントロは、儚げで美しいのだが、その根底には意志を貫く強さがある。断固たる決意、信念とも言い換えられるかもしれない。ここに一番心を揺り動かされたのだ。目を瞑り、耳をすましてその一音一音を聴く。やがてボーカルの息遣いが聞こえてくる。すると静かに空気が一つになっていった。

 三代目 J SOUL BROTHERS がデビュー10周年を迎えた2020年は、世界中で大きな変化を求められた年だった。新型ウイルスは猛威を振るい、僕たちはこれまでの生活様式から、新たな生活への移行を求められた。密集は避けられ、密閉空間も好ましくないものとされた。僕らの主戦場である興行は、中止または延期となり、苦境を強いられることとなった。

 2020年4月。新型ウイルスの感染拡大に伴い、興行は中止された。あの時は確か、1日の感染者数は今ほどの数字ではなかったような......。そして1年後の現在、僕らが迎えたのは、2度目の緊急事態宣言だった。イベントの収容人数は5000人以下、かつ収容率50パーセント以下の要請があった。2021年1月末から予定されていた、LDHエンタテインメント復活の狼煙を上げるEXILE TRIBEのツアーのスタートは、延期となった。

 何者にも代えがたい健康や命。大切な人を守るために、僕らはこの要請に従う。一方で、表現する場所を奪われたアーティストの、胸の内には燻んだ煙のようなものが溜まっていく。誰も悪くはない、ウイルスの影響が生んだこの状況が悪いのだ。その煙は、際限なく広がっていき、閉じられた扉の隙間から、隣の部屋に広がっていく。必死に閉じ込めようとするけれど、思っているよりも早いスピードで広がっていった。

 ある芸人が呟く。「ロケが中止になった。この先、僕らの仕事はどうなっていくのか」。あるアーティストが呟く。「金もなく家賃も払えない、なんていうわけないじゃん。イメージがあるんだから」。先行きは不透明、募る不安。しかし、事態は刻一刻と変化していく。僕らの未来はどこにいってしまったのだろう。

 話を三代目 J SOUL BROTHERSに戻そう。

 2020年4月から行われるはずだった三代目 J SOUL BROTHERSの10周年を記念するドームツアー。その延期の判断が下されたのは、2020年3月のことだった。2月には、EXILEのドームツアー最終公演が、政府から大規模イベントの自粛要請が発令されたことを受けて、当日に中止となっていた。その流れを受け、三代目としてもギリギリまでどうにか開催の手段を探ったのだが、安全を優先した結果、延期の判断となった。

 東京に住んでいる僕は、4月7日に発出された緊急事態宣言の影響でステイホーム期間が始まっていた。5月25日の解除に至るまでは、本番はおろかリハーサルさえ行えなかった。踊るステージそのものが無くなる恐ろしさ、これからの生活への不安を抱えながら、それでも、どうにか表現する場所を見つけたいと模索した結果、SNSにその活路を見出した。SNSを活発に稼働
させると、多くの方からのコメントや、いいねなどの反応があった。それに僕自身も励まされ、緊急事態宣言が明ける頃には自分自身の動揺も、ようやく収まっていた。しかし、ツアー自体は、全公演が中止となった。

 10周年を記念する公演がすべて中止になった。三代目 J SOUL BROTHERSの一員としては、大きな翼をもがれた気分だった。デビューからの奇跡のような日々を、これまで歩んでこれた感謝の気持ちと、この先に向けた思いを、ライブを通じ、応援してくれた皆さんと共有する予定だった。しかし、皆さんの安全と、スタッフ、メンバー、関わる全ての人たちの安全を考えた結果、中止となった。だからこそ、もどかしい気持ちは際限がなく、やり場がなく、当てる場所もない、そんな気持ちにまた悩まされていた。

 しかし、この状況下だからこそ生まれた新たなLDHのエンタテインメントがあった。オンラインでの新たなライブ・エンタテインメントである、「LIVExONLINE(ライブオンライン)」だ。

 LDHは、1年以上前からオンラインでの総合エンタテインメントを準備をしていた。興行ができないこの状況下でその準備をさらに加速させ、ついにスタートを切ることとなった。ただの無観客のライブ配信ではない。オンラインだからこそ可能な特別な体験を追求し、一つのエンタテインメント・ブランドとして、「LIVExONLINE」は走り出した。

 7月2日〜8日に行われた第1回目のLIVExONLINE。三代目 J SOUL BROTHERSのライブは、七夕に行われた。画面を通じ、どのように最大限 楽しんでもらうのか? 普段のツアーリハーサルと同じように、いや、それ以上にリハーサルに重きを置いて取り組んだ。オンラインの特性を生かした演出を考え、試行錯誤し、生み出していく。加えて、これまでに培ったカメラチームと連携し、LIVExONLINEならではの、臨場感あふれるカメラワークに挑戦する。また、ドローンやARといった技術も駆使し、「誰もがアリーナの一番前の特等席」で見ている気分になれるオンラインの強みを活かし、これまでにない体験を生み出していくべく、本番当日まで微調整を続け、なんとか本番を終えることができた。

 僕自身、初となるオンラインライブだったが、特別な感覚があった。カメラの向こうを強く意識しながら2時間のライブを行う。これまでに無い、新たなパフォーマンススタイルである。感覚としては、普段のライブと、音楽番組の収録の間というような。舞台公演と映画撮影の間というような。しっかりと演じ切りながらも、レンズの向こうへ興奮を届けるべく、いつも以上にオープンマインドで踊っていた。疲労が、桁違いに重く体にのし掛かる。
ライブは後半戦に差し掛かっていた。急に違和感に襲われた。不思議なことに、「O.R.I.O.N.」では、LIVExONLINEのステージでは聞こえるはずのない歓声が聞こえたような気がして、アドレナリンが噴出するのを感じたり、普段なら会場が一体になり振り付けを踊る「Rat-tat-tat」が、画面の向こうで一緒に踊ってくれているのを感じた。すると、自分の体にどんどん元気が湧き出てきた。あっという間にエンディングまで駆け抜けたライブとなった。
終わりのMCでも話したが、まず踊る場所があるありがたさを強く感じた。それが誰かの喜びになってくれているのだとしたら、それは、本当に感謝したいことだと素直に思った。また、これまでの興行で、会場に来て僕らと一緒に思い出を作ってくれた皆さんとの時間が、このLIVExONLINEを成立させてくれたのだと確信した。これまでの経験が財産だと、心から感じることができた。本当にありがたかった。そういった感謝の言葉ばかりを述べていたと思う。

 9月には早くも第2回が行われた。そこでは、本来4月から行われるはずだったツアーテーマ「これまでのライブの『ベストライブ』」を意識し、セットリストに落とし込んだ。今までの公演で印象に残っている演出や曲を、久しぶりにパフォーマンスした。懐かしいものもあったし、僕自身、三代目 J SOUL BROTHERSとしての原点を思い出させてくれるものもあった。振り付
けには、当時の流行や空気感が閉じ込められており、ダンサーにとって踊ることは、記憶を体内で再生される「レコード」や「タイムカプセル」のようなものなのだ。

 そして、迎えた11月10日。三代目にとって第3回目となるLIVExONLINEが行われた。10周年記念のイベントの開催自体、危ぶまれていた状況だったが、メンバーの強い思いもあり、この日、特別にLIVExONLINEのスペシャルとして開催されることになった。タイトルは、「LIVExONLINE INFINITY 三代目 J SOUL BROTHERS 10th ANNIVERSARY 〜JSB HISTORY〜」。この「JSB HISTORY」という言葉には、三代目 J SOUL BROTHERSだけでな
く、今の三代目につながる、J SOUL BROTHERSそのものの歴史を、感じられる内容を目指した。

 結論から先に告げると、この日のライブは三代目にとっても、LDHにとっても、そして、応援してくれているファンにとっても特別なものとなったと思う。サプライズゲストとして、EXILEから松本利夫、MAKIDAI、AKIRA、TAKAHIROが来てくれた。また、同じくEXILEからサプライズゲストとして来てくれた、橘ケンチ、黒木啓司、TETSUYA、SHOKICHI、NESMITHが、僕とEXILE NAOTOとともに二代目J Soul Brothersとしてのパフォーマンスも、行ってくれた。

 僕自身にとって、二代目J Soul Brothersが、LDHでのアーティスト人生の始まりなので、こうして、二代目、三代目としてのパフォーマンスを、この「JSB HISTORY」で体現できることは、シンプルに嬉しかった。また、二代目J Soul Brothers時代にカバーした初代 J Soul Brothersの曲「Fly Away」を、初代、二代目とともに三代目でパフォーマンスしたのは、とても感慨深いものだった。

 J SOUL BROTHERSの歴史を辿る今回のスペシャルライブを行う上で、初代、二代目のメンバーをゲストとして呼びたいといったのは、メンバーのELLYだった。ELLYはいつも、大切な時に大切なことに気づいてくれる。それに二つ返事で了承する三代目のメンバーも本当に素敵だなと改めて思っている。

 11月10日は、三代目のデビュー日でありながら、僕が二代目J Soul Brothersに加入し、初パフォーマンスをした日でもあった。そして、何の因果か自分の誕生日でもあった。自分にとって特別な出来事が三つ重なる日というのは、否が応でも見過ごせない。2020年のこの日は、個人的にも、これまでの人生を見つめ直し、改めてこれからを大切に生きたいと思った日になった。

 そんな、ビッグデイを終えた僕は、疲れ切っていた。

 グループというものは儚い。この7人で、10周年を迎えることができるなんて、デビュー当時は夢にも思っていなかった。10年目という月日はとても長かったようにも感じるし、同時に、あまりに濃過ぎて、一瞬のようにも感じる。

 先日、ある人から言われて初めて気づいた。このグループで行なっているプロジェクトが、ソロだったとする。そう考えると、収入は7倍になる。しかし、稼働時間や負担というものは、計り知れないほど大きい。疲労も、かかる予算も、7倍か、それ以上なのである。

 そして一番大きいのは、ソロで僕はデビューできたのだろうか、今のような結果を残せたのだろうかということだ。いや、できなかっただろう。そう、この環境は、僕一人のためにあるものじゃない。

 別々の場所から集まった7人が、何の因果か一つの場所に集まり、LDHという旗印のもと決して短くはない年数を、一つの目標のもと駆け抜けてきた。自分だけのおかげだなんてことは、口が裂けても言えない。7人がそれぞれの人生のタイミングを重ね合わせながら、ここまで歩んできた。

 これからは、それが難しくなる。同じことをし続けていくことが、難しくなるのだ。社会は変容し、僕らは年齢を重ねる。これから、それぞれが将来のビジョンを実現していく。これまでの活動で、7人だからこそ組み上がったこのパズルのピースが、7人だからこそ身動きが取りづらくなるときもある。何を大切にし、何を選び、どう生きるか。自らの人生とグループを重ね合わせながら、それぞれの思いが込められ、グループが動いていく。

 夢は環境によって変わってくる、と以前書いた。同じく、人生という土台があり、そしてそこに、夢が乗っていく。すると夢はまた、変わっていくのだ。夢は、環境と人生によって、自由に変化していく。

 今は、そんな過程ですら楽しんでいきたいと、前向きに思えるようになった。

(# 16 につづく)

■小林直己
千葉県出身。幼少の頃より音楽に触れ、17歳からダンスをはじめる。
現在では、EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSの2つのグループを兼任しながら、表現の幅を広げ、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』に出演するなど、役者としても活動している。

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