
【53-社会】【少年法改正は社会をどう変えるか】 社会の成熟に逆行すれば更生の機会が奪われる|坂上香
文・坂上香(ドキュメンタリー映画監督)
少年犯罪の厳罰化
刑務所を見ればその社会の成熟度がわかる。こう言ったのは文豪ドストエフスキーである。成熟度とは、秩序を乱した「犯罪者」に対する社会の眼差しだ。
では行為者が未成年の場合はどうか。
日本には少年法や、少年院などの矯正教育施設がある。処罰が基本の刑法や刑務所とは異なり、罪を犯した少年の「育ち直し」と環境調整が目的で、個別対応がなされる。ここに、少年の可塑性を信じる社会の眼差しがあると言える。
その理念が危機に立たされている。少年犯罪の検挙数も、重大事件数も、少年院の収容率も全て減少傾向であるにもかかわらず、2000年以降、厳罰化を意図した改正が4度も繰り返されてきた。そして今再び改正が目論まれている。
法相の諮問機関である「法制審議会少年法・刑事法部会」が3年半に亘る検討の末、答申案を取りまとめた。その要綱には18歳及び19歳のみを対象とした新たな手続きや処分が特記されている。
現行法では死亡事件のみが原則逆送(家裁から検察官に送致)だが、要綱では1年以上の懲役・禁錮相当の罪は原則全て逆送となり、成人の刑事手続きが適用される。加えて現在禁止されている少年の実名報道は18、19歳に限り、起訴後は可能になるなど実質的な厳罰化だ。
そもそも今回の改正の発端は、18歳以上に選挙権が付与された公職選挙法と、22年に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる民法改正だった。少年法の適用年齢も合わせて引き下げる声が自民党内で上がり、部会を設置した。
しかし、喫煙、飲酒、競輪などは20歳に据え置かれたままだ。法律の適用年齢は趣旨や目的に合わせ個別に検討すべきで、一致させる必要はないと学者らは指摘する。14年には法務省も政府質疑の資料で「必要なし」の見解を示した。
少年法対象年齢の引き下げという最大の争点に関しては法制審内でも意見が割れ、「立法プロセスに委ねる」と判断を国会に丸投げする形で終わった。
この一連の流れから透けて見えるのは、犯罪の拡大、子どもに対する大人の責任放棄(自己責任化)、与党に対する忖度などで、社会の成熟に逆行する。
罪に向き合うためのプログラム
私が監督したドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」の4人の主人公は20代の若年受刑者で法的には成人だ。しかし、見かけも言動も少年と変わりなく、2年間の撮影を通して若年層の可塑性を強く感じた。入所当時「被害者も悪い」「自分も被害者だ」と加害者であるのに被害感に囚われ、自己憐憫に浸っていた彼らは大きな変化を遂げた。
舞台は官民協働型刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。犯罪傾向の進んでいない初犯男性が対象だ。傷害致死や強姦などの重犯罪者もいるが、多いのは詐欺や窃盗などの軽犯罪者である。