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日本よ、「鎖国」するな。グローバル化は止まらない|丹羽宇一郎

識者たちは言う。「コロナでグローバリゼーションは敗北した」と。だが本当にそうだろうか? グローバリズムの進展は世界史のの必然だ。コロナでも決して止まらない。ビジネスパーソンたちよ、この現実に刮目せよ。/文・丹羽宇一郎(日中友好協会会長・元中国大使)

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丹羽氏

生き残るため世界に飛び出せ

一段落したかに見えた新型コロナウイルスの感染が再び世界各地で盛り返しつつあります。北京に住む友人からは6月半ば、「北京への入出国でこっちは戦争状態だ」と連絡がありました。東京でも緊急事態宣言解除後に感染者数は漸増し、不安感が高まっています。

今回のパンデミックで世界経済が受けた打撃は甚大です。国境を越えたヒトとモノの移動が激減し、経済活動は地球規模で縮小しました。グローバルに構築されたサプライチェーンが分断され、外国から部品が届かないために生産を中止した製品もあります。

たとえば自動車は約3万点の部品で成り立っていますが、各部品の工場が世界中に分散しているため、生産中止に追い込まれるメーカーが相次ぎました。しかも、感染拡大のピークに地域差があるので、ある国の工場は再開できても、別の国は感染がピークを迎え、また別の国は第2波、第3波を迎えていくケースもある。また、海外からの観光客に依存していたインバウンド関連の産業も壊滅的な打撃を被りました。再び感染者数が増えてきたことで、再開しかけた経済活動も、冷や水を浴びせられる格好になってしまいました。

こうしたことから、「コロナでグローバリゼーションは敗北した」「これからは国内回帰だ」と論じる識者が多く見受けられるようになりました。しかし私は、これをもって「グローバリゼーションの終焉」と判断するのは大きな誤りだと考えます。そもそも、日本が生き残るためには、積極的に世界に飛び出し、グローバルな土俵でイノベーションをし、生産性を高めて勝負しなければなりません。鎖国時代に戻るようなメンタリティではいけません。

もともとグローバリゼーションは、人為的な法律や制度から始まったものではありません。1980年代後半、米ソ冷戦構造の終焉と同時に、国境を越えた経済活動が拡大した。さらに90年代にITが急速に発達し、情報社会が生まれて世界中をヒト・モノ・カネが盛んに行き交うようになった。歴史をさかのぼれば、ローマ帝国の拡大や15世紀末からの大航海時代も19世紀以降の帝国主義もグローバリゼーションのひとつです。つまり、これは、世界史の必然的な流れなのです。

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日本の舵取りの行方は?

反中キャンペーンは選挙目的

人類は社会的生物です。集まってモノや情報を交換し、一緒に何かをやりたいと考える。人類はそうして文明を生み、発展させてきました。今回の短期間のパンデミックだけを切り取って、「グローバリゼーションは失敗だった」とする論評は、一見もっともらしく聞こえるかもしれない。しかし、コロナ禍が収束すれば、また集まって一緒に何かやろうと動きだす。それが人類の習性です。

もっとも、人の集まり方や接し方は変化するでしょう。人類が一つ賢くなって「ニューノーマル」が広まり、欧米人も挨拶でハグやキスを控えるかもしれない。ただそれでも、人々が集まり、モノや情報を交換し、協力しあうことをやめることはないでしょう。しかも、グローバリゼーションは、人類が危機に直面したときほど必要性を増します。

たとえば、新型コロナの特効薬や予防ワクチンの開発です。各国で競争しながらも、情報交換などは積極的に進めた方が早期開発に役立つはずです。また経済対策においても、互いに競争しつつも協力しあう関係を強化するのは当然です。主要各国の中央銀行が連携して、株価の大暴落を防いでいるのはその好例です。

また、特効薬ができても、一握りの富裕層でなければ手が出ないほど高価では意味がありません。効率よく、低コストで開発するためにもグローバルな協力体制は大きな意味をもつはずです。

しかし、そのなかで「グローバリゼーションよりも自国第一主義」を表明しているのが米国のトランプ大統領です。中国との貿易不均衡を訴えて関税競争を繰り広げ、また中国がハイテク分野における技術盗用やサイバー攻撃を国家ぐるみでおこなっているとして、強く批判しています。さらには新型コロナの被害拡大は中国に責任があると強く主張し、中国と関係が深い世界保健機関(WHO)には資金提供しないと言い出しました。世界貿易機関(WHO)にも、同様の理由で改革を求めたり、離脱をほのめかしたりしています。

トランプ大統領が反中国の姿勢を強め、国際社会を巻き込む様子は、朝鮮戦争の頃に吹き荒れた「マッカーシー旋風」を彷彿とさせます。きっかけは共和党のジョセフ・マッカーシー上院議員による告発でした。共産主義者とそのシンパが次々と捕まり、チャップリンまで「赤狩り」の標的になったことは有名です。

このような反共意識は冷戦終結後もアメリカには根強く残っており、トランプ大統領はかつてのソ連を中国に置き換えるかのごとく、巧みに世論をリードしています。

ただ、コロナ禍をきっかけにアメリカ全体が反中国に傾いたのは、今年11月の大統領選の影響が大きいのではないかと思われます。トランプ大統領は、民主党大統領候補のバイデン氏に「親中派」とのレッテルを貼ることで、選挙戦を有利にしようと企図しているのではないか。そのため、この「反中キャンペーン」は少なくとも大統領選挙が終わるまで続く。WHOなど国際機関に「離脱」をチラつかせるのも、選挙のための内向きのアピールでしょう。

アメリカ、中国との適度な距離感

では日本はどのように振る舞うべきか? もちろん、日本にとってアメリカが安全保障上も経済上も最重要パートナーであることは疑いの余地はありません。しかし重要なことは、反中キャンペーンには安易に乗らないほうが賢明だということです。どういうことか、その背景を説明しましょう。

今回のコロナ禍で、「もうアメリカの時代は終わった」「これで中国がアメリカを追い越す時期が早まった」という人々も見受けられますが、私はそうは思いません。

アメリカにはドルという世界最強の基軸通貨があります。国境を越えた貿易・経済行為は圧倒的にドルによって決済されている。これが変わらない限り、世界経済の覇権はアメリカが握っています。極端なことを言えば、アメリカはその気になれば、100ドル紙幣を1枚数十セントのコストで印刷できる。他国がその100ドル紙幣を手に入れるには、同等の自国の資産と交換するしかありません。

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これは中国には絶対に真似できないことです。中国はすでに事実上の資本主義国家と解釈されますが、金融決済などのシステムは欧米のそれにははるかに及ばない。人民元が世界の基軸通貨になることは当面ないでしょう。アメリカのこの圧倒的な強さは一朝一夕には変わりません。

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