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草の根の東京ビエンナーレ|小池一子

文・小池一子(クリエイティブ・ディレクター)

東京は神田、末広町というめでたい旧名のある町に私の今の美術現場はある。かつては受験競争の名門として知られたという練成中学が閉校となり、その後に千代田区の文化施設として現出した「アーツ千代田 3331」で、私は長年の美術活動のアーカイブ資料と格闘している。

2018年の初めに、3331のディレクターである友人、中村政人が私の部屋に来て宣言したことから全ては始まった。東京ビエンナーレをやろう、と。先に「現出」した文化施設と書いたが、90年代後半から秋葉原の電気街に潜り込み、アート活動を仕込んできた政人さんならではの構想と説得力があってはじめて千代田区の施設活用のコンペティションを勝ち抜いたという実績が彼にはある。

ビエンナーレは2年ごとに国家や自治体の行政機関などが行う催事を指すのが通例だが、政人さんは国でもアートのためでもなく、市民のための芸術祭を作ろうと言うのである。

東京ビエンナーレは1970年に東京都美術館で開催されたことがある。美術評論家の中原佑介氏がコミッショナーで「人間と物質」という主題が打ち出された。新聞社主催で、海外からも現在世界の主流にいる有名アーティストが新進作家として参加している。万博と同じ年に意欲的な展覧会を行っていたものだ。その後何回か開催されて消えていった。政人さんの提案の背景には、中原さんたちの理念を受け継ぐ意思もあるが、現代を生きる市民と表現者たちがともに東京の街で創造的な芸術祭をつくることに確信を持っているという自負がある。私は単純にそのことに賭けようと思った。

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