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スターは楽し ソフィア・ローレン|芝山幹郎

自生した果実の「無敵」

ジーナ・ロロブリジダ、シルヴァーナ・マンガーノ、ソフィア・ローレン、クラウディア・カルディナーレ。第二次世界大戦後、イタリアからは豪快な……もとい、豪華なスターが続々と登場した。

いや、「豪快」と呼ぶほうが、むしろ適切かもしれない。見た目の華やかさはいうまでもないが、彼女たちは、肝っ玉の据わり方が尋常ではなかった。

なかでもソフィア・ローレンの迫力は圧倒的だ。10代の私は、スクリーンの彼女を見て無敵だと思った。

174センチの長身。力強く突き出た胸。きゅっとくびれた腰。すらりと伸びた脚。眼は情感豊かに輝き、下唇は南国の果物のように柔らかそうだ。

見た目がゴージャスなだけではない。うぬぼれや小細工と縁のなさそうな率直さが感じられ、コミカルな味もある。正直で豪華でおかしい、と三拍子がそろえば、無敵と呼ぶほかないではないか。

あのころ私が見ていたのは、『昨日・今日・明日』(1963)や『あゝ結婚』(1964)のローレンだった。だれもが知る佳篇で、共演はもちろんマルチェロ・マストロヤンニ(彼とは都合11本も協働した)。陽気で、情感の深い映画だ。

ローレン自身も、脂の乗り切った時期だった。なにしろ芝居ができる。造作のくっきりした美貌や奔放な姿態を強力な武器としつつ、容姿にもたれぬ技をつぎつぎと繰り出してくる。昂然と頭を上げたライオンのように街を歩く姿と、好きな男を信じられずにしょんぼりしてしまう姿を難なく同居させている。

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