【56-社会】「パパになった元女子高生」が描くLGBTQ「僕の幸せのかたち」|杉山文野
見出し画像

【56-社会】「パパになった元女子高生」が描くLGBTQ「僕の幸せのかたち」|杉山文野

文・杉山文野(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)

「野蛮な法律」

体は女性だが性自認は男性というトランスジェンダーの僕が、家族や仲間へのカミングアウトを経て自分を取り戻していく過程を綴った著書『ダブルハッピネス』(講談社)から約14年。11月11日にその続編となる『元女子高生、パパになる』を出版した。この本はタイトルの通り、杉山家の次女として生まれ、セーラー服とルーズソックス姿で女子高に通っていた僕が娘を授かり、父親になるまでの想いとその道のりを記した一冊だ。

父親になった、とはいっても僕と娘に血の繋がりはない。今秋2歳になった娘はゲイである僕の親友・ゴンちゃんから精子提供を受け、僕のパートナーである彼女が体外受精を行った末に出産した。現在は僕と彼女と娘が暮らす家をゴンちゃんが週に2~3回訪れて娘の世話をする、3人育児という形で家族としての幸せな日常を積み重ねている。

同著を執筆した一番の理由は、未来の娘へ向けてメッセージを残すこと。彼女が生まれた社会情勢や周囲の人たちの想いを伝えることで、娘がどれだけ多くの人に愛されながら生まれてきたかを常に実感できるようにしておきたかったのだ。

同時にそれらのエピソードを通じて、自分の「普通」と社会の「普通」が噛み合わずに生きづらさを感じている方々への生きるヒントとメッセージを込めた。

僕の一番の生きづらさは「家族を持つ」ことだ。最愛のパートナーと家庭を作り、子どもを持つ。世間一般的に“普通”といわれる人ならごく当たり前に選択できる幸せだが、当事者がその“普通”を実現するためのハードルは、「LGBTQ」という言葉が浸透した今でも非常に高い。

まず挙げられるのは同性婚が認められていないこと。世界的には2001年のオランダを皮切りに、現在までに約30か国が婚姻の平等を法制化している。日本でも2015年に渋谷区・世田谷区が同性カップルを公的に認める「同性パートナーシップ証明制度」を設け、現在約60の自治体で同様の制度が始まるなど、全国的に理解が進んでいる。だが、自治体の制度では婚姻で得られるような法的保障はなく、このような状況はG7では日本だけ。世界と比べても法制備が非常に遅れているのが現実だ。

どちらかが性別を変更し、同性同士でなくなれば結婚することは可能になる。しかし、そのためには手術で子宮や卵巣を切除するなど、生殖機能を永続的に欠く状態にしなければならない。

この2004年に施行された性同一性障害者性別特例法の性別変更要件には大きな課題が残る。手術を望むか否かは個人差が大きいのだが、手術さえすれば望みの戸籍が手に入るという現状。「結婚や子どものためなら仕方ない……」。たとえ自分が手術を望まなくても、心身やお金に大きな負担をかけ、泣く泣く決断する当事者も多い。僕個人としては大きな苦痛のあった乳房だけは切除したものの、性別適合手術についての必要性は感じておらず、戸籍変更のためという理由で健康な体にメスを入れることには抵抗がある。

幸せに生きるために制度があるはずで、制度のために生きているわけではない。世界的にも「野蛮な法律」と非難されているこの特例法の要件緩和は必須だろう。

幸せな未来が描けない

「家族を持ちたいけど、LGBTQだからムリだよね」

「そういう人を好きになっちゃったんだから、子どもを持てなくても仕方ない」

世の多くの当事者たちと同様、当初は僕たちも家庭や子どもを持つことを諦めていた。というより、「そんなことはできない」と思い込んでいた。自分らしく生きたいと思えば家族を持つ選択肢はないし、家族を持つことを選ぶなら自分らしさを手放すしかない。

制度の問題だけでなく、「こう生きたい」「こんな家族になりたい」というロールモデルがいないことも、「できない」という考えに縛られる一因だったと思う。社会で活躍する大人の中でLGBTQであることをオープンにしている人は、ほとんど目に見えない。そのため当事者たちは自分が将来どのように年を重ねたらいいか、幸せな未来が思い描けないのだ。そのことは自己肯定感の低下や、自殺率の高さにもつながっている。

僕自身も未来の生き方が見えないことで、10代のころから何度も自死を考えた。幸い周囲の人たちに恵まれたおかげで実行には至らなかったが、1歩違えば30歳の誕生日前には命を絶っていただろう。

未来が見えないことに不安を抱くのは、当事者の親や家族も同じである。我が子が当事者であることを認めてしまったら、「本人が幸せになれないのでは?」と考えてしまうのだ。そのため親子間のカミングアウトでは、我が子が大切だからこそ受け入れられない、理解できないという軋轢が生じ、勘当や自死といった悲しい出来事につながるケースも多い。

その背景にあるのは、当事者についての情報不足という問題。特に年配の世代はLGBTQについての正しい知識を得る機会がなかったため、当事者に対して差別や偏見といった否定的な印象を抱きやすい傾向がある。

思えばまもなく70歳になる僕の両親へカミングアウトした時も、理解を得るまでに相当な時間を要した。のちに母から言われたのは、「ごめんね、知らなかったのよ」というひとこと。悪意があるわけではなく、ただ知らないだけ。これがリアルなのだ。

この続きをみるには

この続き: 2,604文字 / 画像1枚
この記事が含まれているマガジンを購入する
ピンチをチャンスに変える力――それが「教養」だ! これ1つで、小論文対策をしたい高校生、レポートに困っている大学生、豊富な知識を身につけたいビジネスマンまで幅広くサポート。教養人に必須のマガジンです。

【12月1日配信スタート】毎日、朝晩2本の記事を配信。2021年の日本、そして世界はどうなる? 「文藝春秋」に各界の叡智が結集。コロナ禍で…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。