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“小川彩佳アナの夫”は規制打破に燃える医療界の風雲児だった!

時代を切り拓く“異能”の人びとの物語「令和の開拓者たち」。今回登場するのは、 メドレー代表取締役医師・豊田剛一郎氏です。/文・赤石晋一郎(ジャーナリスト)

医療は岩盤規制の世界

昨年8月31日、時計の針は深夜1時を回っていた。

「本当に、この人は私の出ている番組を見ないんですよ。興味がないでしょ、ねーっ?」

NEWS23のメインキャスター、小川彩佳(35)は不満気にそう言った。視線の先にいたのは、頭に寝癖をつけた豊田剛一郎(36)だ。

「彼女が23でTHE YELLOW MONKEYのインタビューをしたと聞いて、それだけは心底羨ましかった。イエモンの大ファンなんで。このときだけは、無理言って同席できないかなと思った(笑)」

豊田は屈託のない笑顔を見せ、受け流す。小川は(こんな人、見たことない)とでも言いたげに、やれやれと呆れ顔をする。2人のやり取りを見て、マイペースで飾らないその感じはいかにも彼らしいと思った。

この日は、昨年7月16日に入籍した豊田と小川を祝う会だった。2018年に知人の仲介で「ブラインドデート」(初対面同士のデート)をした2人は共にウィスキーを愛飲し、ロック好きだったという共通項もあり惹かれ合った。1年あまりの交際期間を経て入籍。お互いが多忙で、結婚式は挙げていない。

知人らが集った会は、都内ホテルの一室で行われた。番組後に合流する小川を待つ間、先に会社から駆け付けた豊田は「少し寝ますね」と断り、寝室に姿を消し高イビキをかいていた――。

彼と初めて出会ったのは18年頃だっただろうか。東大医学部卒でマッキンゼーを経てベンチャー企業を経営している男。そう知人から紹介を受けた。端正なルックスに高級スーツを品よく着こなす姿は、なるほどエリート、という見た目だった。

ともに飲みながら「彼女はいるんですか?」と質問した。豊田は独特の愛らしい声で答える。

「いるんですけど、なかなか会えない人なんですよー」

いま思えば、その彼女が小川のことだった。

使用_小川彩佳 社 20190628BN00008 (2) _トリミング済み

昨夏結婚した妻・小川アナ

プライベートな話はそこそこに、その時の酒席では彼の取り組むビジネスについて話に花が咲いた。

「医療は岩盤規制の世界です。でも、それを変えていくことで、患者、医者、行政、企業と皆が得をするような仕組みが出来ると思っています」

豊田が少し熱を込めて話す。

「面白いですね。出資したいなぁ」

酒席に同席していた銀行マンが食いつく。

医者、製薬会社、行政と様々な権益が絡み合った医療の世界にメスを入れるのは尋常ではない。だが豊田の話を聞いていると、彼なら医療改革も可能ではないか、と思わせる“何か”があった。理屈で説得された訳ではない。深刻な問題を軽やかに飛び越えてしまいそうな、不思議な感覚を彼から感じたのだ。

ヤフー社長と署名活動

豊田が「代表取締役医師」として経営参画する「メドレー」はいま注目の医療系ベンチャー企業だ。

新型コロナウィルスの感染拡大で医療崩壊の危機が叫ばれる中、期待されているのが、メドレーが運営している「CLINICS」。オンラインで、医者の診察を受けられるという医療アプリだ。予約は24時間可能で、処方される薬を自宅まで郵送してもらうこともできるという。

オンライン診療イメージ

コロナ禍で同社のオンライン診療アプリが注目

豊田は3月31日、初診オンライン診療の保険適用解禁を求める署名活動をヤフーの社長、川邊健太郎らと始める。疑わしい症状が出ている患者は不安があるから診察を受けたい。一方で、医者にとってはコロナの疑いがある患者を診察すること自体のリスクがあった。オンラインなら感染リスクを回避しながら、問診を行うことが可能だ。豊田が語る。

「それまでは医者がボランティアで電話問診するなど、個々の裁量で対応していた。医者、患者にオンライン診療のニーズがあることは私が一番理解していた。当事者が声をあげないと、と署名活動を始めました」

厚労省は4月10日、初診のオンライン診療解禁の方針を公表。豊田らの要求は署名開始から10日あまりでクリアされる。CLINICSの導入実績は2月から4月にかけて10倍近い規模に拡大し、期待値が高まったことでメドレー株は急上昇した。

患者 (1)

「コロナ禍で、うちのサービスが受け入れられたというのは決して喜ぶべきことではありませんが、利用者から『凄い便利だ』、『何で今までやらなかったのだろう』という声を聞くとホッとします。上手に用いてもらえば、患者さんと医療従事者を感染から守ることになるんです」

開成サッカー部時代の挫折

豊田は1984年、東京で生まれた。父親は元大蔵官僚で、後に国会議員になる豊田潤多郎。父・母ともに東大出身で、長姉は慶応、次姉も東大というエリート一家に育つ。

豊田の学力は小学校時代からズバ抜けていた。小学4年生頃から有名進学塾に通うようになり、全国模試では最高2位、常に1桁の順位を確保。塾時代の同窓生の一人が、現在の戦友となるメドレー創業社長の瀧口浩平だった。当時を知る友人は「瀧口も頭が良かったけど、豊田はやばいレベルだった」と振り返る。

「無理やり勉強しろと言われた記憶はあまりないんです。今思うのは、母親の誘導が上手かったということ。単語帳を作ってくれたり、間違えた問題だけを切り抜き集めた問題集を作成したり、飽きずに勉強が出来るようなアイデアを考えてくれた。一緒に勉強しやすい環境を作ってくれましたね」(豊田)

名門・開成中学に進学し、サッカー部ではキャプテン。文武両道を地で行く豊田が、自ら「初めての挫折」と語るのが高校時代、サッカー部でのある“事件”だった。

「当時の仲間が言うには『フザけて窓からスパイクを投げたりしていたら、豊田がマジ切れした』と。うちの代は弱く、どうやったら強くなれるのか分からず、チームメイトをうまくまとめられなかった。自分の実力不足が原因で、感じ悪く当たったりして一層ばらばらになってしまったことを覚えています。『俺は一生懸命やっているのに、お前らが悪い』みたいな発想も良くなかったのでしょう。皆がついてこなくなった。僕にカリスマ性も無かったんですね」

人から見れば「よくある経験」かもしれない。だが、この挫折は豊田のリーダー哲学に繋がっている。マッキンゼーでの入社面接でも、挫折から学んだ経験を問われ、この時のエピソードを披露した。

「それからは、自分を大きく見せるのではなく、誰に対しても等身大で接するようになりましたね。個々の能力を最大限に発揮してもらえるリーダー。僕の経営スタイルです」

36時間連続勤務の日々

彼の進路に大きな影響を与えたのは高校時代に読んだ一冊の本だった。

『海馬』(朝日出版社)を母親から「面白いよ」と勧められた豊田は何気なく読み始めた。脳の通説について科学的に解説した同書に好奇心を大いに刺激され、ある決心をする。

「将来、脳外科医になろう」

志望は東京大学医学部。豊田にとって東大は馴染みある大学だ。自宅の駒込から車で十数分の場所に東大のグラウンドがあった。3つ上の姉も東大医学部に進学していた。自分も行けるだろうと思ったという。

塾時代のライバルであり中高の同級生、マネーフォワード取締役・金坂直哉の話。

「東大理Ⅲに現役で受かるわけですから豊田は恐ろしく優秀ですよ。きっと日本一の脳外科医になるんだろうな、と当時は思っていました」

東大医学部に進学した豊田は脳外科医への道を歩み始めると共に、新しい目標を設定する。米国で医師として活躍したいと考え始めたのだ。

「きっかけは単純で『ER 緊急救命室』を見てカッコいいな、と思ったんです。英語を話して、オペするとかに憧れました。自分の中に何か普通じゃないことをしたい、という潜在意識があったのだと思います」

東大医学部を09年に卒業後、豊田は初期研修の場に聖隷浜松病院を選ぶ。地方病院のほうが幅広い仕事をこなせそうだと考えたのだ。

だが、医療現場は想像を超える過酷な環境だった。

「聖隷浜松病院は設備も優れた病院ですが、それでも忙しさは想像を超えていた。2年間は“合宿”している感じでした。36時間連続勤務などは当たり前、13日当直という月もあった。2年間とも正月は病院でした。近くの御飯屋さんに行くのが、仕事中の唯一の息抜き。『こういうものか』と思いましたが、同時に『これで良いのか』という疑問も頭をよぎるようになってました」

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コメント (1)
大変興味深く読みました。私は月一回の通院が負担でしたが、4月からの遠隔診療というか電話診療で楽になりました。処方箋も郵送ですし。緊急事態以降、どうなるか不安でしたが、継続されて良かったです。今後は地方に転勤後も、今まで通りの服薬がされるか不安ですが、カルテの引継などできないものかなと思います。今の医療はあまりにセキュリティや対面に固守しITの活用が進まず、結果、患者が不便を強いられ、健康維持にも支障をきたしていると思います。ご活躍を期待しております。
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