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ヨシタケシンスケ 絵本づくりの秘密「逃げてもいい、と伝えたい」

7年前、デビュー作となる絵本『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)が、全国の書店員の選ぶ「MOE絵本屋さん大賞」で1位を獲得。以来、絵本を出すたび話題を集め、数々の賞を受賞してきた絵本作家・ヨシタケシンスケ氏(47)。2017年には、12万人の小学生が「今まで読んだなかで一番おもしろい本」を一冊投票する「“こどもの本”総選挙」で、上位10作中4作をヨシタケ氏の作品が占めた。

やわらかなイラストと、クスッと笑って心を緩めることばが今、子どもばかりか大人をも引きつけて離さない。

①ヨシタケシンスケ

ヨシタケシンスケ氏(絵本作家・イラストレーター)

手で隠せるように小さく描く

「せかいがかわってしまったら じぶんもかわってしまえばいい」

この8月に出した絵本『あつかったら ぬげばいい』(白泉社)の校了直前、急遽そんな一節を加えることを決めました。

コロナで世界が一変し、自分も変わらなくては、という恐れや不安がある中で、どうせ変わるなら誰かに強制されるのではなく、自分が生きやすいように変わりたいよね、ということを伝えたかったんです。自分に言い聞かせる意味もありました。

想像もしなかった災厄に、世の中全体が「これまでにないことが起きているぞ。何をすればいい、どう動くべきなんだ」と答えを求めて焦っているように感じていました。けれど誰も経験したことのないことに対して、すぐには答えを出すことはできない。子どもも、僕たち大人でさえも。だったら不安は不安のままで、わからないことはちゃんとわからないままにしておく勇気も持ちたいですよね。逃げ道を作って、とにかく今は自分のできることだけをやっていよう、という願いを込めました。

そもそも僕がイラストを仕事にするようになったきっかけが「逃げ」でした。昔から心配性で、すぐに不安になったり落ち込んだりしてしまう。気持ちをどうにか持ち上げる手段がスケッチでした。

大学院を出て就職したのですが、職場になかなか馴染めず、それを紛らわすために小さなスケジュール帳をいつも持ち歩き、愚痴や身の回りで起きた何気ないことを描きとるようになりました。だからスケッチは、「自分を楽しませようとした記録」であると同時に「逃げ場所」でもある。人に見られないよう、いつでも手で隠せるように小さく小さく描くんです。もう大きく描けなくなってしまって、絵本のイラストのほとんどは拡大して載せてもらっています。

②書影

絵本だけでなくエッセイも人気

絵本は“松葉杖”

ずっとイラストの仕事をしていた僕が絵本を描くようになったのは40歳になったとき。描いた理由は、依頼されたから。もともと、自分は言いたいことも特にないので作家にはなれないだろう、と思っていました。絵本を依頼されたときも、テーマは自由と言われたら全然描けなくて、「何かテーマをください」と編集者にお願いしたくらいです。

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