金正恩

北朝鮮ダダ漏れ制裁主犯は韓国である

文・古川勝久(国連安保理・北朝鮮パネル元委員)

「わが社の船が北朝鮮企業の手に渡ってしまったことは我々も把握している。しかしこれは機微な情報なので、社内でも知っているのは数名だけだ。いったい君はどこでその情報を入手した?」

 2019年8月20日、私はソウル都心の鍾路区仁寺洞にある船舶企業A社を訪問した。A社はビルの9階のフロアーの半分を占有し、構えも立派だ。ただ、微妙な違和感が漂っている。幹部と思しき年配女性が妙にけばけばしい化粧をし、なぜか社員の机は全て正面入り口方面を向き、窓際に座る幹部が社員全員のコンピューター画面を後方から監視できるようになっている。社員は一言も話さず、どこか普通ではない。

 私はその会社の在来船部門の担当部長のオフィスに、通訳とともに座った。40歳前後、オールバックの髪型の彼は、明らかに苛立っていた。

 A社は複数の船舶を所有・運航する。そのうちの1隻に、ある「バラ積み貨物船」が含まれていた。石炭や鉱石等、梱包されていない貨物を輸送する船だ。

 A社は16年3月、この貨物船を売却し、「Nampho Fishery 社」という企業がこれを購入した。国際海事機関(IMO)のデータベースを見ると、この会社の所在地は北朝鮮の「南浦市臥牛島区」。つまり、北朝鮮企業が韓国企業から貨物船を購入した、ということだ。この北朝鮮企業は当時、IMO船舶データベースに新規登録されたばかりだった。おそらく北朝鮮が海外から船舶を調達する際、制裁を回避するために新設したペーパー企業と思われる。

 同年4月1日にこの船は「Tong San 2号」と改名され、北朝鮮籍の貨物船としてIMOに登録された。その後、この船は自らの位置を示す「自動船舶識別装置」の電波発信スイッチを切り、行方をくらましながら航行するという不自然な動きを示した。

 そして17年、ついにこの船が国連制裁違反に利用されていた実態が明らかにされた。6月15日、この船は国連制裁対象品の北朝鮮産石炭を積載して南浦港を出発した後で行方をくらましていたが、やがて8月24日に中国遼寧省営口市の鮁魚圏区の港まで北朝鮮産石炭を運搬していた事実が発覚した。明確な国連制裁違反である。

 この船は10月3日に、国連安全保障理事会1718委員会(北朝鮮制裁担当)により国連制裁対象船舶に指定された。その後、この船は全ての国連加盟国により入港禁止対象に指定されている。

 北朝鮮は最初から制裁違反の取引に利用する目的で、韓国企業からこの船を調達していたと思われる。しかし、韓国の単独制裁により、北朝鮮への貨物船の売却は禁止されており、この船舶売買は明らかに韓国の国内法に抵触している。国連安保理決議も、「(制裁)措置の回避に貢献しうる(中略)資産」の国外移転を禁止しており、この取引は国連制裁違反にも問われるはずだ。

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