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DeNA会長・南場智子が考える「日本のDX」 初等教育の「OS交換」から始めよう

他人がやらないことに夢中になれる才能を育てよう。多様性あってこそ日本はドラスティックに変われる。/南場智子(DeNA会長)

<この記事のポイント>
●バックグラウンドを異にする人々が補い合うことで、組織は強くなる
●日本経済を活性化させる肝は、「人材の流動化」と「スタートアップ企業の質と量を格段に拡大すること」
●初等教育におけるプログラミング教育の強化は、成長戦略の一つの有意義なアプローチになる

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南場会長

何かのチャンスにしなければ

ディー・エヌ・エー(本社・東京都渋谷区)は1999年にITベンチャーとして創業。オークション&ショッピングサイトから出発し、2000年代半ばに「モバゲー」がヒット。今では横浜DeNAベイスターズやライブストリーミング事業、ヘルスケア事業まで多角的な事業を展開している。

同社の南場智子代表取締役会長は、菅義偉政権の改革の具体像を描く成長戦略会議(議長・加藤勝信官房長官)の委員に就任した。コロナ禍でダメージを受けた日本がふたたび強さを取り戻すために、いったい何が必要なのか? 南場氏に聞いた。

緊急事態宣言が解除されて以降、通常の出勤を再開した企業が多いようですが、わが社では本社に席がある約2500人のうち多くが在宅勤務を続けており、出社しないことが当たり前になっています。通勤するのは出社しなければできない業務を抱えたごく一部の人だけ。緊急事態宣言の頃の出社率は実に2%ほどで、現在でも1割もありません。それでもプロダクト作りもお客様対応も、今まで通りです。

内閣府が6月に就業者6685人を対象に「感染症の影響下で労働生産性がどう変化したか」を聞いたアンケート調査によると、「下がった」と答えた人が48%でした。一方、当社の社員への調査では「上がった」が約30%、「変わらない」が約50%で合計80%超、「下がった」は15%未満です。

何が変わったのか。通勤の移動に費やす時間だけでなく、会議はズームが基本になるとミーティングルームの“争奪”にかけた手間や、その部屋に行き帰りする時間も浮きました。会議を定時定刻に始める意識が高まり、待ち時間も減ったのです。

ズーム会議では1人1モニターが大原則です。そうすると聞き手の表情もよくわかります。伝える側も意識するのでメッセージが明確になり、コミュニケーションの密度はむしろ上がったと感じます。

私自身もバーチャルで人と会うのが日常的になり、会う人の顔ぶれも広がりました。米NFLの強豪ペイトリオッツのオーナー家で、球団社長のジョナサン・クラフト氏とはハーバード大学経営大学院の友人ですが、「今会える?」とメールしてズームでパッと再会できました。球団オーナー同士である自覚はありましたが、しばらく会話を交わしたことがなかったのです。

向こうは「放映権だけで黒字だから」と涼しい顔。日本球界の窮状とは随分と違うと思い知らされましたが、こんな国際的なやりとりもデジタルならではでしょう。デジタル化で使える武器が増えたのです。

もっとも、いいことばかりではありません。職場の対話が単線的になり、チームでわいわい交わる時間はなくなるし、先輩や同期から偶発的に刺激を受ける機会が減りました。じつはこうした偶発的な刺激こそ、新入社員の成長には大切です。与えられたタスクをこなすだけでは、成長が遅れてしまい、新人の底上げに時間がかかるのではないか、とマネージャーたちは気を揉んでいます。

こんな災厄は起きない方がよかったことは間違いない。でも、起きてしまった以上、ただで起き上がるのではなく、何かのチャンスにしなければ――後から振り返って、コロナ禍があったからこそ、と言えるような拾い物をしたいと考えます。

成長戦略会議の議論はこれからですが、今後、日本社会がどんな方向で変わっていくべきか、考えを少し述べてみたいと思います。

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「バーチャルハマスタ」で好感触

非対面・非接触という新しい価値基準を半ば強制的に導入されたこの10か月で、さまざまな発見がありました。典型的だったのはベイスターズで起きた変化です。

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