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その写真、大丈夫? 無防備なSNSを狙う小児性愛者たち|高橋ユキ

親が何気なくSNSに投稿する我が子の写真は、小児性愛者にとって一つの「情報源」になりうる――。数多くの事件取材を続け、ルポ『つけびの村』が話題を呼んだフリーライターの高橋ユキさんが、現代を取りまく子どもたちの「危険」を綴る新連載です。

ダークウェブで幼児の動画像を漁る男

 筆者には小学生になる子供がいるが、彼が生まれたばかりの頃、育児は、大きな孤独や不安と向き合う作業でもあった。ミルクをちゃんと飲めていないのではないか? まだハイハイしないのだけど、遅いのだろうか? 成長のあらゆる局面で“わからないこと”にぶち当たる。夜中に起きてしまった子供を抱っこしながら片手でスマホを操り、いくつもの育児情報サイトを読む。そんな中、少しの安心をもたらしてくれるのは、同じく子育て中のママタレのブログや、一般人の“親御さん”たちのSNSだった。写真とともに添えられた文章を読み、あぁ、それぞれ成長の度合いは違っていても大丈夫なんだと、なんとなくホッとする。勝手に仲間意識が芽生え、まるで親戚の子のようにそのお子さんを愛おしく思う。幼稚園に入園したんだ……小学生になったのか……など、成長を勝手に見守り続けてきた。だが、そんな親たちの発信を、全く別の目線で見ている者たちがいることは、当時、ほとんど想像していなかった。小児性愛者たちは親が投稿した子供の動画像を “性的対象”として見ているのだという。その情報はインターネット上のいわゆるダークウェブに共有されていた。

 そしてこの男も、ダークウェブで好みの幼児の動画像を漁っていたのだという。

女児15人に計23回のわいせつ行為

 複数の女児にわいせつな行為をしたとして強制わいせつ致傷などの罪に問われていた建設作業員、池谷伸也被告(逮捕当時43)に対する裁判員裁判の判決公判が7月22日に東京地裁立川支部で開かれた。

 裁判員裁判では被告人の服装も幾分フォーマルになる。スーツに革靴型の黒いスリッパ。口元には新型コロナウイルス感染拡大防止のためのマスクをつけ、チラチラと傍聴席を横目で見る。

 判決は懲役18年。彼は2014年8月から、逮捕までの4年間にわたって、札幌市及び東京都内において4歳から8歳の女児15名に対し、計23回のわいせつ行為を続けてきた。被害女児のうち一人がPTSDを発症したため強制わいせつ致傷罪でも起訴されたほか、別の女児宅に侵入しパンツを盗んだという住居侵入や窃盗罪でも起訴されていた。さらに犯行の様子をスマホで撮影し、その動画像をおさめたハードディスクを、名古屋市内に住む男性に150万円で販売してもいた。

 被告人質問の冒頭、一連の事件を起こすに至ったきっかけを弁護人から問われ、池谷被告はこう証言している。

「やはりあのう、インターネットの見過ぎというところになります。えー、児童ポルノ画像などを見ていました。それを見て、自分でも似たようなこと、同じようなことをしてみたいという衝動が湧いてきました。画像掲示板というものがあり、そこで児童ポルノ画像を見ていました。動画等を見続けているうちに、気持ちが高まっていってしまったというか、そういう感じです」(2020年7月17日の公判)

 20代のころからインターネットに漂う児童ポルノ画像を探し、性的に消費し続けたことが、事件へのハードルを下げる効果をもたらしたのだと自己分析する。そう認識しながらも池谷被告はインターネットでの画像探しをやめることはなく、掲示板サイトで同じ趣味嗜好を持つ者たちと出会い、別のアプリに場所を移して交流を深めてもいた。

 池谷被告のように児童に対して性的関心を持つ、いわゆる小児性愛者は、その性的欲求を満たすための行為が法に抵触する。彼らはどのようにして捜査の目をかいくぐり、インターネット上で欲求を満たそうとしているのか。児童ポルノをめぐるネットコミュニティの現状とは。

女児動画像を探してダークウェブへ

 筆者は冒頭の一審判決後から、池谷被告と文通を重ねている。突如犯行を繰り返すようになった経緯をさらに詳しく聞きたいという理由からだ。こうした内容は次回以降に譲るが、加えて筆者が知りたかったのは、池谷被告がインターネットでどのようなサイトを閲覧し、何を見ていたのかということだった。彼は公判で「動画等を見続ける」ためにインターネットを彷徨っていたと証言していたが、それは『表』……いわゆる『サーフェイスウェブ』だけではなかったことが分かっている。

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