
【32-国際】欧州コロナ大量死の裏には「高齢者を犠牲にする」政治判断があった|宮下洋一
文・宮下洋一(在欧ジャーナリスト)
高齢者の犠牲を事前に決めていた
日本ではなぜ、新型コロナウイルスによる死者が少ないのか。
スペインのバルセロナで、3カ月間のロックダウン生活を強いられた私は、日本の報道を通じて、そのような声を頻繁に耳にしてきた。どうやら、日本人特有の「ファクターX」なるものが影響しているという話だが、死に至るまでの根本的な流れがこちらと違う気がしていた。
欧州では、2020年3月中旬から夏場にかけ、罰金付きの都市封鎖が行われた。街中から観光客だけでなく、地元民の人影までもが消えた。外出は食料の買い出しと、国によっては1日1回の運動だけが許された。それにもかかわらず、万単位に上る死者が出てしまった。コロナに罹患して亡くなった人々の数は、スペイン3万5639人、フランス3万620人、イギリス4万5955人(すべて2020年10月10日時点の世界保健機関データ)。欧州人はみな、この大量死の現実を目の当たりにし、以前と同じ笑顔を作らなくなった。
なぜ、これほど膨大な被害が発生したのか。コロナにかかれば、こうも簡単に死んでしまうのか。スペインで行った数カ月の調査から、私は欧州諸国で起きていた衝撃の事実を知ることになった。
欧州で亡くなった人々の多くは、病院に搬送されず、治療も受けられなかった介護施設の高齢者たちだったのだ。大量死を招いた最大の原因は、医療側の問題というよりも、政治家たちの政策ミスだったといえる。病院に運ばれていれば、死者は数千から数万単位で減っていた可能性が高い。
スペインでは、全国の介護施設で亡くなった高齢者の数が、2020年10月10日時点で、累計2万1428人(10月30日、同国国営放送局RTVEの調べ)に達した。約3人のうち2人が、病院の外で治療されないまま亡くなっていた。
全国高齢者介護施設経営者団体のシンタ・パスクアル代表は、スペイン下院議会のコロナ報告会の場で、「私の記憶から2度と消すことができない光景がありました。それはある医師が介護施設に入ってきて、(一人ずつ指差しながら)モルヒネ、モルヒネ、モルヒネ、と言ったのです」と証言した。
首都マドリード近郊のクリスティーナ王女病院で行われた院内カンファレンスでは、一人の医師がスライドを使い、他の勤務医たちに指導している映像がメディアに流出した。
「介護施設の老人の治療は、もう行われていない。もしコロナにかかっているとしたら、それは運が悪かったということ。(中略)症状次第ではなく、年齢次第でICUでの治療を決めていく。これは悲劇で残酷なこと。できればこんなことをしたくはなかった……」