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マスクを外して低山を往く「全国珠玉の6山」 コロナ禍の登山は最高の運動

自然のなかで思い切り深呼吸。初心者でも楽しめる登山のすすめ。/文・萩原浩司(「山と溪谷」元編集長)

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山はオープンな空間ですから、マスクを外して深々と息を吸い込むことができる
40~50分間歩いたら、5分ほど休むこと。あまり長く休むと身体が冷えてしまう
山歩きは、あることで楽しみが倍増する。それは、温かい飲み物を持参すること

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萩原氏

山歩きは最高の運動

NHKの番組収録などで全国の山へ出かけます。そこで山歩きをしている70代、80代の方をお見かけすると、その元気な姿に励まされます。おそらく、90年代の日本百名山のブームで始められた方が、今も現役で楽しまれているのでしょう。山ガールも健在で、ひとりで山を往くしっかりした女性が増えました。山歩きは体力にあったコースを選べば、誰もがいつまでも楽しめます。

コロナ禍の今、特に山歩きは最高の運動です。その理由は、密を避けられるからです。山はオープンな空間ですから、マスクを外して深々と息を吸い込むことができます。また、体にいいことはいうまでもないでしょう。話ができるくらいの速度で、ある程度の距離を歩くと良い有酸素運動になります。

そしてなにより、自然に身を置くと心が癒されます。特にこれからは、植物の生命力を強く感じられる季節。生命力溢れる山は、歩いているだけで活力が満ちてきます。

今回は初めて山を登られる方が気軽に楽しめるよう、履き慣れた運動靴やウォーキングシューズで行ける低い山を選びました。合計4時間半ほどの短いコースです。重い荷物は必要ありません。手持ちのリュックで充分です。登りやすいだけでなく、季節の花や絶景など、目にも楽しいところをセレクトしました。

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人気の高尾山山頂は眺望が最高

一度は登りたい高尾山

最初に高尾山をご案内しましょう。東京の中心から電車で約1時間とアクセスのいい高尾山ですが、今回はそこから景信(かげのぶ)山までふたつの峰を歩いて繋ぐ“縦走コース”です。

高尾山はミシュランの三ツ星にも認定された山で、大勢の登山客で賑わいます。穴場ではありませんが、初心者は誰もいない山道より、ある程度人がいるほうが安心して歩けます。私も何度か訪れていますが、実際に歩きやすく、人気を集める理由がよくわかります。

しかし、今回は縦走コースです。一般に知られている高尾山登山とは異なる、軽登山の魅力の一端を味わっていただけると思います。

京王・高尾山口駅から1号路に入り、金比羅台、薬王院を経て高尾山山頂を目指します。金比羅台では東京都心の展望を楽しみ、薬王院では安全登山を祈願しましょう。高尾山山頂は人が多いかもしれません。ここは人込みを避け、マスクをつけて休んでください。

ひと息ついたら一丁平、城山を経由して景信山を目指します。一丁平から城山にかけては桜が並ぶ名所です。都心よりも遅咲きの桜を眺めながら、遠くに富士山も望めます。歩を進めて富士山が近づいてくるのは、心躍るものです。途中にはいくつかの茶屋もあり、名物のなめこ汁や揚げたての山菜の天ぷらでもてなしてくれます。疲れたらお店で休めるのも、このルートの魅力です。こうして景信山山頂に到着すると、関東平野の広々とした眺望の良さに、気持ちいい達成感を得られます。

景信山までの登山に慣れたら、さらに陣馬山まで足を延ばす奥高尾縦走コースや、大垂水峠から南高尾山稜を目指す静かなコースなど、高尾山を起点に多彩に楽しめます。高尾山は実に奥深い、魅力的な山です。山歩きを始めるには、まずは一度、体感されることをおすすめします。

注意したいのが、山歩きではつい頑張って歩きがちだということです。最後まで歩くためにも、忘れずに休憩を取ってください。40~50分間歩いたら、5分ほど休みましょう。あまり長く休むと身体が冷えてしまうので気をつけてください。

●京王・高尾山口駅(30分)金比羅台(1時間15分)高尾山(1時間)城山(1時間)景信山(45分)京王バス、小仏バス停 《計4時間30分》

高尾山頂からの富士山

高尾山の山頂から望む富士山

子どもと楽しめる簑山

お子さんやお孫さんと山歩きをしてみたいという方におすすめしたいのが、埼玉県の北西部、東京や山梨との県境も近い秩父の簑山です。

秩父鉄道の親鼻駅を出発して簑山山頂まで1時間20分ほど。帰りは、来た道を折り返して親鼻駅に戻るルートと、さらに1時間ほどかけて秩父鉄道の和銅黒谷駅に下りるルートがあります。初めてであれば、折り返すルートだと迷いませんし、計2時間30分ほどと短い行程です。

私もある企画で子どもと登ったことがありますが、関東ふれあいの道というよく整備された登山道は、急勾配や滑りやすい箇所がなく、誰もが安心して歩くことができます。

ガイドブックなどで簑山に「美の山」という当て字を使うこともあるように、山頂からの眺めが本当に美しい山です。展望台に立つと、秩父を囲む山々を広く一望できます。

簑山の山頂は、桜の名所としても知られ、“関東の吉野山”とも呼ばれています。ヤマザクラやソメイヨシノなど約160種類、8000本以上の桜が植えられており、仮にソメイヨシノが盛りを過ぎても、八重桜が出迎えてくれます。長い期間にわたって、さまざまな種類の桜を愛でることができる場所なのです。

桜の季節はそれなりの人出がありますが、山頂には平坦な広いスペースがあるので、周囲の人との距離を保って花見のスペースを確保できるでしょう。秩父鉄道のSL運転日であれば、山頂からSLの雄姿を見ることができます。休日なら、お昼より少し前に親鼻駅のあたりを通過します。ぜひ、秩父鉄道のホームページで運行を確認してみてください。

SLを見ると子どもは大喜びしますが、子どもは比較的飽きやすいです。歩くときは「あそこまで行ったら休もう」などメリハリをつけることが大事です。また、興奮して最初は飛ばしてしまい、後半に電池切れを起こしがちです。大人がそのあたりをセーブしてあげてください。

●秩父鉄道・親鼻駅(20分)車道(30分)蓑山神社(30分)簑山(25分)蓑山神社(35分)親鼻駅 《計2時間20分》

クレジット必要 (C)aflo

桜が美しい簑山山頂の展望 ⒸAflo

石割山は温泉も魅力

とても美しい富士山の姿を眺められるのが、山梨県の山中湖畔から登る石割(いしわり)山です。富士山はどの角度から見ると一番美しいのか、ということは、しばしば議論になります。個人的には、富士山の北面を正面に見る石割山山頂からのアングルが、ベストのひとつだと思っています。また、このアングルでは富士山の麓で山中湖が青々と輝いていて、富士山の偉容を際立たせます。

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