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『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』著者・片山夏子さんインタビュー

202006「著者は語る」顔写真(片山夏子氏)

片山氏

東日本大震災から9年。福島第1原発で働く作業員一人ひとりの生き様を記録し続けた労作である。作業現場を描いたルポは数多くあるが、ここまで作業員の素顔に迫った記録はないだろう。

「未曾有の現場で働く作業員は、事故前から原発で働いていた地元出身者もいれば、惨状を見て他県から駆け付けた人もいて、それぞれ事情が異なります。ただ、みんな誰かの夫であり、父親であり、息子でもある。いわば『普通の人たち』なんです。彼らの生の声を届けたいな、と」

東京新聞記者の片山さんは化粧品会社に就職後、ニートを経て新聞記者に転職。動物と自然をこよなく愛し、「夢は南極観測隊員です」と語る変わり種だ。

「震災当時は原発の詳しい構造がわからず、東電の会見を聞いて、格納容器の圧力を下げるベント(排気)を〈弁当?〉と大まじめにメモしていました」

心がけてきたのは作業員と家族の「物語」に耳を傾けることだ。原発で働くかたわら、子どものためにPTAの役員などを積極的に引き受けたリョウさんや、孫に高線量の現場で働いているとは言えず、「ガソリンスタンドで働いている」と嘘をついてしまったヤマさん、仕事に没頭するあまり、離れて暮らす幼い息子から「パパいらない」と言われ、離婚の危機に瀕したヒロさん。匿名でありながら、一人ひとりの顔が浮かんでくる。

「言うまでもなく現場は過酷で、真夏でも防護服2枚に雨合羽2枚、その上からウエットスーツを重ね着しなければならない作業もある。彼らは事故後の状況を瀬戸際で支えてきたヒーローですが、その一方で、とても人間味に溢れているんです。事故直後、福島第1原発の正門前に取り残された犬との交流に癒される作業員もいれば、惚れ込んだ中国人女性に、同棲するための敷金と礼金を持ち逃げされてしまった人もいる。彼らのありのままの姿が伝わればいいな、と」

いまでも4000人を超える作業員が働いているが、真の復興にはほど遠い。

「溶け落ちた核燃料『デブリ』はひとつも取り出せておらず、廃炉までの目途は立っていません。作業員は国が定めた被ばく線量の上限に近づくと簡単に解雇されることも多いですし、労災以外は何の補償もありません。しかも、癌などの病気になっても被ばくとの因果関係の証明は非常に難しい。安定した雇用とはほど遠く、作業員に支払われる危険手当も下がる一方です。今後も作業員のために取材を続けていきたいと思います」

(2020年6月号掲載)



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