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自民京都府連がまた「選挙買収」 赤石晋一郎(ジャーナリスト)+本誌取材班

今度の参院選でも50万円をバラ撒いていた。/文・赤石晋一郎(ジャーナリスト)+本誌取材班

「選挙買収」が今回の参院選でも

5月14日、京都市下京区にある「アランヴェールホテル京都」の一角。そこに構えられた自民党の選対事務所には、今夏の参議院選挙に向けた会合のため、党員たちが続々と集まっていた。

「なあ、この前の2月、また府連からカネが振り込まれとったな」

「そうなんか。通達も何にもなかったみたいやけど」

「〇〇先生が府連に問い合わせたんや。そしたら『参院選のお金です』と言われたらしいで。50万、今回も貰えるんちゃうか」

「あんだけ騒がれたのに、会長もようやるわ……」

訪れた地方議員たちがヒソヒソと交わしたこんな会話も、戦いを前にした事務所の熱気にかき消され、その場にいた「会長」の耳に入ることはなかった。自民党京都府支部連合会(以下・府連)の会長、西田昌司氏。新人候補の𠮷井章・元京都市議が決意を語る傍ら、西田氏は選対本部長として睨みを利かせていた。

そして6日後、地方議員たちが代表を務める政治団体の銀行口座には、さらに30万円が府連から振り込まれた。2月分と合わせた額は50万円。府連が国政選挙のたびに行ってきた「選挙買収」が、今回の参院選でも繰り返されていたのだ――。

筆者は、本誌3月号で、多くの証言や内部文書に基づいて京都府連の“マネロン選挙買収”疑惑を報じた。西田氏が考案したとされるそのスキームは、国政選挙の前に候補者がまとまった金を用意し、選挙区内の府議・市議に府連を通じて各50万円を配るものだった。このカネの流れを図式化すると次のようになる。

【選挙区支部(国会議員)】→【自民党・府連】→【府議・市議】

たとえば、2014年12月の衆院選。当時、伊吹文明氏が出馬した京都1区には15人の地方議員がいた。15人に50万ずつ配るには、750万円が必要となる。政治資金収支報告書を確認すると、たしかに伊吹氏の政治団体から京都府連へと750万円が支出され、地方議員の各政治団体は京都府連から50万円ずつ、総額750万円を受け取っていることが分かる。両者の金額はピタリと一致するのだ。

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2014年衆院選における金の流れ

捜査当局が重大関心

同じ年の衆院選に出馬して当選した宮崎謙介氏は、筆者の取材に「選挙の時に1人50万円を地方議員に配ったというのは、おっしゃる通り」と認めた上で、「お金を配ると、確かに選挙では効果はある」と語るのだ。カネを受け取った複数の地方議員も金銭の授受を認め、「選挙の金」との認識があったと答えた。

府連の元事務局長が作成した〈引継書〉も、こうした「選挙買収」の実態を生々しく物語っている。

〈各候補者からの原資による活動費を府議会議員、京都市会議員に交付しなければなりません。

この世界、どうして「お金!」「お金!」なのか分かりませんが、選挙の都度、応援、支援してくれる府議会議員、京都市会議員には、活動費として交付するシステムとなっているのです。

活動費は、議員1人につき50万円です。候補者が京都府連に寄附し、それを原資として府連が各議員に交付するのです。本当に回りくどいシステムなのですが、候補者がダイレクトに議員に交付すれば、公職選挙法上は買収と言うことになりますので、京都府連から交付することとし、いわばマネーロンダリングをするのです〉

一般的に「マネロン(マネーロンダリング)」とは、“汚れたお金”の出所を見えにくくすることで、捜査機関による摘発を逃れようとする行為を指す。選挙において、候補者が直接50万円を地方議員に手渡したことが発覚すれば、公職選挙法上の「選挙買収」に問われてしまう。そこで府連は、候補者の金を一度府連に入れ、迂回させることで、選挙買収の実態を覆い隠そうとしていたのである。この手法は、まさにマネロンそのものだ。

「『文藝春秋』の報道後、弁護士グループなどによって京都地検に刑事告発がなされた。当局は重大な関心を寄せており、すでに資料集めなどを行っています」(地元記者)

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自由民主党京都府連

「“事後買収”じゃないか」

前回の記事では、昨年の衆院選で恒例の50万円に加えて、10万円が追加で配布された事実にも触れた。10月31日投開票の第49回衆議院総選挙。自民党優勢で進んだ選挙だったが、京都選挙区は苦戦が続いていた。そうした情勢を受けて、選挙期間の終盤、府連は起死回生のための策を打った。自民党京都府議会議員団の団長である近藤永太郎府議が、各議員に電話をかけ、あることを懇願して回っていたのだ。

府議の一人が明かす。

「選挙期間中、近藤氏から『追加の活動費を払うから』と電話がありました。選挙期間中にお金を払う約束をするなんて、これまで聞いたことがない。通話記録だって残るので、捜査を受けたら一発アウトです」

別の地方議員は「10万円のばら撒きは各選挙区で行われた。府議は近藤氏が連絡役を担っていた」と証言し、こう続ける。

「約束通り総選挙後の12月に10万円振込みがありましたが、これは“事後買収”じゃないか、と議員間で動揺が広がったのです」

荒巻隆三府議も「確かに昨年末、お金の振り込みがありました」と語った。さらに、筆者はある地方議員が保有する政治団体の預金通帳の写しを入手。令和3年12月、たしかに「ジユウミンシユトウキヨウト(自由民主党京都)」から10万円が振り込まれたことが確認できる。

前回の記事が出た後、府連会長の西田氏は自身のYouTubeで選挙買収について「事実無根」とし、〈引継書〉の存在も「見たことも聞いたこともない」と否定。だが、筆者からの取材依頼には応じず、会見も開かず、「マネロン」疑惑の詳細について答えていない。

疑惑追及は国会にも飛び火した。京都選出の参院議員、二之湯智・国家公安委員長も、自身の選挙前にカネを配っていたことが問題視されたのだ。二之湯氏は国会で、京都府連に寄付した金額の根拠を問われると「私の思い」などと曖昧な答弁に終始。選挙買収については「あずかり知らない」「寄付した金額をどのように使うかは府連の問題」と苦しい言い逃れを繰り返した。

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府連会長の西田氏

選対事務所が問い合わせ先

実は、西田氏がマネロン疑惑を必死で取り繕った背景には、府連での新たな動きがあった。冒頭で記述したように、府連は今年7月の参院選に向けて、次なる「選挙買収」を進めていたのである。

前述した預金通帳の写しには、その証拠がはっきりと残っている。

〈0402** ジユウミンシユトウキヨウト 200000
040520 ジユウミンシユトウキヨウト 300000〉

今回の参院選前である令和4年2月と5月に金が流れたことは一目瞭然だろう。2月に振り込まれた20万円と、5月の30万円、計50万円が、またしても選挙前に各地方議員にバラ撒かれているのだ。

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2回に分けて振り込み

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