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コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 民主主義を考え直す力作|出口治明

1.岡本隆司他「シリーズ 中国の歴史」

中国は理解の難しい国である。しかし、わが国は輸出も輸入も中国が第1位であって、中国を抜きにして豊かな生活がおくれないこともまた自明である。好き嫌いは別にして、等身大の中国を理解し、上手に付き合う術を身につけなければならない。人を理解するには先ず履歴書を見るように、国を理解するにはその国の歴史を紐解く必要がある。このシリーズは、わずか5巻で中国四千年の歴史を骨太に描き切った出色の出来栄えだ。歴史学の新しい研究成果を十分に踏まえて、大きな見取り図で中国の本当の姿を我々に切り開いてくれる。中国の定義からして傑作だ。中国とは、草原世界の東部と海洋世界の北部が出会う場所なのだ。

2.宇野重規『民主主義とは何か』

今年の大統領選挙はアメリカの民主主義の底力を世界中に知らしめた。74歳と77歳の対決、しかも政策論争は抜きにした非難・中傷合戦。それでも選挙戦は盛り上がり、120年ぶりの高い投票率で若者が支持したバイデン候補が史上最多の7500万票で勝利した。わが国では考えられない快挙である。そもそも民主主義とは何か。著者は、「公共的な議論によって意思決定をすること(参加)」と決定された事柄について「自発的に服従すること(責任)」およびトクヴィルがアメリカで見出した「人々が自らの地域的課題を自らの力で解決する意欲と能力をもつこと」を民主主義の最大の可能性だと指摘する。民主主義を原点から考え直す力作である。

3.春名幹男『ロッキード疑獄』

今太閤と呼ばれた田中角栄元首相の逮捕に至って頂点に達した戦後最大の国際疑獄事件。著者は、15年にわたって丹念に資料を読み解き、田中外交に業を煮やしたアメリカ外交の責任者、キッシンジャー元国務長官が田中逮捕を演出した張本人であり、アメリカが守り切った巨悪の正体が岸信介元首相であったことを明らかにする。執念の労作だ。

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