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次の総理、5年後の総理 政治記者123人が選んだ
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次の総理、5年後の総理 政治記者123人が選んだ

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文・本誌編集部

政権の真価を問われるのはこれから

岸田文雄首相の在職日数が、1月11日で100日を迎える。政権発足から100日は「ハネムーン期間」と呼ばれ、有権者もマスコミも「お手並み拝見」と好意的に見守ることから、高い支持率を示す傾向が高い。

しかし岸田政権発足時の支持率は56%で、菅前政権よりも約20%低い数字でスタートした。それでも昨年10月の衆院選で自民党は単独で絶対安定多数(261議席)を確保。その後も50%前後の支持率をキープしている。やはり真価を問われるのはこれからだ。

喫緊の課題は、コロナ対応と経済回復に他ならない。昨年末の臨時国会では、3回目のワクチン接種の前倒しや18歳以下の子どもへの10万円相当の給付をめぐり迷走が続いた。

また国外に目を向けると、米中対立が深刻化するなど、国際情勢は混沌としている。世界的な半導体不足や原油価格の高騰も大きな懸念材料だ。また成長分野とする脱炭素化やデジタル化も出遅れている。

岸田首相はこうした危機の時代に立ち向い、次の時代を切り開くことができるのか。それとも、新たなリーダーの誕生が待たれるのか。

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深まる米中対立

党内きっての政策通

今回、本誌編集部は「ポスト岸田」について政治・経済分野の記者・ジャーナリスト123名にアンケート取材を行った。

日本の政治記者はざっと500名いると言われる。NHK約60名をはじめ、大手紙、民放、地方紙に所属する記者らが、首相官邸、国会、政党、中央省庁をフィールドに日夜取材を行う。彼らは与野党幹部や政府高官の動静をつぶさに観察し、時に飲食などプライベートも共にして政治家の人品骨柄にふれる機会も少なくない。次の総理候補を挙げてもらうには最適の立場にある。

また政治記者だけでなく、経済記者にも協力を得た。岸田政権は、小泉政権以降の新自由主義を見直す「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」の実現を目指すとする。ただ、18歳以下の子どもを対象とした10万円の給付金などの政策をめぐっては、財務省の矢野康治事務次官が本誌昨年11月号で「政治家のバラマキ合戦」だと批判。積極財政か財政規律か。国民の関心が高まるなか、経済記者の意見も反映することにした。

質問は以下の2点と、その理由である。

(1)次の総理にふさわしい政治家
(2)5年後の総理にふさわしい政治家

まずは、質問(1)の結果からみていこう。

岸田政権の外務大臣であり、岸田派(宏池会)のナンバー2である林芳正氏(60)が31票を集めトップとなった。若手からベテラン記者まで幅広く票を集めた。

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林氏

かねてより次の首相を目指すと公言してきた林氏。昨年、26年間務めた参院議員を辞職し、先の衆院選で鞍替え当選を果たした。

「この国の舵取りをしていくため、衆院議員への鞍替えというハードルを越えなくてはいけない」

本誌昨年11月号に掲載の「次の総理はこの私」と題したインタビューでも首相への思いを語っていた。

これまで防衛相、農林水産相、文部科学相など5つの閣僚を経験している。そうした豊富な閣僚経験と実績を踏まえ、政策能力と安定感が高く評価された。

「党内きっての政策通。農政、税制、外交、防衛、財政、教育とオールラウンドプレイヤー。どのポジションもそつなくこなしてきた」(新聞・政治)

「東大法学部卒業後、三井物産などを経て国際経験も豊富。人的ネットワークは政財官にとどまらず海外にまで広がる」(同前)

「ハーバード大大学院で修士号を取得。英語が堪能で海外記者からの質問にも通訳なしで答えられる」(同前)

「リーマンショック期の麻生内閣で内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)を務めていた時、経済政策への理解が他の政治家とは全く違った。事務方のメモを見ることがほとんどなく、数字を示しながら自分の言葉で論理的に説明する。安定感がずばぬけている」(新聞・経済)

今回の外務大臣就任を受けて「岸田首相からの禅譲」を予想する意見が多く寄せられた。

「岸田は任期満了で退陣する意向があるとされ、林の外相起用はポスト岸田の一番手としてアピールするための布石といえる」(テレビ・政治)

派閥の歴史的変遷から宏池会継承路線を説く記者も複数人いた。

「岸田政権の後、イデオロギー的に中庸な宏池会政権の流れが継続するとみている。佐藤栄作の後の政治の潮流は、田中角栄・竹下登・金丸信・小沢一郎と『経世会支配』が20年継続した。その後、森喜朗・小泉純一郎・福田康夫・安倍晋三と『清和会支配』が続いた。そして、今、その両派の中間に位置する『宏池会』の政権がスタートした。これは単なる権力闘争の結果ではない。国民の意思を反映した、国民の選択と見るべきだろう」(政治評論家の高橋利行氏)

「次の総理候補」ランキング
1位 林芳正 31票
2位 河野太郎 18票
3位 茂木敏充 16票
4位 岸田文雄 9票
5位 高市早苗 8票
6位 石破茂 6票
7位 安倍晋三 4票
8位 福田達夫 3票
8位 野田聖子 3票
8位 上川陽子 3票
8位 泉健太 3票

仲間集めに疑問符

だが、岸田派は43人の派閥。党内に6つある派閥のなかで、5番目の勢力で、主要派閥の協力を得なければ安定的な政権運営は厳しい。

そんな林氏が総理を目指す上で、避けて通れないのが「2A」の存在だ。「2A」とは麻生太郎副総裁、安倍晋三元首相の2人を指す。

「今後、林が麻生を味方につけることができるかどうか。ただし、林のバックにいるのは、宏池会前会長の古賀誠。2012年の総裁選で林を支援し、議員引退後も隠然たる影響力を保つ。麻生と古賀は、同じ地元の福岡で政争を繰り返し今まで激しく対立してきた。岸田は麻生に迫られて“古賀切り”を断行したが、林には困難かもしれない」(新聞・政治)

麻生氏との連携に加え、多くの記者が林氏の課題として「仲間集め」を指摘した。

「本気で支えてくれる人がいるのか疑問」

「自民党や宏池会内の衆院ネットワークが弱い。鞍替えを果たすやすぐに要職に起用されたことに他の衆院議員から『調子に乗っている』とやっかまれている」

鞍替えへの評価

もう一人の「A」である安倍元首相は林氏との因縁が深い。2人とも山口県が地元であり、中選挙区制度の下で父親の代から激しく争ってきた。小選挙区制の導入で父の林義郎氏が比例中国ブロックに回り、安倍氏に4区を譲った経緯がある。

「第1次安倍内閣で、安倍が潰瘍性大腸炎で辞任した際、林氏が安倍に比例中国ブロックに回るよう求めたことがあると聞く。以降、2人の対立が激しくなり、地元の下関市長選挙でも熾烈な代理戦争が繰り広げられてきた」(通信社・政治)

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安倍氏

林氏は2012年に、衆院選への鞍替えに動くも断念。今回、9年越しの鞍替えとなったことについて、評価は二分した。

「足りないと言われていた『決断力』と『胆力』を示した」と評価する声がある一方、「9年の月日を考えれば度胸を含めた胆力が課題」と真逆の見方もある。

また、1票の格差の是正で小選挙区が「十増十減」となれば、2022年以降の衆院選から、山口県の定数は4から3に減ることになる。

「山口での安倍との覇権争いは激しさを増すだろう。地元は林に期待する声が強まっている。総裁選でも山口県の党員・党友票のトップは林が推した岸田だった。さらに、公明党と良好な関係を築いていることも強み。衆院選で同党の県組織の支援を受けていた」(政治記者)

日中友好議員連盟の会長だった林氏は、大臣就任と同時に「無用な誤解を避けるため」会長を辞任した。

麻生と安倍の両氏は「対中関係で国際社会に間違ったメッセージを与えかねない」と、外相起用に難色を示したとされる。

だが、記者の間からは、期待する意見が多く寄せられた。

「米中対立は競争と協調の両側面あるのが実態であり、一部右派の対中強硬外交論は勇ましいばかりで児戯に等しい。林氏は『親中派』と見られるのを覚悟で日米・日中関係をハンドリングしようと自覚した政界有数の知見の持ち主だと思う」(新聞・政治)

「林の強みは、米中双方にパイプを持つこと。外相として絶妙のバランス感覚を発揮して結果を残せば、総理候補の大本命になるだろう」(通信社・政治)

いずれにしても、米中関係が悪化する中、林氏が外務大臣として成果を残せるかどうかが、「ポスト岸田」への試金石になるようだ。

小石河連合の巻き返しは?

18票で2位に付けたのが河野太郎氏(58)。菅政権ではワクチン担当大臣として高い知名度を誇り、昨年の総裁選前の世論調査「次期首相にふさわしい候補」で軒並み1位だったことを考えれば、評価を落としたともいえる。総裁選では岸田氏に完敗。記者が問題視したのは総裁選における振る舞いだった。

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河野氏

「討論番組でキャスターに語気を荒げるなど、残念ながら総理大臣にふさわしい人格を備えているとは思えなかった」(新聞・政治)

「脱原発、年金改革などで真っ当な事を言っているが、敵を作る主張を展開し露出が増えれば増えるほど印象を悪くした」(テレビ・政治)

現在、河野氏は党役員の末席とされる広報本部長を務め事実上の“冷や飯食い”生活を送っている。それでも上位に食い込んだ要因は河野氏の「改革力」にあるようだ。

「既得権益や前例主義を打ち破る決断力と行動力があることは実証済み。乱世の時代がやってくれば、『異端児』河野太郎が必要とされるのではないか」(テレビ・政治)

「官僚に振り付けられずに行動できる政治姿勢を評価する。政官財が癒着した旧態依然の形から脱却して新しい統治機構を確立できるリーダーになり得る」(新聞・経済)

 総裁選で河野氏を支援した石破茂氏(64)、小泉進次郎氏(40)はさらに存在感を失っている。総裁選後、自派閥を解消し、掛け持ち可能なグループにするとした石破氏は6位に沈み、小泉氏にいたってはランキング圏外だった。2人に今後の巻き返しを期待する声もあった。

「石破派のグループ化も、菅グループや谷垣グループ、森山派などとの連携を容易にする。今後、安倍氏が党内でのキングメーカーの地位を強めれば強めるほど、そのカウンターで石破氏への党内支持、世論も増すかもしれない」(通信社・政治)

「(近頃の小泉氏は)地元中学校での給食導入や有料道の値下げ、県道延伸など、選挙区の自治体と連携した地味な取り組みでも成果を重ね始め、『地元の暮らしの役に立つ自民党政治家』へと脱皮しつつある。もう一度、地元や地方をくまなく行脚し、市井の暮らしを見つめ直せば、浮世離れした言葉遣いや歪んだ自己肯定感はおのずと改まるだろう。安易に復権を望まず、冷や飯食いに耐え抜けば、5年後には化ける」(ノンフィクションライターの常井健一氏)

果たして2人が再浮上する日は来るのか。

パワハラ気質と権力欲

河野氏に2票差の16票で猛追するのが3位の茂木敏充氏(66)だ。

岸田政権では足場固めを着々と進めている。甘利明氏の後任で党内ナンバー2の幹事長の座を手中にすると、故・竹下亘氏の後を引き継ぎ、平成研究会の会長に就任。同会は、志公会(麻生派)と並ぶ自民党第2派閥にまで拡大した(53人)。

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茂木氏

12月13日、茂木派のパーティで、麻生氏は茂木氏について笑いを誘うスピーチを行った。

「分析能力、説明能力、記憶力、どれをとってもたいしたもんとそう思っていました。『性格がな』っていうのが皆よく言っておられた台詞だったが、最近よくなられた感じがする」

記者の評価は、この麻生氏の言葉にほぼ集約される。

まず、林氏と同様「経歴は申し分ない」と口をそろえる。

「東大経済学部卒業後、丸紅やコンサルタント会社のマッキンゼーなどの勤務経験があるエリート。頭脳明晰さは官僚をも凌ぐ」(テレビ・政治)

「能力抜群で政策にイデオロギー色が少ない。林と同じハーバード大ケネディスクール出身で流暢に英語を話せグローバル感覚もある」(新聞・経済)

「安倍・菅政権では経産相、経済再生担当相、外相を歴任。日米貿易協定やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)などの交渉でライトハイザー通商代表と渡り合い、米国政府から『タフネゴシエイター』と一目置かれた」(テレビ・経済)

「2016年に党選対委員長として結果を残した。アメとムチで候補に発破を掛け、沖縄県の宜野湾市長選、衆院北海道5区補欠選挙と、アウェー試合と言われた戦いに圧勝した」(地方紙・政治)

また、2Aとの関係をはじめ、権力基盤を固めつつある。

「茂木は安倍に取り入ることで要職を歴任して実力者への道を歩むことができた。ところが、幹事長就任後は麻生への接近の方が目立つ。2Aとの距離感をどう取るかがポイントになる」(新聞・政治)

また派閥の大物OBである青木幹雄氏(元党参院議員会長)の存在も茂木氏の将来に大きな影響を与える。

「旧竹下派から茂木派への移行は、青木との確執から難しいとみられていたが、表立った異論は出なかった。だが、青木に近い議員から茂木氏への反発は根強い」(通信社・政治)

一方で、「パワハラ気質」を指摘し、人柄を問題視する声は枚挙に暇がない。

「優秀な分、部下の役人に厳しく当たることで有名。記者が気に食わない質問をすると分かりやすくイライラしていた」(通信社・政治)

「2014年の経産相時代に役人が作った『大臣出張等メモ』、所謂“茂木取り扱いマニュアル”が明るみに。〈ルームサービス等で麺類を注文する際には、大臣に提供するタイミングについて細心の注意を払うことが必要〉〈以前国内出張でトラブルになった日本航空は極力避ける〉などと、A4用紙22枚にわたって書かれている。役人への恐怖支配を感じずにはいられなかった」(雑誌・政治)

ただ、そんな茂木氏の“変化”を指摘する声も複数あった。

「外相になってからは、『笑み』を絶やさず、その欠点克服に努めている」(政治ジャーナリスト)

「たまに噴火することもあるが、頭の良い人だから、最近は相当自らをコントロールしている。飲食ふくめ、積極的に若手議員の面倒をみている」(テレビ・政治)

「消去法で」茂木氏を選んだとする回答が目立つなか、次のような手厳しい意見もあった。

「総理に近いポジションにいるのは確かだし、権力欲も旺盛だが、政治家として何を成し遂げたいのかビジョンが全く見えない。理想の政治を実現するために権力を欲しているのではなく、政治を、権力を得るための道具にしている」(新聞・政治)

清和会の高市アレルギー

総裁選で旋風を巻き起こした高市早苗氏(60)は5位に入った。女性総理候補では断トツだ。

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高市氏

持ち味である対中強硬姿勢から「危機のリーダー」としてふさわしいとの意見が数多くあった。

「岸田政権が米中対立で揺らいだ際は、“右派のアイドル”高市の総理待望論が出るだろう。敵基地攻撃能力の法整備など、威勢の良い外交・安保を主張し女性初の総理候補のトップを走っている」(新聞・経済)

「米民主党議員の事務所で2年間修業し英語が堪能」(雑誌・政治)

「公約をすべて自分でつくるほど政策好き。単に総理になるのが目的化することはないだろう」(同前)

「林のように縷々述べるだけの評論家ではない。政策を動かす力、業務遂行能力が高い。外交経験はやや乏しい」(テレビ・政治)

「記者への取材対応も丁寧で、『義理人情に厚い、チャーミングなアネゴ』といったキャラクターにも好感が持てる」(新聞・経済)

もともと清和会出身だが現在は無派閥。課題は「派閥に戻れるかどうか」で一致する。当の本人も昨年12月5日、テレビ番組で「安倍派になったら帰れるかなと思っていたが、特にお誘いもなく今に至る。しばらくひとりぼっちかもしれない」と語る。

「清和会内には、かつて派閥を出ていった高市へのアレルギーがまだ残っている。『保守のおじさんや若者』のウケは良くても、党内女性陣からの支持もみられない。優秀がゆえに一人で抱え込んでしまう点を改善する必要がある」(新聞・政治)

その他、同じく総裁選に出馬した野田聖子氏(61)、前法務大臣の上川陽子氏(68)が8位。「女性がリーダーになるべき時代だ」という意見は数多く寄せられた。

農水族の重鎮に土下座

次に、「5年後の総理」ランキングをみていこう。

「5年後の総理候補」ランキング
1位 福田達夫 28票
2位 河野太郎 14票
3位 林芳正 11票
4位 萩生田光一 6票
5位 泉健太 5票
6位 小川淳也 4票
7位 高市早苗 3票
7位 小渕優子 3票
7位 小林史明 3票
7位 田村智子 3票

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