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「受験改革で国語力はアップするか」国語教育ではまず論理の力を鍛えよう

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「受験改革で国語力はアップするか」です。
★対論を読む

文・野矢茂樹(立正大学教授・東京大学名誉教授)

 2021年1月から大学入学共通テスト(新テスト)が実施される。それに先駆けて2017年5月に大学入試センターが公表した新テストの問題例を見て、「なんだこれ」と思った人も多いだろう。問題文の1つは小説でも評論でもなく、駐車場の使用契約書だった。こんなもの国語じゃないと感じた人もいるだろうし、契約書が読める人間を育てろというのかと思った人もいるだろう。それはまるで国語教育が経済優先の圧力に踏みにじられていく姿にも見えたに違いない。しかしそうした感想は、少なくともこの問題に関しては、誤解である。私はむしろこの問題に対してなかなかいいじゃないかと思っている。とはいえ、それはけっして私自身が経済の原理に従っているからではない。私の専門は哲学であり、およそ経済や実学とは遠いところにいる。ついでに言えば、契約書などはまったく読む気にならない人間でもある。

 契約書の条項が示され、第1問はこうである。サユリさんが契約を交わしてから3か月後、担当者から値上げの連絡がある。サユリさんは納得がいかない。そこで契約書に即して問い合わせをしたい。第何条に即してどのような質問をすればよいか。これが問題である。これはたんに契約書が読めるかどうかという問題ではない。より一般的に言うならば、規定が示され、それを具体的な場面に適用するという問題なのである。定義が示され、その定義に従うとどうなるかを問う、規則が示され、その規則に従うとどうなるかを問う、等々。さまざまな場面で要求される論理的能力である。それはけっして実学的な能力に限られるものではなく、この能力がなければ諸学問も成立しえないし、学生も学習を進めることができない。なるほど、契約書を問題文にしたのはイメージ戦略としては失敗だったかもしれないが、別になんでもよかったのだ。繰り返せば、一般的な規定、定義、規則が示され、それを具体的なケースに正しく適用する力、それが問われているのである。

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