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なぜ廃課金する若者はかくも楽しげなのか

文・秋好亮平(評論家)

 世界保健機関は2019年5月、ゲームに熱中するあまり日常生活に深刻な影響を与える「ゲーム障害」を、国際疾病として新たな依存症に認定した。その1週間後、76歳の元農林水産事務次官の父親が、44歳の無職の息子を刺殺する事件が起きた。くしくも被害者は、オンラインゲーム『ドラゴンクエストX』のヘビーユーザーで、課金制の有料アイテムに多額を注ぎ込んでいたという。

 課金式のソーシャルゲームにおいて、高額を費やして遊ぶことを「廃課金」といい、近年社会現象化しつつある。課金の種類は様々で、この息子がプレイしていた『ドラゴンクエストX』などの場合、プレイするのに月額などの期間定額料金が必要となるサブスクリプション制が取られているが、別途ゲーム内でコンテンツや追加機能を購入できるアイテム課金制の要素もある。後者のうち、クジのようにランダムでアイテムが提供される方式は「ガチャ」と呼ばれ、ソーシャルゲームにおいては広く浸透したシステムだ。一般的に、ソーシャルゲームの課金といえばガチャを指すことも多いだろう。

 筆者は近年、個人的な関心から、ソーシャルゲームについていわゆる「廃課金」ユーザーにしばしば話を聞いているのだが、いまどき廃課金者はまったくめずらしくなく、事件の被害者がことさら特別な存在であったとは言えない。実感として、種類を問わなければ、大半の若者に一度は課金経験があるだろうし、そのうち課金のしすぎを感じている者も少なくないだろう。2018年12月には、はてな匿名ダイアリーに「FGO(註・スマートフォン専用ゲーム『Fate/Grand Order』)に400万課金した女が思うこと」というエントリーが寄せられ、話題になったことにも顕著だ。

 なぜ若者はガチャに金を使うのか。トレーディングカードなどと異なり、実際には所有できず、手元に残るのは電子データのみ。射幸心を煽るという点でパチンコと似ているようにも思えるが、ゲーム性があるわけでもなく、実利も薄い。それなのに、なぜ?

 過去に1年で100万円近く注ぎ込んだ末、今はガチャを控えるようになったという20代男性会社員の話が印象的だった。

「もともと、というか基本的には、もちろん欲しいキャラクターがいるから課金するんですよ」。しかし彼はこう続けた。「ただ、それがどこかのタイミングで逆転してから、歯止めがきかなくなりましたね」

 目的と行為の逆転現象――課金をすることが目的と化し、欲しいものは事後的に創出される。では、どのようなときにそうした状態になるのか。

「仕事のキツいときがいちばんヤバかった。課金していると、脳内麻薬が出てきて高揚するんです。楽しくて、気づいたら10万円以上使っていました」

 同じく20代の男性システムエンジニアは、課金の誘因としてSNSを挙げ、「Twitterがなければ、そこまで課金していなかったかも」と述べた。

「フォロワーがみんな課金しているから心理的抵抗感もないし、いくら使ったということもネタになる。スクリーンショットを共有して、『爆死した』とか『単発できた』とか盛り上がること自体が楽しかった」

 彼の場合も、課金という行為がコミュニケーションツールとしてコンテンツ化=目的化されている。ただ意外なことに、上記の例のどちらも、楽しいという感情は必ずしも刹那的なものでなく、これまでの課金を後悔しているということもなかった。彼らはむしろこの行為をポジティブに捉えている。筆者の知る課金経験者たちはみな、おおむねその行為に充実しているように見えた。

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