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「受験改革で英語力はアップするか」「ぺらぺら」礼賛で迷走する英語「4技能」看板

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「受験改革で英語力はアップするか」です。
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文・阿部公彦(東京大学大学院教授)

「英語民間試験」が混乱を呼んでいる。2020年度の大学入試から、GTEC、英検、ケンブリッジ英検といった業者テストが「大学入試共通テスト」とともに新しく導入される予定なのだが、試験実施の開始まであと数ヶ月(2019年10月現在)というのに、テスト内容以前の、運営面での「不具合」が次々と明らかになっている。たまりかねた全国高等学校長協会は「延期および見直し」を求める請願を文科大臣に提出、受験生や保護者からの苦情も各所に殺到している。

 問題はこれにとどまらない。民間試験活用は、すでに数多くの課題が指摘されてきた。主なものでも以下の通りだ――試験機会の不平等(受検料が高額。会場も都市部に偏っている)。試験業者が自ら問題集作成や対策講座を行う「利益相反」(金をかけ「対策」すれば点数はあがるが、必ずしも英語力は身につかない)。診断を目的としたテストを選抜に使うことの弊害(テスト問題は頻繁にリサイクル。その流通を食い止めるのはほぼ不可能)。スピーキングテストの採点への不信。障害者への配慮不足等々。

 根本にあるのは構造的な欠陥である。大学入試を民間業者に丸投げするというシステムそのものが問題なのだ。業者は採算がとれるかどうかを最優先する。受験生や、ましてや大学のことなど 二の次だ。点数が出やすくして、受検者を増やそうとしたり、コスト減のために信頼度の低い採点者を採用したりする。他方で、文科省は試験については責任をとらない。にもかかわらず国立大学には半ば強制的に試験の活用を押しつける。不正やトラブルがあっても、被害に遭うのは受験生や大学で、テスト業者は責任をとらない。このような歪みを抱えた制度では、いくら場当たり的な対応をしても次々に新たな障害が起きるだろう。

 にもかかわらず、民間試験導入は強行されようとしている。現時点で、もはやこの政策を擁護する合理的な説明はほとんどなく、聞こえてくるのは「やめるとかえって混乱する」という消極的な理由だけだ。この制度は、開始前に実質的に破綻しているのである。そうしたシステムを強行する姿勢には、この国の行政の機能不全が見える。

入試民営化の陰にある幻想

 なぜこのような事態が生じたのだろう。原因として思い浮かぶのは、私たちが長らく抱えてきた「英語コンプレクス」の根深さだ。それは西洋文明に対する過度の「憧れ」と、その反動としての「反発」に由来する。今回も政治家や国立大学協会の幹部など、責任ある地位にある人が「制度にはいろいろ問題があるが理念はまちがっていない」との発言を繰り返した。果たしてそうだろうか。彼らはその理念をほんとうに精査したのか。

 民間試験の推進派が拠り所にしたのは「これまでは2技能、これからは4技能」との看板だけだ。予想されるデメリットには一切触れていない。耳に心地の良いところだけ聞かせる、いわゆる「バラ色商法」である。運用面の数え切れない課題もはじめからわかっていたのに、それらを隠蔽し「ここまで来たらやるしかない」と押し通した。その挙げ句のこの混乱である。はじめから「民間試験ありき」で進められた利権誘導の政策だと言われても仕方ないだろう。

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