見出し画像

丸の内コンフィデンシャル「みずほ、SBI、地銀、三菱ケミカル…」

日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。

★社外取は責任なし?

2021年2月から9月にかけて8度もシステム障害を起こしたみずほフィナンシャルグループ(FG)で佐藤康博会長、坂井辰史社長、傘下にあるみずほ銀行の藤原弘治頭取の退陣が決まった。

不思議なのはFGの後任社長人事が発表されていないこと。それだけ社内が混乱しているともいえるが、「ガバナンス不全を黙認した社外取締役が後任を選んで良いのか」(金融庁関係者)との主張が人選を遅らせているという。

「中でも罪深いのは取締役会議長で元メリルリンチの小林いずみ氏だ」(同)

小林氏は成蹊大学文学部を卒業して1981年に三菱化成工業(現三菱ケミカルホールディングス)に一般職で入社。85年に新聞の求人広告で見つけた米メリルリンチ系の商品先物取引会社に転職し、デリバティブ取引で実績を上げた。

88年にメリルリンチ・ジャパンに移籍、01年に法人担当業務統括本部長からいきなり社長に指名されたという異色の経歴の持ち主だ。

大阪証券取引所社外取締役、経済同友会副代表幹事、多数国間投資保証機関長官、日本放送協会経営委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問……。

キャリアが次のキャリアを呼ぶ人生なのは、「日本で最も早くガラスの天井を打ち破った」という評判があるからだが、「議論の最中に口を挟まず、実務上都合が良いから」と関係者は指摘する。

小林氏は現在、みずほFGのほか、ANAホールディングス、三井物産、オムロンの社外取締役を兼務する。

日本の企業社会ではコーポレートガバナンスの強化が叫ばれるが、「真面目に社外取締役の仕事をすれば3社が限界だ」と大手企業の社外取締役は指摘する。

その中で4社、しかもいずれも大企業の社外取締役ばかりを請け負う人物が、メガバンク陥落寸前のみずほの経営を十分に監督できたのか。

首脳陣が総退陣するだけで立て直しはできまい。監督責任も取らないことには、みずほFGに染み付いたガバナンス不全の企業文化は改まらないだろう。

★ウルトラCが急浮上

北尾吉孝社長が率いるSBIホールディングス(HD)が新生銀行(工藤英之社長)に仕掛けたTOB(株式公開買い付け)が昨年12月10日に成立。SBIは新生銀株の47.8%を取得し、連結子会社化した。紆余曲折あったものの、SBIはようやく新生銀行を掌中に収めた。

さらにSBIは株式を買い増し、新生銀行を完全子会社化する方針だ。ただ50%超の株式を取得し、SBIHDが新生銀行の持株会社になるためには金融庁の認可が前提となる。

そして最後には、新生銀行の大株主で約22%の株を保有する国(預金保険機構)との交渉が待ち受けている。新生銀行に残る公的資金の返済方法が問われるわけだ。

1998年から新生銀行は公的資金の注入を受け、約3500億円が未返済のまま。この公的資金は普通株式に転換されており、返済には株価上昇が条件となる。SBIによるTOB時の株価は2000円だが、その4倍近い株価が必要なのだ。

SBIの北尾氏は新生銀行の企業価値向上に自信を示すが、実現はおぼつかない。返済には従来の延長線上ではない、ウルトラC的な返済スキームが必要となる。

2019年夏に北尾氏が新生銀の工藤氏を訪ね、資本提携の提案を行っている。そこで北尾氏が工藤氏に手渡した「公的資金返済プラン」には「スクイーズアウト」と呼ばれる手法が提案されていた。

TOBと新生銀行による自社株買いで一般株主の割合を低下させ、SBIと国の保有する株式が計90%となった段階で、一般株主から強制的に株式を買い取り、非上場化させる。そして国の保有株式を買い取り、公的資金を返済するプランだった。

これに対して、新生銀行は反対したのだが、ここにきてこの案が採用される可能性は高まっている。

国が保有する新生銀株を市場で買い取って公的資金を回収することは株価水準からみても難しいが、新生銀を非上場化し、株価を市場価格から切り離すことで返済は可能になるからだ。

★「プライム」敬遠のワケ

2022年4月から東京証券取引所の市場区分が、一部、二部、ジャスダック、マザーズの4つから、プライム、スタンダード、グロースの3つに再編される。

最上位市場であるプライム以外を選ぶ東証一部上場企業が相次いでいる。2021年11月末時点で約150社が、スタンダード市場を選択した。

プライムの上場基準は流通時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、1日平均売買代金2000万円以上、独立社外取締役3分の1以上とハードルは高い。

まず注目されたのは地方銀行の動向だった。地銀72行・グループは現在は東証一部に所属。大半の地銀が最上位のプライムへの移行を表明するなかで、スタンダードを選んだ地銀は、富山銀行(中沖雄頭取)、高知銀行(海治勝彦頭取)、島根銀行(鈴木良夫頭取)、長野銀行(西澤仁志頭取)、トマト銀行(髙木晶悟社長)、大光銀行(石田幸雄頭取)の6行だ。

プライムの上場維持基準を維持できなかった銀行もあるが、富山銀行をはじめ地域密着を理由にあげた銀行があったことは注目に値する。

ここから先は

1,144字 / 1画像
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください