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旬選ジャーナル<目利きが選ぶ一押しニュース>――本橋信宏【全文公開】

新聞、雑誌、テレビ、ネット、ラジオ……“目利き”が選んだ「一押しニュース」をチェックしよう!今回の目利きは、評論家の本橋信宏氏です。

【一押しNEWS】「日本に帰れ」韓国芸能界で炎上する日本人アイドル/7月15日、ヤフーニュース(筆者=慎武宏)


 とろけるチーズの匂いが流れてくる。

 ここは新大久保コリアンタウン。

 徴用工問題、韓国への輸出規制強化で関係が悪化している日韓であるが、ここコリアンタウンは関係悪化などどこ吹く風、チーズタッカルビという、ピリ辛の鶏肉と野菜をとろーりチーズにからめて食するのがブームになっている。

 一時期落ち込んだ韓流ブームとコリアンタウンだったが、数年前から再びにわかに活気づきだした。背景には、チーズタッカルビやチーズドッグのような韓国から来た食べ物が若者たちを中心に人気を博したこと。日本人メンバー、サナ・モモ・ミナ3名が在籍する9人組K-POPグループ、TWICEの爆発的人気がある。

 しかし、怪しい雲行きもある。

 徴用工問題、輸出規制などで、日韓関係が最悪の状態になると、韓国国内で活躍している日本の芸能人に対して、排斥の声が高まり、なかでもTWICEのサナが標的になった。サナのような天然キャラというのは韓国でも珍しく、日本人女性として抜群の知名度を誇る。

 今回の輸出規制問題でとばっちりをうけて、サナを韓国芸能界から追放しようという動きが出て来たのだ。

 実は今春、サナがTWICE公式インスタグラムに書き込んだ「平成ありがとう、令和よろしく」の投稿が、日本の軍国主義を思わせる、と言いがかりをつけられて炎上したことがあった。

 やっと沈静化したと思ったら、今回の問題で再燃しかけた。

 日本人という理由だけでサナたちに「日本に帰れ」という悪意に満ちたコメントが集中砲火されるのである。

 その一方で、ここに取り上げた記事のように、「日本出身アイドルの退出を求めるのは行き過ぎだ」といった冷静な意見も多い。記事では、「K-POPに青春を捧げ、頑張って活動する日本出身アイドルたちをボイコットすることは、日本不買運動とは違う」と訴える関係者のコメントを紹介している。

 以前サナが韓国のバラエティ番組に登場したとき、司会者は時折日本に厳しい発言をする人気コメディアン、ユ・ジェソクだった。サナが日本語で自己紹介すると、真っ先に立ち上がり敬意の拍手をしたのもこのコメディアンだった。韓国内にはまっとうなバランス感覚も見られるのである。

 私が知る限りにおいて来日する韓国の若い女性たちは100パーセント親日家である。彼女たちにとって、自分に似た普通の男女が織りなす恋愛や悩みを、絵という伝達手段でドラマティックに表現できる日本のアニメは奇跡に見えるそうだ。来日した彼女たちは、魅力的なアニメキャラに満ちた国に来た喜びで一杯だ。

 外国のフィギュアスケート選手は、日本での競技会の開催を希望する。理由は観客のおもてなしである。各国の選手が氷上に立つと、それぞれの選手の国の旗を取りだして観客が声援を送るのだ。こんなおもてなしは、日本だけだ。親日家を1人でも多く増やすことが、結果的に日本のためにもなるのである。

 膠着する日韓関係だが、一気に氷解させる秘策がある。2001年、韓国人留学生李秀賢さん(26)と関根史郎さん(47)が、ホームに転落した人を助けようとして電車にはねられ死亡した。現在、新大久保駅構内には2人を追悼する顕彰碑がある。日本国総理大臣とその夫人が、この顕彰碑に頭を垂れるのだ。そのあとに、コリアンタウンでチーズタッカルビでも食べれば、韓国側も日本からのシグナルだと思うだろう。体面を重んじる韓国国内の世論も懐柔されるはずだ。

 食と音楽は人を平和にさせるのである。



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