作家・麻生幾「闇の中で生きる矜持を伝えたい」 小説『観月 KANGETSU』が描き出す日本社会の“光と闇”
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作家・麻生幾「闇の中で生きる矜持を伝えたい」 小説『観月 KANGETSU』が描き出す日本社会の“光と闇”

『外事警察』などで知られる作家の麻生幾さんが〝日本警察史上最大の作戦〟に取材した社会の「光と闇」を問うた圧巻の警察小説『観月 KANGETSU』が誕生した。

大分県杵築市で毎年行われる幻想的な光に包まれる「観月祭」。今年も無事に迎えられるはずだった。しかし、祭りの一週間前、突如として七海を怪しい影が襲う。その翌日には七海が幼いころからお世話になっているパン屋の奥さんが絞殺体で発見された。さらには、この事件と時を同じくして東京で発見された首なし死体の関連が取りざたされ……。一見関係のない事件は、やがて巨大な闇を暴き出し始める。

文藝春秋digitalで連載されていた同作について、著者の麻生さんが語った。

——この物語が生まれたきっかけ、大分県杵築市を舞台に選んだ理由を教えてください。

これまでハードな小説を多く書いてきましたが、今回は昔からずっと想いの底にあった「絵画的」な小説にしたかったのです。そのときに思い浮かんだのが、小さい頃に見た祭での屋台や揺れる光の向こうにある漆黒の闇です。
光と闇というのは私の中で一貫して描いてきたテーマでもありました。私が描く「闇」は政治の汚職や権力闘争のようなものではなく、もっと奥深いところにある闇なのです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、日本の警察史上最大の作戦に従事した、決して表舞台には出てこない方々に思いを馳せながら物語を紡ぎました。

昨年の晩秋、杵築市を訪れる機会に恵まれました。観月祭の行灯の中の揺れる灯りを見るうちに、まさに私が描こうとする「光と闇」がそこにあると確信して舞台にさせてもらいました。

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観月祭

——本作では舞台となった杵築の街並み、また人々の暮らしが鮮やかに立ち上がってきます。コロナ禍でしたが、取材は苦労されたのではないですか。

昨年の晩秋の取材に続き、本当は今年の3月にも杵築市にお邪魔したかったのですが、コロナウイルスの蔓延によって断念せざるを得ませんでした。しかし、観光協会の方が街並みや方言を含め熱心に協力してくださって、そのやりとりはメールや電話で数十回にも及びました。杵築の方のご支援なくしてこの小説は書き上げられませんでした。

——コロナの話題が出ましたが、「日本の危機管理」をテーマに書かれてきた麻生さんが、現在の状況で気になることはあるでしょうか。

行政では「なんとかなるんじゃないのか?」という空気が蔓延していて、その皺寄せが医療従事者に向かっている。国の政策というよりは民間人の、現場の努力で埋め合わせている事例が至るところにある。私はそういった、決して表に出ることはない“現場”の密やかな努力が常に私の小説のテーマにもなっています。

——〝日本警察史上最大の作戦〟には、ある国際的なイベントが絡みます。直近に控える国際的イベントといえば来年開催予定の東京オリンピックですが、「危機管理」という観点からは、オリンピックをどう見ますか?

来年もしオリンピックが開催されるとしたら、「人類がウイルスに対して立ち向かう」というテーマが前面に掲げられるはずです。このようにテーマが前面に出てくるのは、もしかしたら戦後初めてかもしれません。しかしテロリストなどにとって、みんなの注目が高まる場所は、標的にしたい場所でもあります。警察の方と話をしていると、世界の関心が高まることを心配する声が聞こえてきます。

またもう一つの危惧があります。オリンピックの警備は全国から警察官を集めるわけですが、パラリンピックも含めると一か月半くらい共同宿泊になる。そこでもしクラスターが起きたならば警備どころではありません。その際の感染対策はどうするのかも含め、予断を許さないオリンピックになるかもしれませんね。

——麻生さんの小説は常に「闇」の中にいる人々に心を寄せて書かれています。そのテーマがより色濃く出たのが今作ではないでしょうか。

ある特殊部隊の人に聞いてみたことがあるんです。毎日死ぬ思いで訓練をして、死と隣り合わせの現場にも行く、そこで愚痴も不満もあるだろうけど家族にも恋人にも任務について話すことはできない。そんな生活で自分のことをどうやって支えているんですか、と。そしたらその方から「誰にも知られないことが最高の快楽だ」という答えが返ってきました。痺れましたね。闇の中で生きる人の矜持に感動してしまった。そういう発言を聞いて、生き方に凄まじさを感じると、その人のことをもっと知りたいと思うようになる。その感動と興奮を、小説を通じて読者に届けることができていれば嬉しいですね。

■麻生幾(あそう・いく) 大阪府生れ。作家。1996年、政府の危機管理の欠陥を衝いたノンフィクション『情報、官邸に達せず』を刊行。日本の危機管理をめぐる“真実”を小説で描いている。オウム事件など内外の事件を取材したノンフィクション作品も。主な小説に、『宣戦布告』『ZERO』『ケース・オフィサー』『外事警察』『奪還』など。「宣戦布告」「外事警察」などが、映画化、ドラマ化され反響を呼んだ。ノンフィクション作品に、『極秘捜査-警察・自衛隊の「対オウム事件ファイル」-』『前へ!-東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』などがある。


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