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文化大革命で見た姿 毛丹青

著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、毛丹青さん(作家・神戸国際大学教授)です。

文化大革命で見た姿

2020年4月8日、北京に住む母、劉志琴が病気のため死去した。その頃、新型コロナの世界的な感染拡大が始まり、日本と中国を結ぶ飛行機や客船は全面停止に。私は中国に渡れず、母の最期を看取ることが出来なかった。

最後の会話は亡くなる2週間前。携帯電話のテレビ通話を通してのものだった。通話の最後に、母は私に「你好、我就放心了」と。あなたが元気なら、私は安心です。それが、最後に聞いた母の言葉となった。

母は明の時代が専門の歴史家だった。その道の第一人者と言っていい。実は母が亡くなるまで、私はその功績を詳しくは知らなかった。母の死を多くの中国メディアが取り上げたことで、初めて、学者としての人物像を見た気がする。

中国は言論統制が厳しい国だが、母の研究対象だった明の時代は、特にタブーが多かった。あの時代は、中国で資本主義システムが形成され始めた頃。明研究は現代へのメタファーのようで、非常にセンシティブなものだったのだ。そのような中で母は、「歴史は真実を語るべきだ」と常々言っていたらしい。当局に都合が良いように語るべきではない、と。同時に、タブーに立ち向かう若い研究者を熱心に指導し、絶え間なく励ましていた。非常に芯のある、反骨精神を持つ学者だった。

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