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金正恩が下した重大決定 米朝協議打ち切りで2020年の「朝鮮戦争」が現実に!

日米に反逆する韓国──その間隙を北は衝く。そしてソウル砲撃をアメリカは座視するのか?/文・麻生幾(作家)

多くの人が襲われたデジャブ

 ずっとそのことは記憶の果てに取り残されたままだった。

 しかし、今、その記憶は鮮やかに蘇りつつある。

 2019年12月、多くの人々は、デジャブ(既視感)に襲われたはずだ。

 それは、北朝鮮を巡るメディアの報道の中で、聞き覚えのある言葉の羅列を、目にし、耳で聴いたからだ。

 互いの激しい罵(ののし)り合い、ICBM大陸間弾道ミサイルの発射の危険、核実験場での怪しい動き、すべての選択肢はテーブルに揃っている、アメリカ軍B2ステルス戦略爆撃機の威圧的な飛行――。

 しかし現実は、決してデジャブ、つまり“錯覚”ではなかった。

 2017年にアメリカと北朝鮮の間で軍事的緊張が高まり、戦争が起こるかもしれない状況まで達した「朝鮮半島クライシス」が、再燃しようとしているのだ。

 今、朝鮮半島情勢に厳重警戒の目を向けている複数の関係者の証言から、2020年の朝鮮半島は、地獄の渦に飲み込まれてしまうのかどうか、その実相を覗いてみた。

 2020年の日本の運命を知るためにもっとも重要なことは、2017年の朝鮮半島クライシスの真相を知ることだ。

 それこそが、日本人が何に備えなければならないのかを理解する早道である。

「朝鮮半島クライシス」を簡単に振り返れば、そのイグニッション・ポイント(点火点)は、北朝鮮が4月に行った、何度もの弾道ミサイルの発射実験と見る専門家が多い。

 その後も、弾道ミサイルの発射は続き、8月には、米領グアム島へのミサイル発射を北朝鮮が示唆し、同島の住民は、核攻撃に備えた対策を取るといったレベルまで緊張は高まった。

2017年クライシスの真相

 そんな緊迫した状況を煽るメディアを見ていると、明日にも、第2次朝鮮戦争が開始されるのではないかと恐怖感に襲われた方が多かっただろう。

 しかし、2017年の、米朝の軍事的な緊迫度の実相は、メディアの報道とはかなり違っていた。

「米朝の武力の衝突がイミネント(切迫)になっていた真っ直中、インド太平洋軍は、在韓米軍、在沖縄や在岩国のすべての部隊、またUSFJ(在日米軍)、そしてセブンスフリート(第7艦隊)と、その関連施設である弾薬庫と補給処などには、表に見える準備は一切行わないよう命じていた」

 こんな言葉から始めたインド太平洋軍関係者が、証言を続ける。

「軍事的緊張が高まって、いざ戦争が近いとなれば、部隊に“待機命令を出す”ことになる。それは、目に見える部隊の動きとして表に出る。例えば、兵士の休暇をすべて切り上げ、武器や装備を車両に積載、航空機に搭載の準備をして、次の命令を待つ、ということだ」

 しかしそれはしなかった、として同関係者はさらにこう続けた。

「朝鮮半島情勢が緊迫しても、戦争が差し迫っていない情勢ならば、部隊に“待機命令を出す”ことは、戦略的な意味として誤ったメッセージを北朝鮮に送ってしまうことになるので、それを避けた。そのメッセージによって、北朝鮮が刺激され、先制攻撃を開始する危険性があったからだ」

 ただ、その一方で、心理戦的な動きは積極的に行った、とも同関係者は語る。

「敢えてさせていたのは、心理戦に含まれる『ストラテジィ・コミュニケーション』(戦略的メッセージ伝達)での行動だった」

 同関係者は、そのストラテジィ・コミュニケーションの中身についてこう説明した。

「戦闘機で滑走路を埋め尽くしたり、アメリカ第5空軍機が航空自衛隊機と編隊飛行を行った映像を公開した他、複数のCVSG(空母打撃群)を北朝鮮に接近させることを外部にアナウンスする一方で、セブンスフリートがSAG(サグ)(水上艦アクション・グループ)を編成し、CV(空母)に先行して欺瞞と陽動をさせるなどして、キム・ジョンウン委員長の思考中枢へ直接、アメリカの『意志』を叩き込む作戦を行った」

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米軍F35戦闘機

最高レベルの準備態勢

 これらの作戦はすべて、「戦争のデタレンス(抑止)」のための行動だった。

 しかし、北朝鮮の朝鮮人民軍(以下、朝鮮人民軍)に「コーピング(対処)」するための作戦は歴然と存在した。


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朝鮮人民軍

 ただ、その存在は厳重に隠され、高いレベルの指揮官にのみ共有された。

 3MEF(スリーメフ)(アメリカ第3海兵遠征軍)関係者が当時の状況をこう述懐する。

「2017年半ば、沖縄に駐留するすべてのアメリカ軍部隊の、ハイレベルな指揮官に対してのみ、ハワイのインド太平洋軍司令部から、ある極秘の指令が出された。それは『ガイダンス』と呼ばれるもので、部隊の指揮に関する特別な命令だった」

 その「ガイダンス」の表題は、

〈北朝鮮への攻撃、朝鮮人民軍との交戦に備えて、部隊の即応性を整えろ〉

 というものだった。

 同3MEF関係者が解説する。

「どのような任務が与えられるのかはその時になって初めて分かるが、この『ガイダンス』が出ると、高いレベルの指揮官は、直近下の幕僚やスタッフに対して、現在の情勢を示した上で、いざ出動命令が出たのなら、いつでも即応でモービライズ(出撃させること)できるように、現実的な心づもりをしておけ、との指示を連発することになる」

 ゆえにこの「ガイダンス」は、“待機態勢を取る”ことよりも遥かに実戦に近く、まさに“準備態勢”の最高レベルだという。同関係者がさらにこう言葉を継いだ。

「『ガイダンス』が出ることは、部隊を集めたり、兵器や弾薬を積載、搭載などの表面的な動きにこそならないが、実際には、いつでも部隊を集めて出撃できる、本格的で高度な即応態勢へと移行することに他ならない。具体的な任務は、出撃命令が出て初めて提示されるので、後は、それを粛々とこなすだけとなるわけで、2017年はそこまでのレベルに達していた」

ターゲットの選別を細かく指定

 2017年の「朝鮮半島クライシス」で、『ガイダンス』に基づいて極秘裏に“準備態勢”を整えた時、実際の出撃命令を受けての作戦について、前出のインド太平洋軍関係者はこう語る。

「作戦全般の統制を行うインド太平洋軍が、戦術レベルのミッションとターゲティングリスト(打撃目標一覧)を『ガイダンス』に基づいて“準備態勢”にある部隊に提示することとなった。さらに、在韓米軍ではそのターゲティングリストを細かく調整。部隊の後方支援と兵站は、在日米軍司令部が調整することで北朝鮮との戦争に備えた」

 同関係者が付け加えるに、空対地の攻撃、つまり北朝鮮の核施設やミサイル基地への攻撃などのストラテジック(戦略的)な作戦については、ストラットコム(アメリカ戦略軍)が行うことが決められたとした。

「それぞれの所掌に応じて作戦が次々と決まっていた。しかも、ターゲティングリストごとに、例えば、ある北朝鮮のミサイル基地をターゲットとして攻撃する場合、その打撃手段を、在韓米陸軍の火力部隊にするのか十分な検討を行った上で、第7艦隊からの巡航ミサイルにするのかを決定していった。しかも、その攻撃とは単純なものではなく、指揮官のレベルごとに射撃承認を受けなければならないターゲットの選別まで細かく指定された」

 同関係者によれば、例えば、ピョンヤンの地下にある朝鮮人民軍の戦時司令部を攻撃する手段を、オハイオ州のライトパターソン空軍基地から飛び立ったB2ステルス戦略爆撃機からの貫通型ミサイルにするのか、西太平洋に秘匿潜没する潜水艦から発射するSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)にするのかの協議がそれぞれの打撃責任部隊でなされ、その時の状況に合わせてどう切り替わるのかを含め、きめ細かく決められていったという。

 ここで気になるのは、「朝鮮半島クライシス」の当時、アメリカ政府が検討しているのは、北朝鮮の核施設や弾道ミサイル基地に限定した攻撃、つまり悪い部分のみを切り取る外科的手術のような“サージカルな”攻撃だと一部アメリカメディアが伝えていたことだ。

 しかもその作戦名を「ブラッディ・ノーズ(鼻血)作戦」とまで明らかにしていた。

 しかし、前述の関係者たちの証言は、実際に検討した作戦は、そんな生易しいものではなかったことを意味している。

天然痘ウイルス曝露まで想定

 当時、作戦を知る立場にあった、インド太平洋軍のある幹部は、

「北朝鮮への軍事作戦案は、限定的なものから総攻撃まで様々で、1つを抜き出しては言えない」

 と前置きしながらもこう語った。

「ただ、現実的に、インド太平洋軍が最優先で検討していた『プランA』は、北朝鮮の指導部を含む、朝鮮人民軍への『総攻撃』だった」

 その「総攻撃作戦」の中身の一部を明らかにしたのは、アメリカ太平洋艦隊関係者である。

「当時の情勢認識からの作戦立案の過程で、真っ先に、ある深刻な問題について激論がなされた。

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金正恩

 それは、もし、アメリカ軍による精密攻撃で、北朝鮮のリーダーシップ(キム・ジョンウン委員長を始めとする国家指導部)のみを、ニュートラライズ(無力化=排除)した場合のことだ。北朝鮮全土に配置された残存する現地部隊等が、指揮系を失った場合を想定して事前に作られていた作戦計画に基づき、あるいは、指揮系を失って混乱したために暴走し、すべての兵器の使用をまったく躊躇(ためら)わない可能性まで、極めて深刻に危惧された。

 その“兵器”とはもちろん、核爆弾、病原性の細菌やウイルスといった生物剤、そしてVXやサリンなどの化学兵器という大量破壊兵器を含む」

 核爆弾の使用も凄惨な結果をもたらすが、生物剤についての問題が特に脅威とされた。

 インド太平洋軍幹部によれば、北朝鮮のリーダーシップがニュートラライズされた後、緊急事態計画に基づいて、生物兵器工場から、朝鮮人民軍幹部が天然痘ウイルスを密かに持ち出すことが強く懸念された。

 もし、その朝鮮人民軍幹部が、ソウル、東京、ニューヨークのどこか1箇所でも天然痘ウイルスを曝露(ばくろ)し、1人でも発症者が出れば、その瞬間、世界的緊急事態となると想定。感染者は1週間で全世界に広がるというシミュレーションまで行った、と語った。

「しかし、総攻撃のプランニングの過程で、アメリカ軍が最も重要視した懸念事項は3つあった」

 そう語るインド太平洋軍幹部がさらに続けて、まず1つ目として挙げたのが、“北朝鮮政権の強度”への懸念である。

「アメリカ軍が総攻撃を加えた時、もし政権が何らかの形で生き残った場合、国家を統治できる力が残っているか、もしくは、そもそもその力を北朝鮮政権は内包しているのか、そして、軍はボロボロでも残存部隊による反攻作戦を統制できるだけの強い意志があるのか――それらを、様々な情報から見極めることは非常に重要なことだった」

 2つ目の懸念として太平洋艦隊関係者が言及したのは、現地の部隊の士気の高さへの評価だった。

「指導部が吹っ飛んだ場合はもちろんのこと、総攻撃がなされている中、現地部隊の指揮官や隊員たちは、任務を放棄して逃走しないだけの士気の高さを持っているのだろうかという点も重要なファクターだった。10万名とも予測される特殊部隊以外の一般部隊は、冬は農作業をやったりと、それほど士気は高くないというインテリジェンスがあったのでその検証にも時間を割いた」

 しかし、2つ目の検討課題には苦悩し続けた、と同関係者は明かす。

「リーダーシップを失った場合に、最前線部隊の指揮官がどう行動するか、つまり不測事態対処計画については、実は、様々な観察情報収集ではよく見えなかった」

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