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藤崎彩織 特別エッセイ「未来を変える性教育」

文・藤崎彩織(作家・ミュージシャン)

「あなたは変質者にあったことがありますか」友達にそんな質問をすると、十中八九「ある」という回答が戻ってくる。それも1度や2度ではなく、数度という回答がほとんどだ。

 私もある。最初は7歳の頃だった。小学校の帰り道に知らない男性から「どうしてもズボンのチャックが閉まらない。一緒にあの家の裏でチャックをしめて欲しい」と話しかけられ、困惑しながら物陰に隠れて男性のチャックを閉めるのを手伝った。父や学校の先生のような、自分が知っているどんな異性とも違う雰囲気の男性だった。

 無事にチャックが閉まると、男性は「ありがとう」と礼を言って立ち去ったが、手を振りながら私の胸はざわざわと音を立てた。言われたままに手伝っただけのつもりでいたが、もしかするとあの男性は危険な人物だったのかもしれない。知らない人についていってはダメだと両親に散々言われてきたのに、言いつけを破ってしまったのだろうか。きっと母は怒るだろう。学校で問題になってしまったらどうしよう。

 急に息が上がった。自分は悪いことをしてしまったかもしれないという不安で胸がいっぱいになり、どう説明すれば良いのか、どう説明すれば怒られないのかと震えながら考えた。結局、私は帰宅してからもそのことを母親に打ち明けることが出来なかった。

 性被害に遭ったにもかかわらず、「自分が悪かったのかも」「怒られる」と考え、親に言うことの出来ない子供は少なくない。事件として露見しているものよりも、遥かに多い性被害が存在するだろう。それには、性教育が足りないことによる知識の少なさが影響しているのではないだろうか。

 日本は性教育において後進国だと言われている。子供に性教育など早すぎると考える人もいるが、いきなり避妊や性行為のような踏み込んだ内容を教えるのではない。オランダの初等教育課程では、「誰かが自分のプライベートな部分(例えば、水着で隠れる部分)を触ってきたり、見せてほしいと言われたら絶対に『NO』と言おう」という授業が性教育の一環として行われている。例えばこうだ。

「よく知らないおばさんが訪ねてきて、あなたに(挨拶の)キスをしたいと言っています。そんな時どうしますか?」という状況設定で、教師と小さな男児がロールプレイを試みる授業。

 男児は「キスはいやだ」と発言し、一方で「握手ならいい」と意見する。5、6歳の子供でも、握手やキスといった他者からの身体接触に対してしっかり線引きをし、発信する訓練をされている。最初は自分の体を守る方法や、自分の意思の伝え方といった、他者との関わり方から学び始めるのだ。

 一方日本では、成人した女性でもセクハラに対して「NO」と言うのは決して容易なことではない。上司から腰に手を回されるのが嫌でも、同僚から気軽に胸のサイズを聞かれ傷ついても、嫌悪感をはっきりと言葉に出来る人は少ない。

 勇気を出して自分の気持ちを伝えることが出来ても、「冗談も通じない」「隙を見せている」と揶揄されてしまうことも多いからだ。

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