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「カメラのキタムラ」“何も買わなくても出られる店”が国内1000店チェーンになれたワケ

ファウンダー名誉会長の北村正志は語る。「捨てる神あれば拾う神ありです」と。/文・樽谷哲也(ノンフィクション作家)

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▶︎カメラキタムラのオフィスはフリーアドレス制。社長でさえ所定のデスクと椅子はない
▶︎北村は渥美俊一が主宰する「ペガサスクラブ」の会員になり、チェーンストアへの挑戦を始めた
▶︎創業者の北村は、君臨すれども統治せずという姿勢を貫いている

こんなときだから記念写真を

国内に類例のない稀有(けう)な写真専門店チェーンである。「カメラのキタムラ」をはじめ、こどもの記念写真の撮影やプリント、額装、アルバム制作を主体とする「スタジオマリオ」など、全都道府県に計1000店以上を展開している。カメラの販売を含めて年間1兆円産業だった市場が2000億円の規模に縮小したものの、そのおよそ30%をキタムラグループが占めている。国内で3割のシェアを持つ小売り・サービス業チェーンという存在を寡聞にして知らない。

新型コロナウイルスの感染拡大のため、昨年の政府の緊急事態宣言による休業要請を受け、4月の1カ月間、全国で営業を休止し、約20億円の損害をこうむった。入学・入園式、七五三、行楽シーズンなど、事業収益の柱となるイベントも激減し、写真関連事業は大打撃を受けた。

新横浜駅前のビル内にあった本社オフィスで、ファウンダー(創業者)名誉会長の北村正志は、1月中旬、会うなり、「プリントの売り上げは前年の半分です。1期の赤字はやむをえないかと思っていました」と、やや厳しい面差しをした。自らが傘寿を迎えるこの3月期の決算の見通しについてなのだが、少しして「ところがね」と表情をゆるめた。

「従業員が新しい付加価値をつくろう、利益を出そうと、必死にがんばってくれたおかげで、なんとかそこそこの経常利益が出せそうです」

時あたかも成人式の時期であった。

「コロナ禍でお客さんが激減するかと覚悟したんですが、このようなときだからこそ記念写真を残そうというご家族がむしろ増えて、七五三も前年より30%ほど伸びています」

少子化の時代であることを踏まえれば、累積損失が100億円に達するほどの赤字つづきであった「スタジオマリオ」を、経営の屋台骨を支える事業として、よくも辛抱強く育ててきたというところであろう。コロナ禍の影響を受けながら会社が持ちこたえているのは、本業とその関連事業の協業が功を奏したからである。

「みんながこつこつと努力してくれた。捨てる神あれば拾う神ありです」

オフィスは、各自の座席が決まっていないフリーアドレス制で、生え抜きの社長の浜田宏幸さえ、所定のデスクと椅子はない。この日は、まさしく衆人環視で、感染予防の透明アクリル板の目立つオフィスの真ん中でノートパソコンを開いていた。北村は、「いまの僕は週に何回か来て2、3時間いるだけだけど、社長が公衆の真ん中にずっと座っているのって精神力がいると思いますよ。かわいそうに」と面白がっている。

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20年ほど前からフリーアドレスを導入。中央が浜田宏幸社長

個人情報とプライバシー以外に知られて困るものはないという北村の考えのもと、経営にまつわる詳細な数字は、社内にとどまらず、取引のある銀行や会社にも公開してきた。

社内では、肩書で呼ばず、さん付けと決まっている。創業者さえ「北村さん」と気さくに呼ばれている。

「上司の気持ちを社員が忖度(そんたく)するような会社には絶対したくなかった」

「社長が演説するアホな会社は嫌」

「がんばれなんていうたことない。社員には好きにさせているんです」

誇らず、威張らず、ひけらかさず。フェアで飾り気のない人柄は、どうしても故郷の英雄をイメージさせる。

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北村名誉会長

龍馬ゆかりの川が遊び場

1912(大正元)年生まれの父・政喜が34年、高知市内に開いた「キタムラ写真機店」を発祥とする。41年生まれの長男である北村正志は、「およそ親のいうことを聞かなかった」と幼少時を振り返る。高知城にほど近い栄えた城下町に育った。夏になると、その昔、坂本龍馬も水練に励んだと伝わる鏡川(かがみがわ)を、ふんどし一丁で一日中、泳いだ。人口の多い市内を流れる川ながら、人の姿が水面にきれいに映るさまから、その名がついたという清流である。

路面電車「とさでん」の往く幹線道路沿いに、いまも第1号店が残る。登記上の本店も、東京の本社とは別に、高知市内のビルに現存する。

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