カツ丼

中華店でカツ丼、オムライス 消えゆく昭和の食文化 “町中華”はどこへ行く

文・北尾トロ(町中華探検隊隊長)

 単品からセットメニュー、定食まで揃え、1,000円以内で腹いっぱい。ラーメンや餃子、炒飯などはもとよりカツ丼やオムライス、カレーライスもあったりする、昭和の香りが漂う日式中華店が、町中華という新たな呼称でちょっとしたブームになっている。ラーメン屋が専門店を指し、中華料理店が本格的な中国料理店まで含む総称となって以降、中途半端な存在になっていた町の中華店が、誰もがイメージを共有できるジャンル名を得ることで復活したと言えるだろう。独身時代、さんざん世話になったことを思い出し、再び通い始めたオヤジ世代もいそうだ。さらには、チェーン店が幅を利かせる飲食業界で、しぶとくがんばる個人店への再評価ととらえることもできる。

 しかし、町中華の現状は厳しい。ブームの根源は、懐かしい味、ホッとする居心地だと思われるが、それが示しているのは、店の佇まいが何十年も変わっていない事実である。町中華はいま、超高齢化の波にさらされ、70代の店主がザラにいるのだ。昔のように儲かる商売ではないので、子どもに後を継がせたがらない店主も多く、後継者不足も深刻。もともとの数が多いため気づきにくいが、ひっそりと消えていく店が跡を絶たない。

 町中華は戦後の復興期にその姿を現したと目されるが、誰かが先頭に立って広めたというより、闇市で商売する人や、地方から都会に出てきて一旗揚げようと奮闘した人、満州を始めとする大陸からの引揚者などが渾然一体となって作り上げた食のジャンル。1945~1952年までのGHQ統治時代、食料不足を解決する手立てとして導入され、その後の日本人の食生活に多大な影響を与えたアメリカの小麦戦略を巧みに利用。戦前から人気のあったラーメンと、満州から伝わった餃子を2本柱に、1950年代あたりから店舗を増やし、高度成長期の波に乗って、急速に全国へ普及していった。

 その過程で、現在ではおなじみの中華丼やつけ麺といったオリジナルメニューが開発されていく。家庭で大人気となった『味の素』を積極的に取り入れ、町中華らしいパンチのある味を完成させたことも成功の一因だろう。

 少ない資金で手っ取り早く開業できた町中華は、当時「金の卵」と呼ばれた、地方から都内へ出てくる集団就職者にも、お腹いっぱい食べられる勤務先として人気があった。10年ほど腕を磨くと、彼らの中から日本独自のシステムである“のれん分け”で店を出す者が出てくる。本店と支店のような上下関係はなく、それぞれ独立した店でありながらグループ(のれん会など)を形成して、いざというときは助け合うのだ。金銭のやりとりはないのが一般的で、独立させた側は知名度の拡大、新規独立店は人気店の名前を使うことで商売がしやすくなるメリットがあった。このような仕組みで、前回の東京オリンピックが開催された1960年代半ばに町中華は最初のピークを迎える。東京エリアで名を馳せた『丸長』グループなどは、のれん会だけで野球大会を開催できたという。

 若さも特徴だった。10年修業して店を持った集団就職者はまだ25歳なのである。店員はそれより若い。客も、学生や現場作業者など、若い男が中心。いまでも大盛りで味付けの濃い店が多いのは、それを求める客が主流だった名残である。

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