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気管支ぜんそく「経口ステロイド剤は『年3回』まで」萩原恵理(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科部長)
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気管支ぜんそく「経口ステロイド剤は『年3回』まで」萩原恵理(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科部長)

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文・萩原恵理(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科部長)

萩原恵里顔写真

萩原氏

「対症療法」と「根本治療」の二本柱

気管支ぜんそくとは、もともと気管支に炎症があるところに発作が起きることで、狭窄が生じ、呼吸が困難になる病態のことです。

自律神経に支配される要素も大きく、副交感神経が優位になると発作が起きやすいため、夜間や早朝に頻度が高まります。事実、30年ほど前までは当直で病院に泊まり込んでいると、ぜんそく発作の患者さんが頻繁に救急搬送されてきたものです。当時は「ぜんそく死」で亡くなる方も珍しくありませんでした。

しかし近年、気管支ぜんそくで命を落とすケースは大幅に減っています。それでも年間2000人近くのぜんそく死が報告されているのをみると、「適切な治療を受けられなかったのだろうな……」と残念な気持ちになります。適切な治療を行えば、気管支ぜんそくを過剰に恐れる必要はありません。まずは、正しい治療方法について説明していきます。

気管支ぜんそくの治療は、「対症療法」と「根本治療」の二本柱で進められます。

対症療法とは、気管支拡張薬の服用(吸入)です。気管支ぜんそくは、副交感神経が優位になることで気管支狭窄が誘発されるため、そこで逆に交感神経(β神経とも言う)を刺激する薬で気管支を開こうとするものです。古くから使われてきましたが、あくまで症状が出た時に、頓服として使われるものでした。また、ベースの炎症がひどいと大きな効果が得づらかった。昔はぜんそく死が多かったのも、そうしたことが背景にありました。

そこで重要になるのが根本治療、つまり気管支に起きている炎症を抑える治療です。核となるのが、吸入ステロイド薬。ステロイドは副腎皮質ホルモンの一種で、気管支に炎症を起こす原因となっている免疫機能を抑制し、炎症そのものを鎮静化させる作用を持っています。

ステロイドには「恐い薬」というイメージを持つ人もいると思います。確かに経口や注射でステロイドを長期投与すると、薬の成分が全身に回るため、骨粗鬆症や胃潰瘍などの副作用のリスクがあるのは事実です。かつては経口ステロイド剤が気管支ぜんそく治療の主流でしたが、副作用との兼ね合いを調整する必要がありました。

しかし、1990年代以降、吸入タイプのステロイド薬が広く使われるようになったことで、気管支ぜんそくの治療は劇的な進化を遂げました。吸入ステロイド薬は局所にのみ作用するため、毎日使っても深刻な副作用の心配がなく、気管支の炎症を抑えられます。その上で発作時に気管支拡張薬を使えば、非常に大きな効果を得ることができます。

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前述のように、気管支ぜんそくの治療は、「対症療法」と「根本治療」の二本柱が基本です。普段は吸入ステロイド薬を使わずに、発作の時だけ気管支拡張薬を使っていたのでは、次第に気管支粘膜が硬くなっていきます。いずれは、気管支が常時狭い状態になってしまうのです。

例えば、こんな患者さんがいました。15年ほど前、50代の男性が、ご家族の運転する車で来院されました。もともと気管支ぜんそくを基礎疾患として持っていて、近所のクリニックで薬をもらっていた。数日前から発作がひどくなり、いよいよ我慢できなくなって救急外来を受診されたとのことでした。診察すると、典型的なぜんそく発作です。そこで普段使っている薬を見せてもらって驚きました。持参された薬は気管支拡張薬だけ。普段からこの薬しか処方されていないというのです。

その方が普段かかっているクリニックは、同居する義理のお母さんがお世話になっている古い医院で、高齢の院長先生が1人で診療をされているとのこと。どうやら専門は呼吸器科ではないようで、昔の治療法しかご存じなかったようです。

すぐに吸入ステロイド薬と気管支拡張薬を組み合わせる治療を始めたところ、1カ月後には嘘のように症状が消えました。あのまま気管支拡張薬だけに頼っていたら、ぜんそく死(窒息死)を招いていたことでしょう。この例から、吸入ステロイド薬がいかに大切な薬であるかがご理解いただけると思います。

正しく吸入できているか

基本的に現在、気管支ぜんそくに使われる薬は、ステロイド薬も気管支拡張薬も「吸入薬」のタイプとなります。薬剤の入った吸入器具を口にくわえて、薬剤を吸い込むという服用方法です。

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