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安倍長期政権の驕りを糾す! 古賀誠・元自民党幹事長「岸田総理を菅さんが支える」

今の安倍総理は、鞘から権力という刀を抜き、ひけらかしているように見える。政権に驕りが見えるし、緊張感を欠いているのは否めない。安倍総理の後は、岸田文雄さんに舵取りをして欲しい。今こそ、一致結束で宏池会政権の樹立を。/文・古賀誠(元自民党幹事長)

権力は鞘に収めておくべき

昨年11月に安倍晋三総理の在任期間は憲政史上最長に到達しましたが、長い間、政権与党の中にいた私から見れば、功罪相半ばするものがあります。

まず評価すべき点で言えば、何より政治が安定していること。政治が不安定だと、国民生活に様々な支障を来してしまいます。桜を見る会などで支持率が下がったといっても、まだ40%を超えている。歴代の政権を見てもなかなか40%には届かなかったことを思えば、十分に安定していると言えるのではないでしょうか。

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 安倍首相の総裁任期は残り1年半

反面、長期政権の弊害として、どうしても国民の間に「飽き」が出てきてしまう。結果として政権にも驕りが見えたり、緊張感に欠けた政権運営になりがちです。実際、昨年の臨時国会では、任命したばかりの2人の大臣が辞職に追い込まれました。

私たちは先輩の先生方から、「権力というのは、その力が強ければ強いほど鞘に収めておくべきもの」と教わってきました。ところが今の安倍総理は、鞘から権力という刀を抜き、ひけらかしているように見える。公的な行事であるはずの桜を見る会に大勢の地元支援者を招いていたことは、象徴的だと言えるのか分かりませんね。

野党は今、ここぞとばかりに総理を追及しています。それに対し、総理も感情的になってしまう。人間だから仕方がない。しかし少なくとも一国の最高指導者である以上、我々よりも我慢をしてもらわなくてはいけません。我慢をすることもリーダーとして大事な資質です。

ただ、野党のことを言っては悪いけれど、何でもかんでも攻撃一辺倒という政治手法は、昔と全く変わっていませんね。相変わらず中身のない連合政権の幻想を夢見ては、攻撃に終始している。国民もそのことをよく見ているから、支持率がまだ40%以上もあるのでしょう。

「つくしの坊や」発言の真意

その安倍総理の総裁任期は2021年9月までですが、一部には総裁4選を求める声も出ています。当然ながら、色んな意見があっていい。

しかし、政治に携わる人間にとって、誰を総理=総裁として推すかということは極めて重要な選択だと思っています。日本が誰を必要としているか、日本がいかなる指導者を求めているか。使命感を持って、国民の声を丹念に拾い、冷静に誤りのない分析をする。国会議員の先生方にとって、それが最も大事なことです。

「国民の声」という意味では、世論調査を見ますと、石破茂さんへの支持が高いようです。もちろん総理に対し、言うべきことを言っているという面もあると思いますが、これは具体的な政策というより、やはり長期政権への「飽き」が大きいことの裏返しでしょう。

ただ、宏池会政権を実現したい私の立場から言えば、やはり安倍さんの後は、派閥の会長である岸田文雄さんに舵取りをしてもらいたい。

私は、総理大臣には細かな政策は別にして、「3つの柱」をしっかり持って頂きたいと思っています。1つ目は国民に対する政治家としての責任。2つ目は世界の国々に対する日本の指導者としての責任。3つ目は次世代に対する責任。この3つの柱を岸田会長がどのように考え、国を作っていこうとするのか。

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岸田政調会長

これまで岸田会長には、期待も込めて厳しいことも申し上げてきました。昨年8月には、報道番組で「いくら禅譲といっても『つくしの坊や』じゃないが、ポキッと折れたら何もない」と発言したことがメディアでも取り上げられましたが、あの頃はまだ、総理総裁を目指していくという決意、宏池会の会長として保守本流を担っていくという自覚と責任が明確には見えてこなかった。しかし、そこから少しずつ次の総裁選に立候補するという心構えが出てきたように映りますし、ご自分の考えなども率直に仰っているように思います。おこがましいことですが、大きな成長の一つではないでしょうか。

確かに、石破さんに比べて、世論調査の数字はまだ高いとは言えません。だけど、そう物事を急かさないで下さい(笑)。総裁選出馬を決意され、今まさに血を流して肉を付けている時です。もう少し魅力が出てきて欲しいとは思いますが、過剰な期待感を押し付けてしまっては、岸田会長もかわいそうだと思いますよ。

同じ派閥とはいえ、よく「なぜ古賀さんは岸田さんと近いのか?」と聞かれます。私は叩き上げの党人派でしたが、岸田さんは真逆。名門開成高校の出身でスマートなイメージが強い。不思議に思われるのでしょう。

あえて言えば、岸田さんのご尊父、岸田文武さん(元衆院議員)が宏池会の1期先輩で、よく食事や飲み会に誘って下さいました。残念ながら65歳で亡くなられ、後継者の岸田さんが若くして国政に出てきた。ご子息に恩返しを、という意識もあったのだと思います。しかも、地元が近い。私は福岡で岸田会長は広島。新幹線に乗れば1時間半程度の距離です。岸田会長が当選1回生、2回生、3回生くらいの頃は、選挙があれば、よく広島まで立ち寄って応援させてもらいましたね。

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岸田さんに派閥を引き継いだのは12年9月です。この時点で私は、次の選挙には出ないことを決めていました。当時、岸田さん、逢沢一郎さん、林芳正さんという3人の先生が派閥の要職に就いておられた。彼らを集めて「後を決めておきたい。話し合いで決めてくれ」と伝えたんです。ところが、3人とも黙り込んだまま。僭越でしたが、私から「岸田さんで行きましょう」と指名いたしました。あのお人柄です。最初は「いやー」と遠慮していましたが、逢沢さんも林さんも「是非」ということで、後任の会長をお願いしたという経緯があります。

菅さんの骨のあるところも好き

岸田会長ともう1人、私が期待しているのが、菅義偉官房長官です。

私と菅さんは同じ体験の共有者なんですね。私は戦争で4歳の時に父を亡くし、女手一つで苦労する母を見て、国会議員になろうと決意しました。そこから国会議員の秘書を経て、政治家になった。菅さんも出身地の秋田から横浜に出られ、国会議員の秘書、地元市議を経験し、苦労されて国政に進出した叩き上げの政治家です。

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 菅官房長官

私はよく「“土の匂い”を感じる」と言うんですよ。苦労した体験を生かす政治、地方や弱者にも優しい政治で、日本を引っ張ってもらいたい。何も、2世3世議員だけに総理総裁の資格があるわけではないのですから。

もちろん、世襲議員が一律に悪いとは言いません。ただ一つ言えるのは、2世3世議員は「ふるさと」を持っていないということです。週末は選挙区に帰るのですが、彼らはそこで生まれ育ったわけではありません。学生時代の友達だって東京に居るわけでしょう。私の友達なんか、土に這いつくばって生きてきたヤツばかりですよ。残念ながら、そういう“土の匂い”は勉強しても身に付けることはできません。岸田さんもそうですが、この点は我々と2世3世議員との決定的な違いです。

菅さんは今でこそ無派閥ですが、以前は宏池会に入っていました。ところが、09年の総裁選で、私に真っ向から反発して、派閥から出て行ったのです。私の推薦する候補者とは別の候補の推薦人になった。当然、「会長の俺に楯突くのか」と悔しさ、無念もあったけれど、まぁそういう骨のあるところも好きなんですよ。

安倍政権がこれだけ安定した政権になったのは、番頭役だった菅さんの働きが大きかったのは間違いない。危機管理をはじめ、政権のために身を粉にして働いてこられた。大変素晴らしいことだと思います。

ここのところ、菅さんは色々ご苦労も多いようですが、政治の世界ですから、風も吹けば、雨も降る日もある。しかし、そういうこと一つ一つが血肉となり、より大きな器になっていくのではないでしょうか。皆さんがどういう想像をされるかは別ですが、私は今も菅さんに大変期待しているし、信頼もしています。ほら、そこ(古賀事務所の応接室)に私の孫を菅さんが抱いている写真が飾ってあるでしょう。どういう意図なのか、先月の「赤坂太郎」には、写真が「見当たらなかった」と書いてあったけれど、ずっと置いているんですよ(笑)。

あと、菅さんは、二階俊博幹事長ともすごく仲良くやっておられるみたいですね。二階さんも2世3世議員ではなく、同じ“土の匂い”のする政治家。私にとっても、同志として数少ない盟友です。

その菅さんと岸田会長がタッグを組めば、強いよね。

ところが、2人は同じ宏池会だったのに、どうも互いが互いを苦手にしているのか、接点があまりないようです。でも、一瞬でグッと近づく時もあれば、どれだけ仲が良くても一瞬で離れる時もある。それが政治ですから。もちろん、私が2人を引き合わせるなどという恐れ多いことは、今の時点では考えてもおりませんが……、本当に良い組み合わせだと思いますね。

ただ、今でも菅さんを総裁として見てみたいとも思っていますが、宏池会の政権を作ることが私の最大の責務である以上、何としてでも岸田会長を総理総裁にして、保守本流の政治を担ってもらう。その時に菅さんは幹事長なのか、官房長官なのか。いずれにしても、菅さんの力を引き続き国政で生かして頂きたいと思っています。

安倍改憲案「自衛隊明記」には反対だ

岸田会長のことは、安倍総理も期待しておられるようですね。岸田さんもそれは素直に受け止めておられるのではないでしょうか。

総理は岸田さんに憲法論議を進めていくことも、期待しているのでしょう。大いに結構だと思います。法律は国民が守るものですが、憲法は国民が国家に守らせるもの。国会議員である以上、憲法を勉強し、議論を行うのは当然のことですから。私も、緊急事態条項の創設や教育の充実、合区解消など、自民党が掲げる改憲項目はどれも重要だと思っています。ただ一点、憲法9条に自衛隊を明記するという案を除いて、です。

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安倍総理はよく「自衛官が息子に『お父さん、憲法違反なの?』と尋ねられ、息子は目に涙を浮かべていた」と説明していますが、本当にそうなのでしょうか。私は、憲法に書かれていないからといって、自衛官の方々やそのご家族の方々がかわいそうとは思いません。災害支援をはじめ、あらゆる分野で国民の多くが自衛隊に感謝と尊崇の念を持っています。自衛隊の存在は国民の皆さんに十分に認められているのです。

もし自衛隊の存在を憲法に書き込めば、戦争に近付く“蟻の一穴”になりかねない。かつて小泉純一郎総理が「自衛隊が活動しているところは非戦闘地域だ」と答弁をしていましたが、最近は実際に戦闘地域の近くまで行くようになっている。歯止めをかけたつもりでも、1つ穴が開くと、運用はどんどん広がっていくのです。

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こういうことを申し上げると、特に戦後生まれの若い先生方から「古賀さんの言うことは非現実的で理想に過ぎない」と反論されることがあります。しかし、そういう理想を実現するために、政治というものがあるのではないのか。憲法9条には、大東亜戦争の反省に立った国民の決意と覚悟が込められている。その憲法9条を守り抜く精神こそ、池田勇人さんが旗揚げし、護憲派だった大平正芳さんや宮澤喜一さんらへと連なる宏池会の哲学なんです。だから、本当は岸田会長にはこうしたことをもっと打ち出してもらいたい。別に安倍さんも「それなら岸田さんを応援しない」なんて絶対に仰いませんよ。

「耳の痛いことも伝える」のが宏池会の政治

宏池会の政治とは何か。もう少し説明しましょう。

日本ではここのところ、森喜朗さん、小泉さん、安倍さん、福田康夫さんと、総理の祖父、岸信介さんを源流とする清和会が総理大臣を輩出し続けてきました。その清和会の政治とは、言うなれば、国家の力を強くしていこうというものです。一方、宏池会の政治とは、国民の考え方や自由をもっと大事にしていこう、というもの。そして、批判や悪口ではなく、徹底した現実路線を貫く。国民に聞こえが良いことだけを言うのではなく、耳の痛いこともきちんと伝えていく政治です。

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例えば、宏池会出身の大平正芳総理はかつて「売上税」の導入を提唱しました。将来の高齢化社会を見越し、安定した財源確保のための構想だった。直後の衆院選では自民党は大敗しましたが、そこには、必要なことは言わねばならないという信念があったのです。

清和会の政権はどうだったか。国民のニーズに応えるためにやむを得ない面もありましたが、赤字国債をどんどん発行し、国の借金は1000兆円を超えた。40年ほど前、大平政権の頃の借金は何十兆円というオーダーですから、増え方が尋常ではないことが分かるでしょう。

痛みは伴うけれど、財政規律は守るべきです。経済学者の中には「内国債(自国で発行された債券)である限り、国の資産だ。国債利子も資産所得なので、金額が大きくなっても問題ない」という意見があります。確かに一理ありますが、現実の財政レベルの話としては政策の裁量の余地が狭められるということは重大な問題です。

大平総理と小泉総理の違い

20年度予算案(約102.7兆円)で言えば、最も大きいのが社会保障費(約35.8兆円)。次が国債費(約23.3兆円)。そして地方交付税(約15.8兆円)。毎年、この3つで予算の70%を超えているのです。逆に言えば、他の政策に対する裁量権は約30%にすぎない。だから、最も大事なはずの科学技術への投資、中小零細企業対策などもなかなか伸びません。由々しき問題です。こうした現実がある限り、「内国債だから大丈夫」という意見は間違いだと、私は思いますね。

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★2020年4月号(3月配信)記事の目次はこちら

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