【連載】EXILEになれなくて #25|小林直己
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【連載】EXILEになれなくて #25|小林直己

第四幕 小林直己

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六場 組織の中で個人の夢をかなえるということ

 組織の中で個人の夢を叶えるためには、どのようにすれば良いだろうか。考えただけで大変なことばかり。だが振り返ると、これまでの活動の中で、丁寧に物事を進めれば、叶った夢がいくつかあると気づいた。組織には目的があり、手順があり、優先順位があると見ていて思うが、時に、個人の夢と情熱が、組織を引っ張っていることもあるのを見てきた。

 僕がこれから書いていくのは、あくまで僕自身のことだ。多くの株主を抱える大企業や、社員全員が顔見知りのような少数精鋭の会社では、勝手が違うかもしれない。しかし、僕の個人的体験の中には、どんな形であれ集団生活の中で自身の夢を具現化していく上での何らかのヒントがあると信じているし、これをシェアすることで、未だ挑戦したい夢を持つ自分が、これまでよりも一歩前に進む方法を見つけたい。

 初めに答えを述べておこう。人は一人では生きていけない。なので、一人では叶えられないことには、周りの力を借りながら挑戦する。力を借りていいのだ。しかし、その分、相手にも何か有益なものを返さなければならない。いわゆる、「ギブ・アンド・テイク」の精神が一番重要だ。

 そのために、周りの人の気持ちを感じながら受け取り、そして巻き込んでいくのだ。すると、あなたの夢だったはずのプロジェクトを、携わった一人一人が「自分の夢のためのプロジェクトだ」と目を輝かせながら周りに発信していくようになるだろう。

 組織の中で自らの夢を叶える中で、誰かを巻き込むときに、周りの人にも「夢に挑戦する機会を生み出す」と考えてみる。そう捉えながら進めていくと、良い流れを生み出していくことがあるだろう。

 それでは、僕が見て、聞いて、実際に体験し、時に失敗しながらも夢を実現した経験にまつわる物事を、少しずつ書いていくことにしよう。


その1. 明確にする
その2. 準備をする
その3. 根回しをする
その4. 相手の夢を叶える
その5. 情熱を語る
その6. 利益を生む
その7. 夢の形にこだわらない

その1. 明確にする

 一番明確にするべきなのは、自分自身の意思である。

 他人はそんなに暇じゃない。誰かの夢を無償で叶えようなんていう稀有な人はいない。そこに何か「得」があるからこそ、人は手を貸すのだ。夢を叶えていく過程で、おそらくあなたの要望には必ずマイナスの言葉がかけられる。その言葉に気持ちが負けないためにも、曲げられないこと、調整できることや譲れる部分を明確にしておくのだ。

 LDHの仲間たちとは、酒席でコミュニケーションを取ることが多かった。ざっくばらんに何でも話せる一方で、同時に痛烈な批判もくらう。しかし、そこで自分の意思が明確になることがあった。また、今ならわかることだが、酒の席でどれだけ真剣に話しても、実際に物事が動くのは昼間なのである。言葉そのものに対し、躍起になってしまうこともあったが、そうではなく、痛烈な批判はアドバイスと捉え、そのプロジェクトを鍛え上げてくれていると考えよう。結果に向けて冷静に物事を進めることが大事だと心得えたときに、気持ちが楽になった。

その2. 準備をする

 誰かを動かすにはその人の賛同が必要だが、自分はすぐに動かすことができる。思い立ったが吉日だ。必要な能力を身につける準備をしよう。これはエンタテインメントの世界に限ったことではないと感じる。資料制作や、コネクション作り、ツールである言語など。何かを動かしていくのなら、準備をすると良いだろう。

 徹底的な準備をすることは、僕の場合は特に大切だった。夢見がちな部分があるので、やりたいことを具体的な数字や工期に落とし込んでいく過程を踏むことで、自分の中にリアリティが湧いてくる。すると発言も自信に満ちてくる。なぜそれが重要かというと、人とのコミュニケーションは常にプレゼンの場だからだ。態度や発した言葉の一つ一つがものすごく大事になっている。

 エンタテインメントの基本的な考え方と似ているが、受け取り手が何を求めていて、どう伝えてほしいかを理解することも大切だ。想いが高まり、熱くなってつい余計なことをしゃべり過ぎてしまう自分は、なかなか相手に伝わらなくて悩んだ時期があった。それを改善しようと試行錯誤をし、フィードバックをもらう中、自分の言いたいことを3割程度に収め、代わりに資料を用意することを覚えた。すると、流れがスムーズになった。必要なことだけを、明確に伝える。自分の特徴を知ることも大切だ。

3. 根回しをする

 いくら夢をずっと描いても、発信しなければ誰も知り得ない。残念ながら、あなたのことを100%理解している人はこの世にいないのだ。伝えることから全てが始まっていくということに僕が気づくまで、ずいぶん時間がかかった。

 正しい人に、正しい形で共有する。それを繰り返し、実際に承認を得るミーティングに出る前に、既成事実を積み重ねておく。すると、必ずこれまでと違う結果を運んできてくれるだろう。

 自分の夢を誰かに語ってもらうことはとても重要だ。説得力が増すし、その人は、分身となってその夢を走らせてくれるからである。

 冒頭にも述べたが、普段の会話からプレゼンは始まっている。例えば、僕が所属するグループはメンバーが多い。なので、一つのことを全員に同時に伝えることはなかなか難しい。自分の考えを共有していく上で、正しい「順番」で共有していくことが、情報伝達をうまく行うコツだ。ちなみに、もう10年以上いるけれど、いまだ勉強中である。

4. 相手の夢を叶える

 夢は一人では叶えられない。そう断言しても良いくらい、仲間がいることは大きな力になる。時に自分の分身となり、時にアイデアを提案してくれ、批判をし、そのアイデアを鍛えてくれる。また、同時に安心感やモチベーションを与えてくれ、たとえ自分が悩んだときにも、打破するためのさまざまな機会を作ってくれるからだ。

 そのために、まずは「このプロジェクトに参加したい」と思ってもらうことが肝要だ。「このプロジェクトに参加することで、自分も夢に近づくかもしれない」と思ってもらうのである。「相手の夢を叶えることで、自分の夢が叶う」——。大袈裟かもしれないが、これが僕がLDHで学んだいくつかの重要なことの一つだ。

 例えば、LDHに所属するアーティストは新人の頃から、一人一人がそれぞれの想いを尊重され、同時に、想いから生まれる夢に、挑戦することを求められてきた(第一幕参照)。そのように、誰かが挑戦を頭ごなしに遮らないからこそ、HIROの夢、つまりLDHの夢が詰まったプロジェクトに参加する時にも前のめりな思いになる。僕で言えば、当時、三代目への兼任の話が出たときに、「三代目がEXILEの、ひいてはLDHの力になるのならば」と思い、EXILEと兼任という意味を多角的に捉えることができた。

その5. 情熱を語る

 この重要さは特にLDHの特徴だと思う。もちろん、利益などに関しての数字面の考え方など、基本的なことは欠かさないとして、その上で「このプロジェクトが僕の夢であり、同時にあなたの夢になる可能性がある」と情熱を語ることが大切なのだ。相手に、夢への道を共に歩いてもらう。そのために、自分の想いを相手の夢に乗せ、語ることを恐れない。

 そして、「この人についていきたい」と相手を感動させること。一般的に、目に見えるもの、例えば数字が社会の尺度となっているが、相反して、目に見えないものが原動力になることは人間にとって多々ある。誰になんと言われようが止めることのできない想い。そのために周りの人を巻き込んでいく力。この人について行きたいと思わせることで人は動いていく。LDHでは、そのような景色をよく見かけていた。

 また、LDHの海外案件は、僕にとっての情熱のうちの一つだ。海外での活動は僕の夢でもあり、たとえどんな案件や活動でも、自分次第で夢に繋がっていく。LDHもその思いを知ってくれているからこそ、LDH USAに参加させてくれており、同時に、海外作品への出演や、モデルやファッションの活動など、個人で海外活動を行うことに理解をしてくれている。

その6. 利益を生む

 情熱の大切さを説いてきたが、当然、数字面も疎かにしてはいけない。仕事は企画と資金によって生まれてくるものであり、その成果は利益の有無によって判断され、次の機会につながるかが決まる。利益を生むために、プロジェクトの内容や期間など、複合的な要素をまとめ上げ、それに応じた決定を下すのがプロジェクトを動かすということだと、ここ数年で身に染みて感じている。同時に、何が利益になるかを判断しなければならない。数字か可能性か、組み立て方によって何が利益になり、そのためにどう順序を組み立てるかが肝になる時がある。悩んだ時は、その中で何よりも夢を実現するため、「成立させる上で、どのように利益を生むか」という軸に立ち返ろうと僕は心掛けている。

 最近は、僕が企画を立て、進めるプロジェクトが幾つか出てきている。プロジェクトの運営にまつわる、予算のやりくりや交渉などに関しては、僕は周りのスタッフに、たくさん助けてもらっている。できるだけ早く、還元していきたい。

7. 夢の形にこだわらない

 夢というものは、いろんな形で叶っていく。また、叶うタイミングも、本人も予期せぬものだったりする。これは、LDHでの活動を通して出会った多くの人を見て気づいたことだ。もし、一つの夢ばかりを追って自分のことしか見ていなかったら気づけなかった。

 僕たちは、社会の中で生きている以上、その社会に影響されながら生きている。自分自身だけが頑張れば、夢は叶うものじゃない。状況と環境を味方につけることで、実現するパーセンテージは上がっていく。だからこそ、夢が叶うタイミングも、その内容も流動的にすると良いのでないかと僕は思っている。(ちなみに、これは「運」とか「偶然」の話とは、ちょっと違う。)

 僕がおすすめしたいのは、自分が努力した先の、例えば残り10%の、神様が操作するところに関しては、ある程度適当に考えておくと良いということ。そこでこだわりすぎずにあえて手放す。そうすることで形になることだってある。形を変えて叶った夢が、また新たな機会を連れてきてくれて、もともと描いていた夢が何十倍ものスケールになって叶うこともあるはずだ。

 パフォーマーになる前の、高校の頃の夢は、ギターを弾きながら歌うシンガーソングライターだった。自分で作った曲を自分の演奏で歌い、さまざまな会場でライブをするイメージだった。しかし、それはまだ叶っていない。しかし15年経ったあと、グループの一員、パフォーマーになり、自分のメッセージを込めたライブツアーが開催され、武道館でギターも弾いた。別の形で夢が叶った。

 今、新型ウイルスの影響により、夢の形を変えなければならない方もいるかもしれない。しかし、諦めなくて良いと思っている。形を変え、タイミングを考えながら、選択と決断をしていこう。夢がくれる明日への活力は、他には変えられないものだから。僕はこう思う。

 夢は、いろんな形で叶うのである。自分が諦めなければ。


***


 まとめるならば、組織のなかで個人の夢を叶えるためには、誰かの夢を同時に叶えながら、段々と自分の夢の成功率を上げていく、ということだ。夢は、諦めなければ、いつか何かしらの形で叶うと僕は信じている。時間と手間をかけながら、ときに大胆に進める。それと同時に、できるだけ「最短距離」で叶えることを念頭におきながら、長い視点で人と付き合っていくことが大切だ。(人に嫌われていては良いことはない。うまくやろう。)

 組織の中で個人の夢を叶える方法は、これからもアップデートしていくだろう。信じるべきことは、「個人の夢が、組織の夢を叶える力になる」ということだ。個人と組織の夢を掛け合わせていくことが大きなうねりを生み、その集団が活性化していくことは、紛れもない事実であるはずだと信じている。

 最近、パフォーマーの「第二の人生」のことをよく考える。

 肉体を酷使する、という観点ではスポーツ選手と近いところがあるかもしれない。いずれ訪れる肉体と精神のピークをどのように迎えるのか。人生100年時代に突入した今、ピーク後の人生の方が長いことを念頭に置かなければならない。この話は、よくHIROからも話題に上がるし、メンバーとも常に話し合っている。

 メンバーとは、同じ環境下にあるので、「選択」と「タイミング」の話をよくする。人生の過程をエンタテインメントに載せていくグループであるLDHのアーティストが、そのタイミングを迎えたときにどのような選択をするのか。そして、どんなメッセージを発するのか。

 EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSに所属する僕は、まさにその過渡期にいる。いかにパフォーマーとしてのキャリアを活かし、これまでエンタテインメントに込めてきた想いを、次はどういった形で伝えていくのか。

 僕は、「今」がまさにそのタイミングだと思っている。新型ウイルスの影響も大いにあり、ビジョンを一から作り直している中、改めて時間は有限であり、肉体と精神にも限界があることを知った。同時に、その中で「夢」がもたらす力は、人生の喜びとなり、日々のモチベーションになることを再確認した。自分のためにも、大切な誰かのためにも、はっきりと道を示すことが重要だ。

 そのために、徐々に行動に移している。新たなビジョンを実現するためには、新たな挑戦が必要である。前章で書いたYouTubeチャンネルもその一つ。次のステップに向けて、僕は今まさに、この章で書いたことを行なっているのだ。(なので、この方法論をより鍛えてもらいたい。読者の皆さんのたくさんのフィードバックを楽しみにしている。)
 
 ここからが始まりだ。
 You haven’t seen the last of me.

★#26に続く

■小林直己
千葉県出身。幼少の頃より音楽に触れ、17歳からダンスをはじめる。
現在では、EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSの2つのグループを兼任しながら、表現の幅を広げ、Netflixオリジナル映画『アースクエイクバード』に出演するなど、役者としても活動している。

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