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尾木直樹 多様な学びの時代へ|特別寄稿「 #コロナと日本人 」

新型コロナウイルスは、世界の景色を一変させてしまいました。文藝春秋にゆかりのある執筆陣が、コロナ禍の日々をどう過ごしてきたかを綴ります。今回の筆者は、尾木直樹氏(教育評論家・法政大学名誉教授)です。

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それは突如として始まりました。二月二十七日夕方、安倍晋三首相は全国すべての小・中学校、高校などに、三月二日からの臨時休校を要請したのです。

それから実に二カ月半以上、全国の児童や生徒たちは学校にも公園にもいけない時間を過ごすことになりました。どれほどのストレスや不安が子供たちに襲い掛かったことでしょうか。今も学校は再開はされたものの大多数の児童や生徒は、分散登校や時差通学、短縮授業を受けることを余儀なくされています。

その一方で、多くの学校では「遅れを取り戻すため」と、例年なら休校期間中に行っていたはずの学力テスト、模擬試験から授業内で行う復習テストまで、次々と実施するようです。こうした「テスト漬け」の毎日では生徒が精神的にパンクしてしまう、学校が再開されてもまだ問題は多いと、とても心配しています。

僕自身はこのコロナ禍の間、取材漬けの毎日を送りました。四月から五月にかけて全国各地のテレビやラジオ番組にリモート出演したのは百回以上。正直こんなに依頼が殺到したのは初めてです。

お昼に北海道の番組に、その三十分後に広島のラジオにと出ていると、自然とそれぞれの地域ごとに子供が抱えている課題や不安、悩みなどの情報が集まってきます。それらを分析した結果、今回のコロナ禍では二つの大きな問題点が明らかになったといえます。

まず一つ目は「教育のICT化の遅れ」です。四月上旬にOECDは「新型コロナウイルス・パンデミックに対応する教育について」と題する報告で二十五の提言を発表。この中で特に強調されたのが「早急なオンライン環境の整備」(ICT化)でした。しかし、日本では四月時点の文科省の調査で、公立小中高校などを休校にしている自治体のうち、双方向のオンライン授業が実施できていた自治体はわずか五%。その後六月に入っても、こうした準備を進めると明言した自治体は十の都道府県に留まりました。

教育のICT化は来るAI時代に「子供が生き延びる力」を育むために必要な技術だとして、二〇一九年十二月に国が「GIGAスクール構想」を策定。令和五年までに一人一台の学習用端末やクラウド活用を踏まえたネットワーク環境の整備を推進するとしていました。今回はその流れを加速させるチャンスでしたが、うまくいきませんでした。「授業は生徒と対面して行うべきだ」という学校の「経験主義」が強すぎたことも一因になったようです。むしろ授業のオンライン化はそうした固定観念の強くない発展途上国で急激に進んだようです。

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