西寺郷太_ナインティーズ

西寺郷太 小説「'90s ナインティーズ」#5

第一章
Once Upon A Time In SHIMOKITAZAWA

★前回の話はこちら。
※本連載は第5回です。最初から読む方はこちら。

(5) 

 トリに登場するはずの STARWAGON を目当てに、 CLUB Que を訪れたはずの僕だったが、2番目に登場した3人組 PEALOUT の破壊的なまでに胸に押し寄せる轟音サウンドにまず圧倒された。ヴォーカルとベース・近藤智洋、ギター・岡崎善郎、ドラム・高橋浩司。後にメジャー・デビュー。FUJI ROCK FESTIVAL の常連となり、悲しいほど正直でストイックな姿勢のままに結成からの11年間を駆け抜けた彼らは、2005年に惜しまれつつも渋谷クラブクアトロにて解散し伝説となっている。

 1994年12月5日、新宿ロフトで初ライヴを行った PEALOUT にとって、この夜の下北沢でのライヴはまだ5回目。4曲入りカセット『I’M GONNA WHISPER TO YOUR LIGHT』があまりにも素晴らしく、夢中になった僕は、1995年春以降 NONA REEVES が軌道に乗るまでの一年の間、ほぼすべてのライヴを追いかけることになる。

 正直、この時期、僕が好んで聴いていたファンキーでグルーヴィーな音楽に比べて、圧倒的にオルタナティヴでハードなスタイルが彼らの持ち味だった。しかし、3人全員が「ビートルズ・シネ・クラブ」に加入していたことが結成の理由というビートル・マニアの彼らと、同じく小学生の頃からのシネ・クラブ会員であり「ビートルズ復活祭」の常連だった僕には楽曲の「軸」、メロディや響き、そしてメンバー同士の物語を重んじる共通点があったのだろう。

 この年、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの3人が、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のジェフ・リンを共同プロデューサー、まとめ役として再集結していた。未発表曲を集めたアルバムや、映像や証言をドキュメンタリーとして編集し、新たなるビートルズ伝説が始まるとマニアの間で大きな注目を集めていたのだ。結果的に12月になって、1980年に亡くなったジョン・レノンが遺したデモ・テープに、ポール、ジョージ、リンゴ3人の演奏や声を重ねた〈フリー・アズ・ア・バード〉が発表されるのだが、この壮大な「アンソロジー・プロジェクト」の噂や情報交換、温度の共有も、僕と PEALOUT の3人が仲良くなれた理由だったように思う。

 湧井さんと僕の間には、「師弟」とも呼べる絶対的上下関係が存在した。もちろんそれはとても有難かったのだが、気難し屋の湧井さんと同い年にもかかわらず、PEALOUT ドラマーの「浩司君」は醸し出す親しみやすさからか、当時から「くん付け」で呼ばせてもらう兄貴的存在だった。

 そんな彼も一旦パフォーマンスが始まり「戦闘モード」に入ると、全身全霊でショットのすべてに魂を込めた「ロック・ドラマー」に変貌する。10代のバンド生活のほぼすべてを「ドラマー」として過ごしてきたドラム出身の僕にとって、浩司君の「スネア、キック、ハットやシンバルすべてがエモーショナルに歌い狂う」スタイルはひとつの理想で究極だった。彼は「音楽そのもの」「一緒に演奏する仲間そのもの」を愛する男だった。

 浩司君はお酒を飲まない人だったので、よく打ち上げの後、愛車日産シルビアを運転して東中野の僕の自宅マンションまで送ってくれていた。たいていのドラマーはドラムセットなどを運ぶため機材運搬用のハイエースや収納スペースの確保出来るステーション・ワゴンに乗っていたのに、浩司君は何故かスポーティでいかにもトランクも狭そうなデートカー5代目シルビアに乗っていた。色はアイボリー。何人か送る場合、僕の定位置は後ろの席。文句を言える筋合いは何一つないのを承知の上で、よく「シルビア、めちゃ後ろ狭いですよ」とか、そういう軽口を叩いたものだが、バックミラー越しに浩司君は「ゴータ、うるさいよ!」と言いながら笑っていた。

 打ち上げで。そしてシルビアの車中で。特に出会ってからの約1年の間、何度も話し、お世話になり、濃密な時間を共に過ごした浩司君。好奇心旺盛で「質問魔」、これからの自分の身の振り方を模索していた21歳の僕に、彼は PEALOUT にたどり着くまでの自身の流れを優しく教えてくれた。

「俺、大学卒業してすぐ『リンキイディンク』の社員になったんだよね。都立大学のリハーサル・スタジオで、店長と社長と2人しかいないから、俺がまだ3人目でさ」

「いきなりスタジオに?」

「どうしてもバンドやりたくてさ。そういう仲間と触れ合える場所にいたいなって思ったんだよね。で、その時期に好きなUKロック、『スクリーマデリカ』プライマル・スクリームとかね」

「ティーンエイジ・ファンクラブとか? 湧井さんも大好きで」

「そうそう。あとは、マニック・ストリート・プリーチャーズ、マニックスだね。俺がずっと編集した、そんな感じのバンドの好きな曲のカセット・テープを店内で鳴らしてたんだよね。そうしたら『俺もこういうの大好きなんだよね』と、話しかけてきたのが ZEPPET STORE ってバンドのヤナ、ドラマーの柳田英輝だったんだよ」

「それいつ頃ですか?時系列オタクなんで、すいません」

「えーと、俺浪人してて、90年に就職したから、翌年の秋だった気がするなぁ」

「僕、その時、高3でした。マイケルの『DANGEROUS』が出た頃ですね」

「あはは、ほんとゴータ、マイケル情報詳しいよね」

「すいません、どうしてもマイケルで考えちゃう癖があって」

「いや、全然良いんだけど。それでさ、まず、ゼペットのメンバーと意気投合して。最初に STARWAGON と対バンしたのは、今年の1月なんだけど。その時、念願叶ってゼペットも一緒になれたんだよね。上条兄弟は前のバンドの時から仲良かったみたいで楽屋で盛り上がってたよ」

「あ、じゃあ、湧井さんとは出会ってからそんなに時間経ってないんですね」

「そういう意味ではそうだけど、大ファンになったからね。STARWAGON のミニ・アルバム聴いてさ。で、対バン出来たと。それこそ Que でね。1月の14日とか15日じゃないかな。阪神・淡路大震災発生の直前だったから覚えてるんだけど。ZEPPET STOREも一緒でさ」

「ZEPPET STORE、聴きたいです! で、あの、浩司君、今はバンド以外にどんな仕事されてるんですか?『リンキイディンク』ですか?」

「タワーレコードで働いてるよ。インディーズバイヤー」

「え?」

「タワレコの池袋店で。自分で好きなバンド、展開出来たりプッシュ出来るから楽しいよ」

「浩司君、あの、え? 池袋店ですか!?」

「そうだよ」

「僕、池袋店で STARWAGON の『サムワン・トゥ・ダイ・フォー』買ったんですよ。大展開されてて超驚いて。腰抜かしそうになりましたよ」

「エドウィン・コリンズも絶賛!でしょ?」

「あ、そうです! まさに!」

「あ、それ俺が書いたんだよ」

「えー!! 湧井さん、『池袋のタワーレコードなら、売ってるんじゃないかなぁ?』みたいにシレッと言ったんですよ」

「湧井君、店にも展開見にきてたから、もちろん知ってたはずだよ」

「知ってて言ったんですか! 湧井さん! あんな風に何気なく! 俺に……。だから、あのタイミングだったんかー! うわー、めちゃ策士じゃないですか。まんまとハマりましたよ。別にいいんですけど」

「本当に、友達だからとかじゃなくて、カッコいいって思ってるからプッシュしたんだけどね。めちゃくちゃ売れたよ。でもさ、その感じ、湧井君ぽいよね」

 浩司君は、悪戯な微笑みを僕に向けた。

「めちゃくちゃ、湧井さんぽいです」

 僕も一緒に笑った。

(続く)

★今回の1曲―― The Beatles - Free As A Bird (1995)

(連載第5回)
★第6回を読む。

■西寺郷太(にしでら・ごうた) 
1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド「NONA REEVES」のシンガー、メイン・ソングライターとして、1997年デビュー。
以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても少年隊、SMAP、V6、YUKI、鈴木雅之、岡村靖幸、私立恵比寿中学などの多くの作品、アーティストに携わる。
日本屈指の音楽研究家としても知られ、近年では特に80年代音楽の伝承者としてテレビ・ラジオ出演、雑誌連載など精力的に活動。マイケル・ジャクソン、プリンスなどの公式ライナーノーツを手がける他、執筆した書籍の数々はベストセラーに。代表作に小説『噂のメロディ・メイカー』(扶桑社)、『プリンス論』(新潮新書)など。
現在NHK-FMで放送中の「ディスカバー・マイケル」に案内役としてレギュラー出演。


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