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新聞エンマ帖「国葬報道」日本の政治報道部の宿痾

★「森友・加計・桜」と同じ隘路か

「森友」「加計」「桜を見る会」「学術会議」「東京五輪」。全て、安倍、菅両政権を通じ賑々しく政治報道を彩った政局キーワードである。顛末も同じだ。

(1)週刊誌や新聞の社会部の取材により疑惑が発覚する→(2)世論調査により問題視する声の高さと内閣支持率の低下が判明する→(3)政治部が政権存亡の危機を煽る→(4)だが野党の追及が甘く、問題が枝葉末節に移る→(5)結局、内閣支持率も回復し疑惑は疑惑のまま終わる――。

その点で直近のキーワードである安倍晋三元首相の「国葬」は、9月末現在で(4)の辺りに位置し、(5)の末路に至るか否かの瀬戸際といったところか。毎日が18日朝に配信した「連合会長『安倍氏国葬出席』が波紋 政府に恨み節も」との記事を読むと、そうとしか思えない。

連合の芳野友子会長が15日の記者会見で「神妙な面持ちで」国葬に出席する意向を表明したと書き、国民民主党と立憲民主党とで出席と欠席の執行部対応が分かれる現状を前提に「また連合の分断が深まらないといいが……」(産別幹部)や「そもそも政府が世論を分断する形で国葬を強行するからこうなる」(連合幹部)などの「反応」で記事を作る。

まるで、国葬の意義や法的根拠を追及するより、国葬の「出欠」とその損得といった枝葉が最大の関心事になったかのようだ。むろん、立憲民主党の蓮舫、辻元清美各氏らが招待状の写真付きで欠席の方針をSNSで発信するなど、政治家側がこの風潮を生んだのは間違いない。

国葬を巡っては、佐藤栄作元首相の死去の際、当時の内閣法制局長官が三木武夫首相に対し「三権の了承が必要」との見解を示した事実を発掘した朝日の8日朝刊記事など、本質に迫るものもある。

ただ、安倍氏が凶弾に倒れた事件を契機にして、旧統一教会と自民党との持ちつ持たれつの関係と、国葬を急いだ岸田政権の「聞く力」の嘘くささとが暴かれたはずだ。自民党政権の悪しき体質にメスを入れる絶好の機会なのに、政権叩きに奔走するばかりで事実究明が進まなければ「森友・加計・桜」と変わらず、組織の存廃や開催の賛否で踏み絵を強いるだけなら「学術会議・五輪」と同じ隘路に陥るのではないか。

本質より枝葉という低き方へと政治家もろともに流れてどうする。「日本の新聞社の政治部は正しくは政界部だ」と喝破したのは故丸山眞男・元東大教授だったが、それから半世紀以上たって宿痾はいよいよ深い。

★読売の「国から目線」に唖然

日本新聞協会の新聞倫理綱領は冒頭で「新聞の責務」について、こう記す。「正確で公正な記事と責任ある論評によって(略)公共的、文化的使命を果たす」。倫理綱領は新聞業界にとっての「憲法」。綱領の「公正」にも憲法と同じく様々な解釈があるからニュースを比べる醍醐味があるのだが、およそ公正とは言えぬ「目線」を隠さない記事もある。

9月13日の読売の社説「沖縄県知事再選 不毛な対立を国と続けるのか」は、論評としてあまりに公正さを欠く。

米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、沖縄県民は、各種の選挙で「移設反対」の民意を何度も示してきたが、国は工事を続けてきた。今回も改めて民意が示されたばかりなのに「不毛な対立を国と続けるのか」とは何事か。

読売は社説でたびたび選挙について「民主主義の根幹」と説く。ならば、沖縄の民意を踏まえて、国をいさめるべきだろう。それなのに、再選された玉城デニー知事に「県政を率いる立場にありながら、移設問題に固執するだけでは、住民生活の向上は望めない。交通網を含めた社会資本整備や、ITなど競争力の高い産業の育成を通じ、成長を図ることが重要だ」と論点をすり替えて注文を付ける。「国から目線」に唖然とする。

朝日では、「永田町目線」に驚いた。岸田内閣の支持率急落を受けた9月13日の朝刊三面の記事「首相自ら説明 裏目」である。岸田首相が安倍氏の「国葬」をめぐり、自ら国会で説明したことについて「理解は得られず、裏目に出た」。これでは首相が国会に出ず、「説明不足」との批判にほおかむりした方が、支持率が下がらなかったと言わんばかり。国会対策レベルの戦術論に過ぎない。

安倍首相のコピー

安倍晋三氏

産経にうかがえるのは「目線の混乱」。9月10日の社説「旧統一教会調査 自民はきっぱり手を切れ」では、「国民からいまだ疑念を持たれている団体の支援を受け続ければ、支持を失うのは火を見るよりも明らかである」と訴えた。その通りである。しかし、最後の一文で、迷走する。「これをきっかけに、自民党が特定の宗教団体や利益集団に左右されない『真の国民政党』に脱皮することができれば、凶弾に倒れた安倍晋三元首相への何よりの供養となるはずだ」。

安倍氏が旧統一教会と深い関係にあったのは、もはや明らか。そこに目をつむったまま「きっぱり手を切れ」と言われても説得力を欠く。長らく「安倍目線」で紙面を作って来た産経は基軸を失ったのだろう。「安倍目線」から脱皮すれば、「公正な記事」にたどり着くことができるはずだが。

★見つかるか五輪汚職の「宝」

五輪汚職報道は、相変わらず読売が好調だ。東京地検特捜部は9月6日、高橋治之・大会組織委元理事を、出版大手・KADOKAWAの五輪スポンサー選定をめぐる受託収賄容疑で再逮捕。さらに同社役員を贈賄容疑で逮捕したが、読売は3日朝刊で「KADOKAWAも仲介か 高橋容疑者 五輪スポンサーに」とスクープ。読売は7日に発表された今年度の新聞協会賞も「『五輪汚職事件』を巡る一連のスクープ」で受賞している。

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