
【73-文化】『ゴールデンカムイ』『熱源』今、熱いアイヌ文化が日本社会に与えるヒント|佐々木史郎
文・佐々木史郎(国立アイヌ民族博物館館長)
なぜ、アイヌへの関心が高まっているのか
「ウポポイ」は、先住民族アイヌをテーマにした初の国立施設として、今年7月12日、北海道白老(しらおい)町にオープンしました。コロナ禍の続く中でのオープンとあって、感染症拡大防止対策として事前予約制による入場者数の制限などを行っていますが、それでもオープンから3カ月(10月12日時点)で12万人を超える方々が訪れてくださいました。
ウポポイの目的は「日本の貴重な文化でありながら存立の危機にあるアイヌ文化を復興・発展させること」です。そのため、例えば館内の案内表示や展示の解説は、“第一言語”としてまずアイヌ語で表記するなど、国や研究者がアイヌ文化を紹介するのではなく、アイヌの人々が主体的に情報発信するというコンセプトを大事にしています。
来場者の感想は、様々です。「漠然としかわかっていなかったアイヌの文化がよくわかった」「前向きな展示がよかった」と言ってくださる方もいれば、「アイヌが虐待されてきた歴史が十分に描かれていない」といったご指摘をいただくこともあります。いずれも、非常に熱心に展示をご覧いただいた上での声であり、今後の参考になるのはもちろん、アイヌ民族とその文化に対する皆さんの関心の高さを改めて実感しています。
なぜ、今の日本で、ここまでアイヌへの関心が高まっているのでしょうか。
理由のひとつとして、明治末期の北海道、樺太を舞台にアイヌが物語の重要なモチーフになっている漫画『ゴールデンカムイ』(野田サトル作)の大ヒットや、樺太アイヌを描いた川越宗一さんの『熱源』が直木賞を受賞するなど、カルチャーの世界で近年“アイヌ”が大きなトピックとなったことが挙げられそうです。これらの作品が、これまでアイヌに関心のなかった人が興味をもつきっかけとなり、相乗効果を生んだのは確かです。
こうしたトレンドが生まれたのは、アイヌ文化の中に、今の日本人を惹きつけるもの、あるいは日本社会にとって重要なヒントがあったからかもしれません。
北東アジアに広がるダイナミズム
では、日本社会にとって重要なヒントとは何でしょうか。