梯さんver1

梯久美子さんの「今月の必読書」…『熱源』

読み手の心に静かな熱を生む

 あのブロニスワフ・ピウスツキを描く小説があらわれたとは! 本書の刊行を知ったとき、驚きと期待、そして、正直に言えばいくばくかの不安が心の中でせめぎあった。ブロニスワフは実在の人物で、帝政ロシア末期の1887年に皇帝暗殺未遂事件に連座し、政治犯としてサハリンに送られたポーランド人である。1905年に日本が日露戦争に勝利し、島の南半分を領有するまで、ロシアはこの島を流刑地にしていた。

 ロシアによる同化政策で母語を話すことさえ禁じられて育ったブロニスワフは、サハリンで先住民族の人々と出会う。彼らの精神性にひかれて言語と文化を学び、やがて後世に名を残す民俗学者となるのである。ちなみに彼の実弟であるユゼフ・ピウスツキは、1918年10月、ポーランドが123年にわたる分割統治から独立を果たした際の英雄で、現在のポーランド共和国の初代国家元首である。

ここから先は、有料コンテンツになります。記事1本ごと100〜200円で購入するよりも、月額900円で70本以上の記事が配信される定期購読マガジン「文藝春秋digital<シェアしたくなる教養メディア>」の方がお得です。今後、定期購読していただいた方限定のイベントなども予定しています。

★2019年12月号(11月配信)記事の目次はこちら

ここから先は

964字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください