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ヒットラー日記|アドルフ・ヒットラー【文藝春秋アーカイブス】

ヒトラーは第二次世界大戦の緒戦当時から、気を許した側近だけを集め、食事をともにしながら大いに語るならわしだった。1941年7月、マルチン・ボルマンの検閲を受けるという条件を付け、党の職員に速記をとらせることを許可した。ボルマンは最も信任の厚かった副官で、1945年4月30日にヒットラーの命令で総統を銃殺したともいわれる人物である。この記録は降伏の約半年前の1944年11月まで取り続けられたが、最後には、4人の女秘書ばかりになった。その様子を、秘書の一人クリスタ・シュレーダーは次のように伝えている。

「スターリングラード攻略失敗の後は、ヒットラーはもう音楽にも耳を傾けなくなり、お蔭で私たちは毎晩かれの独りごとの聞き手をつとめなければなりませんでした。けれどもその頃には、彼の話も種がつきて単調になり、同じことの繰返しにすぎませんでした。戦争に関係のある事柄は一切禁句(タブー)でした」

現代では、「ボルマン覚書」、あるいは「ヒトラーのテーブル・トーク」として知られる記録の一部である。

※本文中には、今日からすると差別的表現ないしは差別的表現と受け取られかねない箇所がありますが、その時代の社会的、文化的な慣習が反映された表現として発表当時のまま掲載いたします。読者のみなさまが注意深い態度でお読みくださるようお願いする次第です。

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アドルフ・ヒットラー

傑人は結婚するよりもメカケを持つべし!!

わたしがずっと独身で通してこられたのは全く幸せだった。もし結婚なんかしていたら、さぞひどい目に合っていたことだろう。

夫婦の間には、どうしてもお互いの考えに食い違いがおこらずには済まない場合がある。それは妻が「うちのひとは、当然これ位はあたしのために尽してくれても良いはずだ」と思っているところまで、夫がその要求をみたしてやれない時だ。それが誰かよその夫婦の時は、妻は自分の夫に向って「あの××さんの奥様のなさり方ってば、どうしてあんなふうなのか、あたくしにはさっぱり訳がわかりませんわ。あたくしでしたら、決してあんな真似はしませんことよ」などと言っている。ところが、いざ自分にその番が廻ってくると、女房というものは誰でも同じ位わからずやになってしまうのだ。女どものこうした要求がましさは、是非ともよく胸にたたみこんでおかなければいけない。亭主に惚れている女房は、まるでそれだけのために生きているようなものだ。人生には夫以外のものも存在するのだ、と女が初めて気がつくのは子供を生んでからである。

逆に、男は自分の思想の奴隷だ。男を支配するのは義務の観念である。妻も、子供も、その他一切をそのために放り棄ててしまいたい、と思う時が男には必ずある。わたしにしても、初めて内閣を組織した年の前年つまり1932年に家庭をもっていたとしよう。そうしたら、その年中を通じて家に居られた日は僅々2、3日に過ぎなかっただろう。しかも、もし結婚していたら、その貴重な安息のための数日間さえ、完全に自分のために費すことを許されなかったにちがいない。妻が不平を言うのは、必ずしも夫が留守にしてばかりいる、そのことばかりではない。たとえ家にいても、夫の心がそこになく、何かに気を奪われていることにも不満をもつのだ。場合によっては、暫く夫と別れて暮す悲しみは、妻にとって一種の刺戟剤の役目をすることもある。

たとえば、船乗りの夫が長い一航海を終えて帰宅した時など、2人はまるで新婚のような喜びを味わうことができる。何カ月も自由な生活をした後で、家に帰れば老妻もまるで新妻のように、夫の機嫌とりに夢中で、何を言おうと、何をしようと、いそいそとそれに調子をあわせてくれる。だが、わたしの場合には決してそんなわけにはいかず、物好きにわたしの妻になったりした女は、死ぬほど退屈させられる位が関の山だ。わたしは一生の間「結婚」などという甘い楽しみを味わうどころか、「夫にかまってもらえない妻」の渋い面を眺めていなければならないだろう。そして、それが厭だったら、もっと好ましからざる義務怠慢の罪をおかさなければならない。

これがわたしの独身主義の根拠だ。つまり結婚の悪い点は、妻がその夫に対してサービスを要求する権利をもつようになることだ。だからわたしに言わせれば、それよりは妾をもつ方がましだということになる。男の荷が軽くなる、ばかりか、何でもこちらからやる物やサービスを、相手は有難く恩に着てうけとるのだから。

(ここでヒットラー総統はヨハンナ・ヴォルフ、クリスタ・シュレーダーの両嬢――いずれも秘書――が、恥ずかしさに耳の根まで赤くなっているのをみて、その方に向き直って言った――)

勿論、今わたしが言ったことは、いちだんと傑出した人間だけにあてはめられることだ。

(そう言いかけられたシュレーダーは、ホッとして呻くように言った。――総統、じつは私もたった今、ちょうどそう考えたところでしたの。)

税金取り立ての困難は法律家の飯の種である

ゲーリングは、行政組織の簡素化を実現したいから、そのために命令を下す権限をシュトゥックアルトとラインハルトの両人に与えてもらいたい、とわたしに頼んできた。わたしは承知しなかった。だいたい、途方もなく水ぶくれになっているのは、そう言うこの2人が受持っている内務、大蔵の両省ではないか! その当人どもにどうしてそんな仕事が任せられるものか。行政機構の整備には、たった2つしか道はない。一つは予算の縮減、もう一つは人員のきりつめだ。

財政組織は、それでどうという得もないのに、やたらにこみいっている。人民がカイゼルに収入の10分の1を納めていた昔は簡単そのものだったが、それ以後むやみに色々な名目の税金がつけ加えられて、面倒になる一方だ。

一番てっとり早い方法は、税金をつぎの4種類だけにしてしまうことだ。

1、贅沢品税

2、印紙税(国民はみんな郵便局で印紙を買う。政府の側はそれを売るだけだから、大した手数も費用もいらない。そして買う方も直接強制されるような感じをもたない。これは昔オーストリアで実行された課税方法だ。どんな取引の場合にも、その額に応じてこの印紙を使わなければならない。また印紙の売高で取引高、所得額、納税状態もわかって1挙両得だ。)

3、私有財産税

4、商業利得の税金

直接税についていえば、前年の税額を基準にするのが簡単で良い。納税者にこう言ってやるのだ「課税率は去年と同じだ。もしお前の今年の稼ぎが去年よりも少いならば、そのむね申告せよ。逆に去年よりふえていればその分だけ多く納めるのだ。そして収入増加の申告を忘れたりしたら、きびしい罰を加えるぞ」と。

またとくに農民の税については、今は現金で納めさせているが、これを何とかして農作物で納めるようにできないものかと思う。

もしもわたしがこういう方法をとれ、と大蔵大臣に言ったら、きっと「かしこまりました。御名案ですね」と答えることだろう。が、半年もたたないうちに元の杢阿弥だ。

今いったような方法を採用すれば、政府の役所の役目は現在の3分の1くらいに減ってしまう筈だ。しかしそんなに易々と税金のとりたてができるということは、お役人たちのお気に召さない。何故かって? だって、もしそんなことになったら、自分がわざわざ大学まで行ったのが水の泡になってしまうじゃないか? 法律家も、どこにも就職口がなくてお手あげだろう。

だから今かりに、誰か法律家に行政組織を簡単にする方法を考えてくれと頼んだとする。その男が手初めにやることといったら、自分が親玉の椅子に坐れる役所の新設だ。将来あわよくば大臣の肩書を手に入れる、その下準備さ。政府ばかりでなく、党活動でも同じことを経験している。ある党幹部はザルツブルグの町にヒットラー青少年団(ユーゲント)の支部を作ろうと申し出る。つぎに言うことはきまっている――部屋が500ほどあるビルディングが入用だ、とね。わたしを見給え、80万の党員をもつ党の首領だが、たった3部屋かそこらの屋根裏にその指導組織をすっかりおさめてしまった。もちろん、今言ったように、誰かが500も部屋のあるビルが欲しいと言って来たって、二つ返事できいてやりはしない。シュワルツという一筋縄ではいかない男が頑張っている。かれはデッチあげの要求を黙って聞き流してから、終いにあっさりとどめを刺す―そうか、じゃ、さし当り12も部屋があれば十分だな……。

わたしだって、いやしくも省と名のつく役所を豪勢な建物にすることに反対するわけではない。ただし、そうする場合には、後になって横にも縦にも、また建物の天辺にも、つぎ足しや建てましは絶対にしなくてもよいという証明ができてからの相談だ。

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ヒットラー青少年団

有頂天だった日本との同盟は天の援け

英国人やアメリカ人のような心底からのキリスト教徒たちが、熱烈なお祈りの百万べんにもかかわらず、異教徒の日本人から幾度となく小っぴどい目にあわされるのは奇妙なことだ。まるで神さまはイギリス人やアメリカ人が日夜ささげる祈りにはろくすっぽ耳もかさず、かえって不信心な日本の英雄たちに恵みを垂れているかのようだ。それも別に不思議ではない。

そのわけは、日本人の宗教は何よりもまず英雄崇拝で、その英雄たるや国家の名誉と安全のために少しもためらわず命を捧げる人々なのだからである。一方、キリスト教徒たちが崇拝するのは聖人たちだ。

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