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再選に向けたトランプの「作戦」は? 北朝鮮、イランの次はメキシコの壁!

今年11月に迫ったアメリカ大統領選。歴史的な番狂わせから早4年。ドナルド・トランプは、再選に向けて何を仕掛けてくるのか。3人のアメリカ通が分析した。/宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)×横江公美(東洋大学教授)×峯村健司(朝日新聞記者)

一挙一投足から目が離せない

峯村 11月の大統領選に向け、候補者争いが本格的に始まりましたね。

宮家 今回は、おそらく前回に比べ大統領選の展開は早いですよ。3月3日のスーパー・チューズデーには、例年より多い14の州で党員集会が行われ、カリフォルニアをはじめ選挙人の数が多い州が集中する。民主党の大統領候補は、それまではあっちが伸びたり、こっちが伸びたりするでしょうけど、ここで一気にしぼられていく。ジョー・バイデン氏(前副大統領)か、バーニー・サンダース氏か、エリザベス・ウォーレン氏(ともに上院議員)か……だれがトランプの対抗馬になるかがはっきり見えてきます。

峯村 民主党の候補に期待の新星が現れないこともあって、いまのところ本選では、ドナルド・トランプ大統領が有利とみられていますね。ただ、私は前回の大統領選のとき、全米を飛び回ってあの番狂わせを目の当たりにしたこともあって、今回のトランプさんもけっして盤石とは見ていません。

ウクライナ疑惑を抱え、米大統領として史上3人目となる弾劾裁判にかけられていますから、おそらく再選を確かなものにするために、これからまだいろいろと手を打ってくるはずです。11月の投開票までトランプさんの一挙手一投足から目が離せないと思っています。

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峯村氏

横江 年明け早々、世界を驚かせたイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官の殺害に対しても、「選挙向けのアピール」と批判の声が上がりましたね。トランプさんは、「私の命令で、血に飢えたテロリストは死んだ」と共和党支持者の集会で「成果」を誇ってみせました。

宮家 無人機からミサイルを撃ち込むプランは、提案した軍人たちも、「まさか、それを選ぶとは」と、みんなひっくり返ったプランと言われています。ただ、私の見たところ、これは大統領選に向けた行動ではないと思う。と言うか、トランプさんがきちんと考えて決断したかどうかも怪しい。トランプさんにとっては、バラク・オバマ前大統領をはじめ、歴代の大統領とは違う政策をとることがなによりも重要な行動原理です。たまたま司令官がターゲットに入ってきたから、「よし、やれ!」とゴーサインを出しただけではないでしょうか。トランプさんお得意の戦略なき衝動的行動だったと思いますよ。

横江 もちろん、あの司令官殺害には前段があって、昨年12月、イラク北部のロケット弾攻撃でアメリカ人の軍属1人が犠牲になっていますね。親イラン派武装組織による攻撃と見られていますから、トランプさんは報復として司令官殺害を選択したわけです。結果として、国民そして世界に対して、「アメリカ人は1人も殺させない」という強いメッセージを送ることになりました。

峯村 司令官殺害の5日後には、イラン革命防衛隊がウクライナの旅客機を誤って撃墜するなど、事態は予想外の展開を見せましたね。

横江 私はアメリカのシンクタンク「ヘリテージ財団」で勤務した時から、日米問わず、選挙を勝ち抜くためには、つくづく運の強さが大切だと感じています。ウクライナ機の撃墜は、イランの自滅というべき大失敗で、あれでトランプさんへの批判が沈静化してしまった。まず2016年の選挙を勝利したことがそうですが、やはり、トランプさんは「持ってる人」だと改めて実感させられました。

「職がないのは中国のせいだ」

宮家 今年、トランプさんにとって最も重要なことは、激戦区、スイング・ステート(揺れる州)で勝つことです。前回の選挙では、アイオワ、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、フロリダで勝利を収め、これが当選の大きな要因となりました。この6州は、2012年の大統領選では、オバマ前大統領の民主党が勝っていますから、それをひっくり返したわけです。

再選のためには、再びスイング・ステートを勝ち抜かなくてはいけない。これは絶対です。そこでトランプさんは何をやるか。私は、中国を利用するとみています。6州のうちフロリダを除いた中西部5州は、「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」と呼ばれる、廃れた工業地帯で、白人の不満層が多く住んでいます。彼らは外交政策への関心はありませんが、中国だけは別。ラスト・ベルトの労働者たちは中国からの輸入が増えたことで職を失い、生活が悪くなったと思い込んでいるからです。

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宮家氏

峯村 トランプさんはこれまで有権者たちに、「君たちの職がないのは全て中国のせいだ。身の回りにはメイド・イン・チャイナが溢れているだろう」と彼らの怒りを煽ってきた。「中国はアメリカの覇権を奪ってナンバー1になろうとしている。私ならばそれを阻むことができる」と選挙戦でアピールしてきたわけです。

選挙前に「第2段階合意」も

宮家 大統領選挙を左右するのは国民の生活です。トランプさんを選べば、昨日よりも明日がよくなるかどうか。これを基準にしてアメリカ国民は投票するか否かを決める。彼らの生活と中国との貿易は、必ずしも直結するわけではないのですが、トランプさんはそのメッセージを強く打ち出していくはずです。

横江 トランプさんは、外交と内政をリンクさせます。中国との貿易赤字削減は、「アメリカ・ファースト」の体現です。実は、この政策は従来の共和党にはなかったもの。昨年12月には「第1段階合意」に持ち込みましたが、今後も中国に対する姿勢を緩めるとは思いません。

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峯村 対中国の貿易赤字解消は、間違いなく1丁目1番地ですね。中国がアメリカから工業品や農畜産品などの輸入を1.5倍(2000億ドル分)以上増やすと約束したことで、スイング・ステートだけでなく、穀倉地帯であるレッド・ステート(共和党支持者の根強い中西部の州)の農民たちにも訴えることができました。第1段階合意の調印のために、中国の劉鶴副首相がホワイトハウスにやってきましたが、ひきつった表情を浮かべる劉氏と、喜色満面なトランプさんが好対照でした。

宮家 一方で、トランプさんが恐れているのは、アメリカの株価が下がること。これには、中国との関係がもろに影響します。昨年、株式市場で繰り返されたのは、トランプさんが中国に対してガツンとやると株価は急降下、逆に交渉がまとまりそうだとなると急激に回復する。これで日本の株価も大きく左右されます。

その意味で中国との関係が完全に壊れてしまうのは、絶対に許されない。いまアメリカの株価は史上最高値に沸いています。これを維持するのに大事なことは、中国に対して圧勝を続けることではなく、中国とケンカしていると見せつつ、交渉が上手くいっているとアピールすることです。

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史上最高値に沸く米国

峯村 トランプさんは、「第2段階合意」のために北京を訪れる準備があることを明かしました。でもこれは大統領選挙後になりそうですね。

宮家 ただ、私は9月までにアメリカ経済が中国との関係でおかしくなれば、選挙前の第2段階合意もあるのではないかと思っています。7月と8月には、それぞれ民主党と共和党の党大会が開かれて候補者が正式決定する。その時点で経済が危うければ、マーケットに対して、「米中の経済は、米国に有利な形でマネージできているから安心して株を買ってね」とメッセージを送るでしょう。逆に、9月の時点でそれができていなければ、落選するかもしれない。それくらい中国と「うまくやっている関係」は重要です。

トランプは噓をつかない!?

峯村 スイング・ステートを勝ち抜くためには、トランプ独自の「公約の実現」も訴えてくるのではないでしょうか。程度の差はあるけれど、掲げた公約をほとんど実行に移しています。トランプ支持者に聞くと、「これまでの大統領はみんな嘘つきだけど、トランプだけは違う」と。これが、いまでも4割前後の支持率を保つ原動力なのです。

横江 そういう意味では、メキシコ国境の壁建設も重要ですね。前回選挙の目玉公約として大きな注目を集めました。メキシコに建設費を負担させる当初の目論見は実現していませんが、難航しながらも、国防総省の予算で建設を進めています。

使用_20190603BN00107_アーカイブより

トランプ大統領

宮家 メキシコとの国境線の長さは約3000キロもある。すべてに壁を造ろうとしたら途方もない予算がかかります。目標では450マイル(720キロ)の壁を造るとしていましたが、いま完成しているのは90マイルに過ぎません。トランプさんお得意のプロパガンダ以上でも以下でもないでしょう。

峯村 ただ、壁の建設は訴え続けていくでしょうね。普通の政権であれば、現実に合わせて政策を修正します。ところが、トランプさんの場合は、常識ならばありえないこともやりかねない、と周りに思わせている。無謀なことであっても言い続ければ有権者に効くんです。

横江 民主党の学生党員に話を聞くと、彼らの多くは壁の建設には反対でも、無秩序な移民の流入には懸念を持っているようです。メキシコからの移民によって治安が悪化する構図は「心」で理解されやすい。トランプさんの「心」でもあるので、「アメリカ・ファースト」として続くでしょう。

宮家 1月16日には、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新しい貿易協定「米・メキシコ・カナダ協定」が米議会に承認されましたね。前回選挙の公約の1つですが、これも歴代の大統領の業績を否定しようとするだけで、中身を見ると、NAFTAとそれほど大きく変わっているわけではない。

横江 ただ、そこはトランプ・マジックらしく、乳製品などの市場開放を勝ち取ったとアピールすることができましたから、選挙戦に有利な材料にはなると思います。

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横江氏

金正恩、ビビる

横江 外交面でいえば、北朝鮮も気になるところです。年明け早々、アメリカ政府は非核化協議の再開を打診しましたが、その後、何ら進展がありません。2018年6月のシンガポール・サミットを皮切りに、これまで3回の米朝首脳会談がありました。いろいろやってみた結果、トランプとしては、「とにかく会うけれど、援助はしない」という政策に辿り着いたのだと思いますが、日本の立場からすると、どうにも中身がないので評価のしようがない。

峯村 おっしゃる通りで、米朝関係はすでに2018年6月の首脳会談以前の緊迫した状況に戻りつつあります。昨秋にワシントンで話を聞いた米政府高官は、「ホワイトハウスで北朝鮮問題はタブーになっている」と声を潜めていました。

金正恩委員長は昨年の大晦日まで4日連続で党中央委員会の会議を開き、「苦しく長い闘争を決意した」と言いました。これは、「アメリカとは長期戦でいく」というファイティングポーズを示したものです。年明けにはアメリカとのパイプを持つ李容浩外相を左遷しました。今後、金委員長が対米交渉を打ち切り、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射する構えをみせれば、史上初の米朝首脳会談もレガシーではなくなり、何だったんだという話になる。

宮家 会談後、金委員長は非核化するどころか、従来型兵器のアップグレードや発射実験を繰り返していますね。現状では、数年のうちに核兵器が実戦配備される危険性も出てきています。1回目の米朝首脳会談からの1年半をムダにしたことで、日米は致命的な戦略的変化に直面する恐れがあります。米朝首脳会談はレガシーどころか、歴史の汚点になりかねませんよ。

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横江 一時期よりも北朝鮮への興味は薄れてしまったように見えますが、ソレイマニ司令官殺害に関しては、トランプから金委員長へのメッセージとしての意味もあったと思います。「米軍はいつでもお前を殺せるんだぞ」と。

峯村 なるほど。確かに、いつもなら北朝鮮メディアで報じられる視察や会談など金委員長の動静が、ソレイマニ氏の殺害から1週間ほどは消えました。昨年末には、白馬にまたがって白頭山を駆け上がる姿を公開していましたが、あんなことをしている最中にもミサイルを撃ち込まれかねない。金委員長はビビッたのかもしれませんね。

宮家 ただ、北朝鮮や金委員長を叩いたとしても、大統領選の行方にはほとんど影響はない。大多数のアメリカ人にとって、北朝鮮はまだまだ遠い国の話です。

峯村 ICBMが実戦配備されるまではそうでしょうね。激戦区のフロリダ州タンパで白人のトランプ支持者を取材したことがあります。彼らは朝鮮半島が南北に分断されていることすら知りませんでした。トランプさんは北朝鮮との外交を得点稼ぎにはできないでしょう。

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宮家 北朝鮮に対して、むちゃくちゃなことをやらないという意味では救いですね。

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