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文在寅政権は「丁寧に無視」しよう

文・小野寺五典(衆議院議員)

 日韓関係はついに「戦後最悪」と呼ばれる事態に発展してしまいました。その渦中に防衛大臣を務めた者として、韓国が日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を通告するという事態に至ったことは残念でなりません。

 振り返れば、2018年秋に発生した、いわゆる「旭日旗問題」が関係悪化の発端でした。韓国の済州島で開催された国際観艦式に、日本の海上自衛隊を含む15カ国の海軍が招待されましたが、韓国は日本に対して「旭日旗」の掲揚自粛を要請してきたのです。旭日旗は、たしかに戦前の軍艦旗に似たデザインですが、長らく自衛艦旗として用いられ、国際慣行として認められてきたものを自粛しろとは、来ないでくれと言っているに等しいわけです。やむなく日本政府としては不参加を決定しました。

 加えて同年暮れに、韓国軍によるFC(火器管制)レーダー照射事案が発生しました。韓国海軍の軍艦が、海上自衛隊の哨戒機に対して、FCレーダーを照射し続けた(ロックオンした)のです。軍事的にあってはならないことです。

 じつは当初、韓国側も照射の事実を認めていました。ところが、その後、説明が二転三転。あげくの果てに、論点をすり替え、「自衛隊機が低空威嚇飛行をしたからだ」と日本側に責任を転嫁してきた。低空飛行うんぬんがまったくの捏造であることは、日本政府が公表した映像などから明らかです。

 政治家なら、保身のためにそうした言動をとることもあるのでしょう。しかし、専門家集団である軍事当局までが事実に反する主張を繰り返すのは異常な事態です。そして止めが2019年8月の日韓GSOMIA破棄通告なのです。

 こうした一連の流れは、すべて韓国側から発生してきた問題です。日本側はむしろ冷静に対応してきたとも言えるでしょう。

 しかも、これらの行動は、短期的には日本より、韓国にとってのマイナスのほうが間違いなく大きい。

 たとえばGSOMIA破棄で考えてみると、北朝鮮の弾道ミサイルが日本海に着水したり、日本の上空を飛び越えたりした場合、どうなるか。当然ながら、日本周辺のミサイルの航跡情報は日本がいちばん把握しています。韓国が北朝鮮のミサイル能力を分析するうえで、そうした日本の情報はとても重要です。一方、日本が必要とする情報は、発射時に北朝鮮国内はどういう状況であったかなど、それほど緊急性がなく、いずれアメリカや他の協定などを経由して入手することができるものです。

 ですから、韓国自身にとって軍事的な合理性にも反した、悪い意味での政治的な決定と言えるでしょう。

冷静さが求められる理由

 では、なぜ文政権はこんなことをするのか。私は、文大統領の個人的な保身が原因であると思っています。

 韓国の大統領にとって、最大の心配事はなにか。それは退任後の自分の行く末です。歴代大統領の多くが、政権が代わったあと、厳しい立場に追い込まれています。死刑判決を受けた人もいれば、自殺に追い込まれた人もいる。

 韓国憲法上、大統領の任期は1回限りで、必ず5年後には交代します。そのとき自分や家族はどうなるのか。その心配を解消するためには、自分と同じ進歩派陣営の後継者を育成しなければなりません。

 そこで邪魔になるのが韓国内の保守勢力です。ですから、政権発足当初から「積弊(長年積もりに積もった悪しき慣行や弊害)清算」と称し、保守勢力への攻撃をすすめているわけです。

 徴用工や慰安婦の問題で、日本との条約や合意を次から次へとひっくり返すのも、それらを結んだ保守の象徴的な存在である朴正熙、朴槿恵両政権の業績を否定することが目的です。

 ですから、それらを単純に「反日」とくくってしまうのは早計で、文大統領の個人的な目的のために、日韓関係が犠牲に供せられていると見るべきなのです。

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