蓋棺録2

蓋棺録<他界した偉大な人々>

偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム。

★和田誠

蓋棺録・写真1(和田誠)

 イラストレーターの和田誠(わだまこと)は、独特の似顔絵で親しまれ、映画監督としても心を打つ作品を残した。

 週刊文春2017(平成29)年7月20日号は、和田の2,000枚目のイラストが表紙を飾った。和田の表紙が始まってから40年の年月が流れていた。妻の平野レミが感想を聞くと、作業を続けながら「普通だよ」と答えた。「普通だよ、なんでもないよ」。

 1936(昭和11)年、大阪に生まれる。父親は小山内薫の築地小劇場の創立メンバーで演出家だった。終戦の年に東京に移ったが生活は苦しかった。千歳高校(現・芦花高)時代には、授業はそっちのけで、教師たちの似顔絵を描いていたという。

 多摩美術大学3年のとき、日本宣伝美術会に応募した映画ポスター「夜のマルグリット」が入選して注目される。59年、卒業と同時に広告制作会社ライトパブリシティに入社。翌年、タバコ「ハイライト」のデザインを担当して採用された。24歳だった。

 このころ、イラストレーターの宇野亜喜良や横尾忠則と出会い、「よく、3人で落ちあって昼飯を食った」。話題は映画の話が多く、それぞれ趣味が異なるので論争になったという。「ぼくはヌーベルバーグを褒めなかったので、呆れられたりしました」。

 広告制作を担当しながら、映画のタイトルデザインやアニメ製作にも携わる。雑誌『話の特集』のアートディレクションを個人的に引き受け、表紙には横尾忠則を起用した。68年にライトパブリシティを退社して独立する。

 この年から週刊サンケイの表紙を描き、その似顔絵が文藝春秋漫画賞を受賞するなど、活動領域はますます広がった。このころ週刊誌に「クールで軽妙、都会派のアイドル」などと書かれる。

 妻となるシャンソン歌手の平野レミと出会ったのは72年10月。「会って1週間で結婚した」「平野の料理が目当てだった」など伝説は多いが、同年12月に結婚した。和田の仕事がさらに充実する切掛けとなり、その後、平野は料理愛好家として活躍する。

 映画好きは知られていたが、『キネマ旬報』に連載したイラスト付きエッセイ「お楽しみはこれからだ」が映画ファンに絶賛された。84年には映画『麻雀放浪記』の監督を務め、報知映画賞新人賞を受賞。他にも、小泉今日子主演の『快盗ルビイ』やオムニバス映画『怖がる人々』などの作品がある。

 週刊文春の表紙は編集長が代わったさい「雰囲気をガラッと変えたい」との依頼だった。1,000回を超えるころには読者にすっかり馴染んで、季節を和田の表紙で感じる人は多かった。(10月7日没、肺炎、83歳)

★金田正一

蓋棺録・写真2(金田正一)

 元ロッテ監督の金田正一(かねだまさいち)は、投手時代に400勝の大記録を打ち立て、引退後も言いたい放題の「カネやん」としてファンを沸かせた。

 1958(昭和33)年、長嶋茂雄との初対決では燃えた。金田は弱小チームの叩き上げ投手、長嶋は東京六大学のスター打者。この時は4打席とも三振に打ち取り金田の完勝だった。「全部フルスイングできた」と長嶋を称えた。

 33年、愛知県の平和村(現・稲沢市)に生まれる。両親とも在日韓国人で、父親は建築現場で働いていた。子供のころから体が大きくガキ大将だった。享栄商業高校(現・享栄高校)に在学中は野球部で活躍する。

 金田が剛速球を投げることは、地元の国鉄職員が国鉄(現・ヤクルト)の西垣徳雄監督に伝えていて、スカウトが始まっていた。3年生のときエースとして参加した夏の甲子園の県大会では、準決勝で敗れたので、すぐに中退して国鉄に入団している。

 誰よりも速いストレートに加えて、身長184センチの長い腕で投げるカーブは、「曲がりすぎてキャッチャーが捕れない」と言われた。チームが弱いせいで登板数が多く、並みいる強打者を相手に三振と勝ち星を稼いだ。

 長嶋は64年までの7年間で金田から3割1分3厘、ホームラン18本。その後、登場した王貞治の場合は、6年間で2割8分3厘、ホームラン13本。多くの名勝負を見せてくれた。

 65年に国鉄から巨人に移籍して驚かせる。喜んだファンも多かったが、「金田は衰えた」と残念がる人もいた。事実、巨人時代は「超スローボール」を使うなど打者をねじ伏せるスタイルが影を潜めた。69年に現役引退。

 73年から78年、90(平成2)年から91年の2度ロッテ(現・千葉ロッテ)の監督を務め、74年には中日を下して日本一になった。88年に野球殿堂入りを果たし「14年連続20勝以上」の奇跡の投手として顕彰される。

 喧嘩っ早く、現役のときは2回退場になった。監督時代も、自軍の投手がボークを宣言されて、球審に回し蹴りを入れた事件を含め、6回退場を命じられている。

 女性問題は結婚して落ち着いたといわれたが、愛人に子供ができて女性週刊誌に叩かれた。悩んだ末に子供を産んだ女性と再婚している。

 何でもあけすけに語るので、「カネやんだもの」で終ることも多かった。「規格外」が金田に付いた形容詞の1つだった。(10月6日没、急性胆管炎による敗血症、86歳)

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