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藤崎彩織 ねじねじ録|#14 一人の味【最終回】

デビュー小説『ふたご』が直木賞候補となり、その文筆活動にも注目が集まる「SEKAI NO OWARI」Saoriこと藤崎彩織さん。日常の様々な出来事やバンドメンバーとの交流、そして今の社会に対して思うことなどを綴ります。

Photo by Takuya Nagamine
■藤崎彩織
1986年大阪府生まれ。2010年、突如音楽シーンに現れ、圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感で「セカオワ現象」と呼ばれるほどの認知を得た4人組バンド「SEKAI NO OWARI」ではSaoriとしてピアノ演奏を担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。初小説『ふたご』が直木賞の候補になるなど、その文筆活動にも注目が集まっている。他の著書に『読書間奏文』がある。

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一人の味

 結婚してから、一人で何かをすることが増えた。
 夫とは付き合いも長いので、いつまでも付き合いたてのようにラブラブという訳にはいかないけれど、不仲という訳でもない。小さな子供がいるので、どちらかが子育てをしている間に一人ずつ自由な時間を作るようになったのだ。
 誰かと一緒にいるからこそ楽しい時間が過ごせるのだと思い込んでいた私にとって、最初のうち、一人の時間は多すぎる空白だった。誰かと過ごす余暇を、街並みが描かれている絵に月や星を書き足すようなものだと例えるなら、一人の時間は2メートル以上ある画用紙を渡されて、好きなものを描いて良いと言われたようなものだった。
 夫でなくても友達を誘えば良いのだろうけれど、コロナ禍のさなかに、夜中まで呑み歩ける訳でもない。翌朝子供を保育園へ送ること、その後の仕事のことを考えると、そんなに長い時間出歩ける訳でもないので、めいっぱい自由時間を楽しむには一人で何か出来るようになった方が効率的に時間を使えると思い、私は街に繰り出すことにした。
 まず、一人で映画に行ってみようと思い立った。19歳で男ばかりの仲間たちと一緒にライブハウスを作り始め、200万もの借金をし、週に一度しか風呂に入らずにバンドに打ち込むというワイルドな生活をしていた割に、私は一人で映画に行くのが怖かった。
 行くのが怖いのではなく、行った後に話す相手がいない喪失感を味わうのが怖いのだ。
 俵万智さんが詠んだ、『寒いねと話しかければ寒いねと答える人のいるあたたかさ』という有名な句がある。
「面白かったね」と言った時に「面白かったね」と言ってくれる人が、または「つまらなかったね」と言った時に「つまらなかったね」と言ってくれる人がいなければ、結局ただ寒いだけの日になってしまうのではないかと恐れ、足が遠のいてしまっていた。

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